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012「あと少しというところで」

 昨夜は色々あったせいか、よく眠れなかったので、どうも今朝から眠気が覚めない。そうして馬車の中でうつらうつらしていたら、停車していることに気付くのが遅れた。


「降りるよ、アミ」

「アレ? もう、着いたんですか?」

「いえ。この近くに泉がありますので、少しばかり馬を休ませるだけです。ついでに、我々もしばらく外の空気を吸って、手足を伸ばしましょう」

「あぁ、そういうことですか」


 さり気なく手を握ろうとしたレオを避けつつ、馬車を降りると、すでにキャネルさんはハーネスを外した馬を連れて泉に向かっていた。馬は、泉の近くの樹に繋がれている。


「僕、何か間違ったことをしたかな?」

「さぁ。私には、王子として、正当な気遣いだったと思いますけれども」

「じゃあ、なんでアミは僕を警戒したままなんだよ?」

「どうしてでしょうねぇ。私としては、まだ、こちらの文化に馴染んでいないだけかと思われますが、あくまで推測の域を出ませんので、鵜呑みになさらないでください」


 私は、落ち込んでいるレオくんとそれを励ますジャンさんを横目にしつつ、水を飲む馬の側に立って(たてがみ)を撫でているキャネルさんに話しかけた。

 

「森を抜けるまで、あとどれくらいですか?」

「あと少しだよ。景色が代わり映えしなくて、退屈だろう?」

 

 そう言いながら、キャネルさんは豪快に大口を開けて欠伸をした。私も、それにつられて控え目に欠伸をすると、キャネルさんはフフンと鼻を鳴らして面白がってから言った。


「たまに未開地帯からはぐれた魔物が出る以外は、平和なものだよ。パレードや祭式の護衛に比べれば、はるかに楽な仕事だ。こんなところに、王子の顔と名前を知る人間がいるはずないから、身元がバレる心配をしなくて良いのもいいものだ。街に入ったら、こういう風にノンビリしていられないから、今のうちに休んでおきなさい」

「あっ、はい」


 空を見上げながら、木々のあいだを流れる雲を追ったりなんかしたりしていると、急に馬が水面から口を離して首を持ち上げ、落ち着かない様子で耳をクリックリッと前後左右に動かしはじめた。

 その変化を素早く察知したキャネルさんは、スッと背筋を伸ばして剣の(つか)を握って構えると、油断なく周囲に目をやりながら、ピクピクと耳を動かして不審な音を探り始めた。

 私は、その背中に隠れるようにしながら、おずおずと訊いてみた。


「魔物ですか?」

「シーッ。それほど強い殺気は感じないが、何かいるのは確かだ」


 何かって何ですか、なんて間抜けな質問を頭に浮かべていると、ジャンさんとレオくんが近寄ってきた。


「一匹でしょうか?」

「あぁ。手こずるような奴じゃないだろうけど、油断は出来ない。武術も魔法も使えない人間がいると知れば、恰好の餌だと思うだろう。――レオさまも、ご注意ください」

「言われなくても、アミには指一本触れさせないさ」


 空手か柔道でも習ってればよかったか、なんて考えても仕方ない。ここは、三人に任せよう。


「大丈夫。三対一みたいだから、きっとやっつけてくれるわ」

 

 私は、馬の顔周りから伸びている手綱を握ると、蹴られないように注意しながら脇に寄り、優しく身体をさすって落ち着かせてみた。

 これには、半分、自分に言い聞かせる意味合いもある。緊張をほぐすためのルーティーンで、自己暗示のようなものだ。こうでもしないと不安で仕方ないくらい、ピリピリとした空気に包まれはじめた。さっきまでノホホンとしていたというのに。

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