013「名誉の負傷なのか」
残虐なアクション活劇を聞いて、心臓の弱いかたが貧血で倒れないように、凄惨な修羅場については割愛させてもらうけど、結果的に、私たちは助かった。ただ、一点を除いては。
「ご注意くださいと申し上げたというのに。戦場では、一瞬の気の緩みが命取りになる」
「まぁまぁ、そうおっしゃらずに。結果的には、レオさまの詠唱が間に合って、魔物を滅することが出来たのですから、良しとしましょう」
夕暮れに宿についてからも、頭からポコポコと湯気でも立てそうなほど憤懣やるかたない様子のキャネルさんを、どうにかこうにかジャンさんが宥めている。
私は、触らぬ神に祟りなしという諺に則り、二人をそっとしておきつつ、ベッドで横になっているレオくんの様子をみながら話しかける。
「肩の傷は、まだ痛むの?」
「あぁ、凄く痛い。でも、アミが魔物に襲われないためだったんだから、我慢できる」
そう。この傷は、私に狙いすましてきた魔物が振り下ろした前脚の鎌を、とっさに身を挺して庇ったことでついたものなのである。その頼もしい背中を見て、一瞬、不覚にも胸が高鳴ったんだけど、きっと、急に激しい運動をしたことで起きた、動悸か不整脈だったんだと思う。断じて、恋に落ちたわけではない。
「想定外の足止めを食らってしまったな。晩餐会に間に合うだろうか?」
「明後日の朝までに出発すれば、その日の夕食時には城に到着するでしょう。ややタイトなスケジュールになりますが、明日は怪我の療養のため、一日大事をとって安静にすべきです」
「仕方ない。それじゃあ、明日の朝に必要な物を買い足して、改めて明後日に出発することにしよう」
「おや? 何か足りないものがありましたか?」
「女には、男には無くて良いアレコレが必要なんです」
「これは、失礼しました」
今後の予定をすりあわせているのを小耳にはさみつつ、私はレオくんにいつもの陽気さが欠けてるのが気になり、原因を探ってみることにした。
「熱っぽさは、感じてる?」
「どうだろう。自分では、熱があるとは思えないけど」
「それじゃあ、ちょっと、おでこを触るわね」
私は、そう言いながらレオくんのおでこに手を置いた。平熱は知らないけど、かなり熱っぽい。体温計があれば、四十度近くを示すことだろう。
「あっつ!」
あまりの熱さに、思わず若手芸人がおでんのコンニャクを頬張ったときのようなオーバーリアクションで驚くと、ジャンさんとキャネルさんが話を止め、二人揃ってこっちを向いた。
その瞬間、私の中に、穴があったら入りたいくらいの羞恥心が湧いてきた。そして私は、いまさらながら猫の平熱がヒトより高いことを思い出した。