006「猫をかぶることになった」
ディナーはショッキングピンクの豆のスープと、レモンイエローをした魚のムニエルであった。慣れというのは恐ろしいもので、私は何の迷いも疑いも無くスプーンやフォークを動かし、それらを口に運んだ。
豆はソラマメに似て、スープには塩が利いていたし、魚は鮭に似て淡白だった。ジャンクにガツンと来るものが無いけど、素朴で美味しかった。それに、心なしか健康にも良さそうな気がする。詳しい栄養価は、知らないけれど。
「ディナーは、美味しかった?」
「はい。とても」
「ここでの生活は、馴染んできた?」
「はい。それなりに」
「僕と結婚してくれる?」
「お答えしかねます」
「ガックリ」
あからさまに凹まないでほしい。限界まで垂れた黒耳が、艶やかな黒髪にベッタリくっついている。
「そんな誘導尋問のような真似をしても、私は口を滑らせないからね」
「ムゥ。なかなか難攻不落だな。作戦を立て直さなきゃ。――何かいいアイデアは無いかい、ジャン」
「はぁ。私も、いささか女性心理には疎いものでして」
急に話を振られて、ジャンさんも困り顔ね。白耳も、ソワソワと落ち着きなく動いてる。
「それより、レオさま。朝のお手紙に関して、アミさまにお伝えしなくてはならないのでは?」
「えっ。僕の口から言わなきゃ駄目?」
「私から言いましょうか? なにぶん、歳のせいか説明がくどくなる傾向にありますから、一から話し始めますと、幼少期のエピソードも交えることになりますが、よろしゅうございますか? あれは、まだレオさまが五歳の頃でしたか」
「待て、ジャン。僕から言う」
五歳のときに何があったのか気になるけど、続きはレオくんが居ないところじゃないと駄目ね。
「選帝侯の娘のエマ・ルージュ殿下が、晩餐会に来るようにと招待状を送ってきたんだ。それで、お願いがあるんだけど」
「しばらく留守にする、とでも?」
「違う、違う。留守はヘレナに任せるとして、アミには、僕と一緒に来てくれないかと思ってさ」
晩餐会か。豪勢な食事が出て、華やかに着飾った貴族たちが集まるんだろうな。
「私、マナーには詳しくないんだけど」
「心配いらないよ。そばで僕がフォローするし、ジャンも居るから」
「はい。及ばずながら、お手伝いさせていただきます」
ジャンさんがいるなら、ひとまず安心かな。分からないことがあったら、何でも聞いてみよう。
「まぁ、二人が一緒なら」
「良かった。それなら、もう一つだけ頼みがあるんだ。――ジャン」
「はい、レオさま。――人前に出られる際には、こちらを付けていただきたく存じます」
そう言って、ジャンさんは懐から、私の髪色にそっくりの黒い猫耳カチューシャを取り出した。私は、渋々受け取って頭に装着してみせたんだけど。
「どうかな? 変じゃない?」
「ピッタリだよ。――ぜんぜん違和感ないよね、ジャン」
「はい。シックで、よくお似合いです」
あとでヘレナさんにも聞いてみよう。それと、鏡を見て自分でも確かめておかなくちゃ。