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008「嵐の前の静けさ」

 舌を噛んだりお尻が痛くなったりしそうなほど揺れる馬車から解放され、私たちは小さな宿場に泊まっている。部屋は男女別に二つだけど、ちょっと気になることがあったので、私の部屋でキャネルさんがレオくんと何やら相談してるあいだに、入れ替わりでジャンさんに質問をすることにした。


「馬車で移動できる距離は、一日およそ四十キロメートル。辺境伯の王宮から選帝侯の公邸までは百キロメートル少々ですから、三日もあれば到着しますよ。明日には、森を抜けて賑やかになってきますし、道も舗装されたところに入りますから、今日よりは快適に移動できます」

「そうですか。辺境と言いながら、けっこう近い気がするんですけど」

「それは、たまたま近いところにお住まいだからですよ、アミさま。選帝侯以下、公邸に住まう直系の皇族たちは、暑さや寒さを避けるため、数ヶ月おきに移動するのです。一番遠い公邸までは、途中に船を乗り換えてショートカットしたとしても、ゆうに十五日はかかる距離にあります」

「船もあるのね。船で一日に移動できる距離は、どのくらいなの?」

「ほぼ二百キロメートルです。ですから、直線距離で二千キロメートルのあまりの土地を、代々ルージュ一族が治めているとお考えください」

「二千キロメートルか。ピンとこないな」

「私は、広大だと思いますけどね。もちろん、この他にもミネット家とは別の辺境伯が治める土地や、教皇領、自治領、未開地帯などがありますから、この世界全体は、もっともっと広いですよ」


 なんだか話のスケールが壮大になってきちゃったな。このへんで、半径五メートル以内にダウンサイジングしておこう。


「そういえば、隣の部屋が静かすぎませんか? さっきまで、話し声や物音がしていたのに」

「はて。講義に夢中で気が付きませんでしたが、言われてみれば、何も聞こえませんね。様子を窺いに行きますか?」

「はい」


 そして私は、ジャンさんと一緒に部屋に移動した。すると、二人の姿は消えていた。


「どこかへ出かけたんだろうか?」

「フム。……おかしいですね。今は、安全に道中を移動することを最優先しなくてはいけないときです。部屋を離れるなら、ひとこと我々に断りを入れそうなもの。……はたして、この短時間のあいだに、二人の身に何があったのやら」

「書き置きもなさそう。もぅ。仮にも結婚したいと思うほど惚れこんでるのなら、私のことを気遣ってほしいものだ」 

「気を遣う余裕も忘れるくらい、何か衝撃的な出来事でもあったとしたら?」

「いやいや。考えすぎよ、ジャンさん。落ち着きましょう?」

「私は、至って冷静ですよ。とりあえず、下に降りて女将さんに訊いてみることにしませんか? 日が暮れてから森に出るのは、視界が利かず、非常に危険ですからね。杞憂で済めば、それに越したことはないのですけれども」


 夜という時間や、普段とは勝手が違う場所であることを視野に入れ、また、心配性のジャンさんを安心させるためにも、私は楽天的に振舞うことにした。


「そうね。取り越し苦労に過ぎなくても、ハッキリさせたほうがスッキリするわ。行きましょう!」


 このとき私は、何気なくジャンさんの手を引いて下に降りたんだけど、まさか下で、あんなことが起きてるなんて思わなかった。

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