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010「掛け値なしの優しさ」

「だから、値引きはせんけど、オマケは付けるんや。オマケは途中で無くなったら諦めがつくけど、値引きは底無しやからな。なんで、あの人には割引するのに、私にはせぇへんのかて言われたら、なんも言われへんやろう?」

「ハハッ。そういうことを考えてるんですね」

「フム。赤字を出さないために、適正価格を守ってるわけか」


 顎に指を添えてキャネルさんが感心してると、ユリさんは一つの例を挙げた。


「まぁ、売れればえぇっちゅうもんでもないさかい、長い目で見て損をせんためにアレコレ決まりを作って守るところは、わざわざ手間かけて、新しい団員を育てるところと似てるんとちゃうかな。手っ取り早く戦力を得たいなら、ハナから騎士として出来上がってるもんを雇ったらえぇ話やろ?」

「その通り。長期的に見て判断しなければ、騎士団が壊滅してしまうおそれがある。なるほど……」


 すごい。キャネルさんを唸らせちゃった。


「ほんで、感心してるトコ悪いんやけど。ここから、アミさんと二人で話したいことがあるんやわ。せやから、小一時間ほど席を外してもらえへんやろか、キャネルさん?」

「私のことなら、気にせず話をしてくれて構わないんだが」

「そうもいかんのや。キャネルさんが気にせんでも、私が気になるし、アミさんも気にすると思うんや。突っ込んだことを話さなアカンから、頼むわ」


 ユリさんが両手を合わせて拝むと、キャネルさんはスッと立ち上がり、私に一言だけ告げて部屋を出て行った。


「廊下にいるから、何か変なことをされそうになったら叫んで知らせるように」

「わかりました」


 ドアが閉まったあと、ユリさんはおもむろに両手を頭に持って行くと、パチンパチンとスナップボタンのようなものを外す音を立てつつ左右に動かしたあと、両耳を持って引っ張り上げる。すると、そのまま耳は頭から外れ、ショートヘアのあいだからは、黒い網と紛れもないヒトの耳が姿を現す。

 その光景に私が驚いていると、ユリさんはニヤリとしながら言う。


「私も、あんたと同じ日本から来た人間なんや。苗字は河上(かわかみ)。薬剤師やったからか、薬か毒かの見分けかたのスキルが身に付いてたさかい、こうして、このヘンテコな異世界で薬を売り歩いてるんや。あんたも、その偽耳を外したらどうや?」

「えっ! いつから、作り物だと気づいてたんですか?」

「そんなもん、その気になってじっと観察してれば、すぐわかることやないの。いくら見とっても、ちぃとも動かへんのやから」

「あっ。……それもそうですね」

「何があったんか、私に話してみ? スッキリするはずや」

「……はい」


 私が己の愚かさに気付いて恥ずかしがっていると、ユリさんは私の背中にそっと手を添えた。私は、その手の温かさに、どこか安心感を覚えたのであった。よく分からないけれど、きっと、一人じゃないと思ったからだと思う。

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