002「恩返しなら結構です」
「話を整理させてください。私が助けた黒猫は、この辺境伯領の王子さまだったんですね?」
「さようです。アミさまがお助けになったのは、仮の姿で現代日本にお忍び中だった、レオ・ミネット辺境伯でございます」
ございます、じゃないよ執事さん。蒼い眼をして中年の渋い色気たっぷりでダンディーに澄ましてるけど、頭の上に白い猫耳があるのは、どういうことよ? 尻尾が無いことも含めて、この国では、それがデフォルト設定なの?
「それで、命の恩人である私を、この王宮に連れて帰り、さっきのメイドさんに手当をさせたんですね?」
「はい、その通り。いきなり異世界間を転移されたことにより、すっかりお疲れの様子でしたので、ゆっくりお休みになれるように手筈を整えるよう、王子が命じられました」
それは助かるけど、勝手に連れてこないで欲しかったな。レオ王子とやらも、ずいぶんなことをしてくれるじゃない。
「しかも、王子さまは私に惚れこんでいて、后として迎え入れたいとの意志が強いというのですね?」
「ごもっとも。レオさまはアミさまのことを、たいそうお気に召している様子でございまして、さきほども、アミさまが目を覚ましたと知るやいなや、公務を放り出そうとするほどでしてねぇ。いやはや、説得には、いささか骨が折れました」
ご執心と言おうか、恋に盲目と言おうか。こんな幼児体型で、これといった特技や資格もない私に、どんな魅力を感じたというのだろう? 資産目当てでも無いだろうし、仮に偽装結婚だとしたって、もう少し相手を選ぶだろう。
「突然の出来事に、置かれた状況をうまく咀嚼できないことでしょうが、私もヘレナも、アミさまが立派なファーストレディーになれるよう、誠心誠意サポートいたしますので、ご安心ください」
「あぁ、どうも。ありがとう」
いやいや。話が飛躍しすぎて、何が何だかサッパリだ。でも、とりあえず、これだけは聞いておこう。
「ところで、執事さん。あなたのお名前は?」
「おぉ! これは、大変失礼いたしました。申し遅れましたが、私の名前は、ジャンでございます。よろしくお願いいたします」
「ジャンさんね。こちらこそ、どうぞ、よろしく」
メイドがヘレナさん、執事がジャンさん。そして、辺境伯のレオ・ミネット王子。覚えることが多いぞ、これは。
それにしても、四十過ぎとおぼしき男が、頭から猫耳を生やしてパタパタさせてる姿は、かなりシュールな絵面だ。