第3話 旅は道連れ?
黒髪のレベル1の男は征四郎と名乗った。
マントの下、腰のベルトにはホルダーがあり、そこに刀を差している姿は、かなり強そうに見えるがレベルは1。
確かに低レベルのモンスター狩りだけど、危なくないかなぁ……。
「少し危険ですけど……」
「この歳まで生きて居るんだから、そこは気にせずとも大丈夫だ」
……ああ、そうか。この人レベル1だけど、俺より年上みたいだし、生き抜く術は持っているんだな。
モブとは言え生きて居るんだ。考えてみれば、当たり前だけど指摘されてなんかちょっと感動した。
……それにモンスターなら俺がどうにかすれば良いんだし。
「じゃあ、一緒に行きましょうか? どちらまで行くんです?」
「この先の森を抜けた、荒野の奥」
「それって結構遠いじゃないですか、それにあの荒野って……」
「ああ、手ごわいのが出るって話だね」
大丈夫なのか、この人。
俺は征四郎さんの暢気な様子に不安を覚えた。
場合によっては送った方が良いのかなとまで、俺は考えていた。
俺の今回の狩場は森だったから、まずはそこまでと言う話になった。
場合によっては、その後で送る事を申し出よう。
そんなこんなで森に付いた俺達。
早速、俺は低レベルモンスターのワイルドボアを狩り始めた。
レベルは低いのに耐久力が高め、毛皮も厚く防御力もあるワイルドボアは非常に面倒な相手だ。
ユーリが面倒だからと嫌がるのも分かる。
何せこの世界のワイルドボアはゲームと違って、一撃とは行かないから。
俺は嘆息しつつ小型の盾と長剣を構えてワイルドボアへ攻撃を加えた。
「もう少し腰を落として剣を振った方が良いんじゃないかい?」
「え、でも、それだと剣を振る速度が遅くなるんで……」
「転移者は皆、剣を振る速度を大事にするが、踏み込みや足捌き、それに体重の比重は気にしないのだね?」
「攻撃を早く当てる事が大事なんで……」
攻撃を加えた俺の動きを見て、征四郎さんがそんな事を言う。
アビスワールドでは、あくまで攻撃を上手く当てる事が大事だった。
当てさえすればダメージが入ったし、相手は怯む。
でもここのワイルドボアは一撃与えても怯まないし、手負いの方が返って危険な場合もある。
現実とゲームの違いなんだろうけれど……非常に面倒だ。
「あの猪を腰を落として、じっくり狙って切ってみると良い。ロウ君の速さならば可能だと思うよ」
「え?」
征四郎さんは少しだけ可笑しげにそんな事を言った。
何だかなぁとは思ったが、ちょっとだけ、さっきの征四郎さんの言葉が気になって腰を落としてた戦ったら、反撃を喰らい難くなったから試してみる事にした。
八匹目のワイルドボアが、涎をまき散らしながら鋭く尖った牙を掲げて突進してくる。
俺は小さく息を吸って、その動きをじっと見据えていた。
いつもならば、剣を振る間合いに入っても待ち続ける。
そして、一瞬の後に踏み込みながら剣を振るうと、今まで感じた事が無い手応えを感じた。
――驚いた。ワイルドボアは一撃で瀕死の重傷を負っている。
半ば以上胴体を断ち切られたワイルドボアを見て、目を丸くする俺。
今までは分厚い毛皮の所為でそこまで深く傷を負わせた事が無いからだ。
いや、『剣聖』特有のパッシブスキルで俺の二倍の剣速を誇るユーリでもここまでダメージを与えた事は無い。
「おや、お見事!」
征四郎さんがそれを見て拍手した後、懐からナイフを取り出してワイルドボアを捌きだした。
その日は森で野営する事になった。
さっきの剣の振り方で、ノルマを達成するべく夕方まで頑張ったからだ。
慣れるにしたがって、討伐の速度は上がったが、普段使わない筋肉を使ったのか節々が痛くなった。
そんな俺の様子を笑いながら征四郎さんは野営に適した場所を見つけて火をおこす。
ワイルドボアの肉をその火で焼いている間、話題が俺がここに来てからの日々の物となった。
半分以上愚痴だ。
「それは大変だったね。確かにその娘の力は大したものだが、精神的に危うい感じがする。忠言も聞き入れないとなると、心配だ。少し距離を置く必要があるんじゃないか?」
「でも、ずっと一緒だったんですよ。こっちに来てから確かに少し……と言うか大分おかしいけれど」
「別に見捨てろと言っている訳では無いよ。ただ、今回の様に小さな仕事は一人でもできるんだから、離れてみる事が互いにとって良いのではないかな?」
無理強いはしないけれどと、焚き火でワイルドボアの肉をあぶりながら征四郎さんは言った。
やっぱりこの世界で今まで生きてきただけはあり、征四郎さんは色々と出来た。
火もおこせば、食える魔物も捌く。
十は年が違うと思うけれど、現実でもオンライン上でもその位、年の離れた人とじっくり話した事は無かった。
「君の幼馴染も、君自身も互いに依存している部分はあると思う。二人だけならば何も言う必要はなかったのだろうが、そこに軽薄な取り巻きが群がると話は拗れる一方さ」
「……」
「さて、しっかり焼けたよ」
木の棒を加工した串に刺さったワイルドボアの肉を差し出して、彼は静かに笑った。
森での野営と言う事もあり、互いに順番で眠る事にして、もう一人は見張りをする事にした。
俺の見張りの番になると、考える時間がある所為か、色々と考えてしまう。
征四郎さんは互いに依存していると言ったが、ユーリが俺に依存している可能性はないだろう。
俺くらいの実力者なら、探せばそれなりに見つかるはずだ。
スチュワートもそうだが、課金アイテムをいくつか持っていればレベルが同じくらいでも、戦果は変わってくる。
確かに俺は器用では無いけれど、毎日罵倒されるだけの人生なんて、それこそ馬鹿みたいだ。
今、寝ている征四郎さんはレベルが1でもこの世界で生きていける。
レベルが70もあるのに、俺一人で生きていけないって事は無いだろう。
俺を知る人が誰も居ないのは心細いけれど、転移者同士でつるまなくても良い訳だし……。
それに、ユーリですら数撃与えなきゃ倒せないワイルドボアを一撃で瀕死に出来たんだ、戦い方を変えて低レベルのモンスターと戦っていけば駆除屋くらいはできるんじゃないかな?
そんな事をつらつらと考えていると、いつの間にか夜が明けかけていた。
俺はワイルドボア討伐の証である尻尾50本を持って、街に戻る事にした。
その金をユーリに渡して、彼女から自立するために。
そう、自立だ。
俺は知らずにユーリに依存してたのかも知れない。
それが、重荷になってしまってユーリも言葉がきつくなったのだろう。
見張りの間に纏め上げた考えを征四郎さんに告げると、それも一つの手だろうねと頷いていた。
そして、自立するならば一緒に荒野の奥地に行ってみないかと誘ってくれた。
何でもそこには転移者が不遇職の村と呼んでいる村があるとか。
それはそれで面白いかなと思い、俺は頷きと共に是非にと答えていた。