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着衣族来島

それから数日かけておじいさんとおばあさんは島中の村を回って赤ん坊の親を探したが見つからなかった。

 この子はきっとゴッド・ゼンラの使いだと解釈したおじいさんとおばあさんは、二人で育てることにした。

 名前は創世神の名前をもらってゼンラ。

 二人の子供なのでスッパダカ・ゼンラ。

 ゼンラはすくすくと成長し、立派な男の子になった。

 そんなある日のこと。

 ゼンラが近所の子供達と全裸鬼をしていると、村に誰かがやってきたようだった。他の村から客人が訪れるなんていうのはよくある事なのでゼンラ達は始めは気にしていなかったが、徐々に村全体が騒がしくなり周囲の大人達が慌てて村の入り口に走って行く。

 やって来たのはどうやら珍しい来訪者らしい、と理解したゼンラ達は大人達と同様に村の入り口に向かう。

 大勢の大人で賑わっている村の入り口はとても騒がしかった。

 どのような客が訪れたのかは、大人達が邪魔になってゼンラには見えないが大人達の反応から察するにどうやら好ましくない人間がやって来たようだった。

 このような事は今までなかったので好奇心をそそられたゼンラ達は大人と大人の間に身体を滑り込ませて人垣の前に出た。

 そこにはなんと衣服という布で全裸を覆った変態がいた。


「なっ!?」


 ゼンラの顔は一瞬にして真っ赤になる。


「お、お前たちっ! 服を脱げ!」


 あまりにハレンチな格好をした異国の者達を見ていられなくてゼンラは顔を背けて叫ぶ。ゼンラはまだまだ初心なのであった。

 すると周囲の大人達がゼンラに乗っかって口々に「服を脱げ!」「そうだそうだ!」「裸を見せろ! 服なんて着るんじゃない!」「着衣など邪道・・・・・・! 全裸こそ至高であると何故気付かぬ・・・・・・!」「私たちのように全裸になりなさい!」と変態達を非難する。

 一通り裸族の非難が収まると、今まで勢いに押されて発言できていなかった衣服を着た変態達のリーダーらしき男が顔を真っ赤にして言う。


「変態なのはお前達だ! お前達こそ服を着ろ!」

「そんな卑猥なものなんて着れるか! アホ! なんで俺たちが進んで変態にならなきゃいけないんだ!」


 ゼンラは初対面なのも忘れて自分と同年代ぐらいの変態を罵倒する。


「お、お前達には羞恥という感情がないのかっ!?」


 ちらちらとゼンラの友人の少女を見ながら言う変態。


「お、お前達こそ野蛮人としか思えんな! ちゃんと服を脱げ!」


 ちらちらと衣服を着ている少女を見ながら言うゼンラ。

 しばらく睨み合う両者。

 先にしびれを切らしたのはゼンラだった。


「駄目だ、こうしていても埒があかない!」


 ゼンラは言うと右手を前に突きだし、瞼を閉じる。


「?」


 刹那の内に極限まで集中したゼンラは首をかしげる変態に構わず詩を紡ぐ。


「【神の代理たる我が原初の喜びを与えよう】」


 起こす奇跡を指定したゼンラは、カッと目を開いて起句を唱える。


「【全裸】!」


 裸界から取り出した裸力がゼンラの右腕から迸り、対面する変態達に迫る。

 変態達は得体の知れない光に、しかし、脅威を感じ取ったようで回避行動を取るがもう遅い。

 宙を駈ける裸力は対象の元に到達すると、大口を開ける蛇のように一瞬で広がり異国からの来訪者達を飲み込んだ。

「レジェンド全裸」である事を証明するかのような凄まじい裸法の冴えに他の裸族が舌を巻いていると、やがて変態達を包んでいた光が晴れた。


「ふぅ、これで良し。さて、要件は何だ?」


 異国からの来訪者が見慣れた姿、すなわち全裸になったことに胸をなで下ろしたゼンラはそう問いかけた。


「いや、良くねえわ! なんで俺たち全裸になってんの!?」


 股間を隠しながら異国の少年が叫ぶ。

 その反応を不思議に思って異国の者達を見回すと、全員が己の局部や胸を腕や手で隠していた。


「? どうしてお前達は股間などを隠しているんだ? 見せびらかすものだろう?」


 裸族の常識をゼンラは述べる。


「違うから! 隠すところだから! もう服は着なくても良いからせめて一部だけは隠させてくれ!?」


 前屈みになった少年が必死に言う。


「いや、無理だ。俺の今使った裸法は、一定時間衣服はもちろん、全ての全裸概念もまとえなくなるものだからな」

「はぁ!?」

「まあ郷に入っては郷に従えと言うだろう? 俺たちに用があるならちゃんと全裸で過ごせ」

「無理だから!?」


 しばらくぎゃーぎゃーと喚いていた異国人達だったが、しばらくすると落ち着いてきたようで俺たちにこの裸島を訪れた目的を話し始めた。

 曰く『我らの支配を受け入れろ。さもなければ皆殺し』。


「あぁん? 一生全裸で過ごすことになる裸法かけんぞ、オラ」


 ふざけた事を抜かした変態にゼンラは青筋を立てて右手を突き出す。


「マ!? え、どうしよ・・・・・・」

「どうしよ、じゃありません。脅されないでください」


 焦った様子のリーダーらしき少年に副官と思われる少女が呆れた目を向ける。全裸で。


「そ、そうだな・・・・・・こほん」


 言われて赤くなった少年は己の役目を思い出したのか、小さく咳払いをする。

 ゼンラの方へ戻された少年の顔は既に引き締められていて、先ほど股間を必死に隠していたとは思えない。おそらくいくつもの修羅場を乗り越え、若くしてこれほどの地位に上り詰めたのだろう。全てが丸出しだが。

 ゼンラは若干気圧されつつそれを感じ取った。


「調子に乗るのは止めておけ。俺たちは今、一万の軍勢を引き連れてこの島を訪れている」


 凄みのある少年の言葉を聞いて冷や汗が浮かんだゼンラだったが、どうせデタラメだろうと思い直し余裕の表れとして口の端を吊り上げようとする。

 そのとき。


「スッパダカ! めちゃくちゃ大量の変態を乗せた船が島に停泊してる! こいつらマジでやばい変態だぜ!」

「ちゃうわ! アホ!」


 息を切らしたゼンラの友人の言葉が目の前の少年が嘘を言っている訳ではない事を証明した。


「くっ・・・・・・子供達の教育に悪いな。全員全裸にするか」


 ゼンラは言って、両腕を空に向ける。


「止めて!?」

「駄目ですこいつら。めちゃくちゃです。もうやっちゃいましょう」


 悲痛な叫びを上げる少年に、冷静な副官は野蛮な進言をした。


「えっ?」


 ゼンラは目を丸くする。


「そうだな・・・・・・出撃じゃあ!」


 少年が号令をかけると辺りにいた兵士達が雄叫びを上げ、それが徐々に伝播していき島全体を揺るがすほどの怒号となる。

 あまりにあんまりな急展開についていけなかったゼンラを目の前の少年の刃が襲う。

 ゼンラは一瞬のうちに「全裸・モード:ゼンラ」を発動させるとそれを危なげなく回避する。


「ちっ・・・・・・ここで一番やばそうなお前を倒せてれば楽だったのにな」

「【全裸全裸。嗚呼、全裸。全てがさらされ偽りなし。風を感じ、熱を感じ、痛みを感じ、世界を感じる。これすなわち正義なり。故にその身体朽ち果てるまで全裸で過ごすに勝る幸せなし】」

「えっ、ちょっ、待って? 何しようとしてるか知らないけど待って?」


 声が空気に乗る度に強くなっていくゼンラを包む光に、危険なものを感じた少年は剣を振り抜いた姿勢のまま懇願する。


「【終わらぬ全裸】」


 ゼンラが腹いせに少年に向けて放った裸法にともなう裸力が一筋の光となって、打ち出された矢のように少年を貫いた。


「・・・・・・うん? 俺、なんか変わった?」

「いえ? 何も?」


 しかし何か起こった様子がないので少年と副官は揃って首をかしげる。


「お前は死ぬまで全裸だ。じゃあな。俺はお前らの連れてきた変態を全員全裸にするのに忙しい」


 ゼンラは言って、アーマード全裸を纏う。


「待って!? 俺一生全裸なの!? 解呪して!?」

「お前らが降参したらな」


 ゼンラはそれだけ言い残して全力で地面を蹴って人の多そうなところに向かう。


「えぇ・・・・・・」

「安心してください。わたしも一生全裸で過ごします」

「おお、そうか。じゃあラブラブしよう」

「そうですね」


 少年と副官はラブラブし始めた。


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