ー Are you ready? ー
「はい、お水ー。」
沈黙を破るかのようにテンションMAXの千尋ちゃんが戻ってきた。
コースターを敷いてその上にグラスを置いた。
とてもスムーズに。喫茶店かと言わんばかりの動きの滑らかさだった。
今度は私と酒井くんの間に入るようにぼふんっと座った。
「二人ともどうしたのさー?」
その声は、画面を見てかたまっていた私たちの硬直状態を
解きほぐしてくれるみたいだった。
「あ、ついに赤い部屋見ちゃうわけだね!」
画面に目をやると、すぐに彼女は反応した。
私たちは、少しばかりためらいと戸惑いが交錯したような
ぎこちない空気を出していた。
そもそも赤い部屋を調べるという名目で集まったわけなのだから、
このページを開くのは筋として通っている。
けれど…先ほどの不可解な現象を見た後だと
どうしても嫌な予感が拭えないのだ。
困っている私たちを見て、
千尋ちゃんは早く見ようよ!ってせわし立てていた。
「実はさっきね…」
そう言って酒井くんは先ほどの奇妙なことについて話していた。
私はこう思った。
酒井くん…そりゃ火に油だよ…(-"-;)
案の定、先ほどよりもテンションが上がり、素敵な感じになってしまった。
どうやら酒井くんはこういうことに関しては疎いらしい。
怖いものも彼女のテンションの前では引いてしまう気がする。
「いよいよだね!ここまできたら、もうやるしかないね!」
鼻息を荒くしながら、興奮MAX。
誰かこの子を素敵な世界へ連れて行ってくれませんか?
非常に重たい空気なのになぜにこの子には通用しないんだろうか。
こういう現象が起きたってことはもう始まっているって証拠。
選ばれたって証拠なんだよね。
どうしてこうも厄介事を千尋ちゃんは引き寄せてくれるんだろう。
これから起きる何かはきっと笑い話に出来るものじゃない。
ああ…あのとき千尋ちゃんを助けなければよかったかなー。
なんて今更後悔しても遅いか。
仕方ない。そろそろ腹をくくるとしましょう。
気が重いって思ったけど、私はついに決めた。
「千尋。酒井くん。」
空気を変えるように私は口を開いた。
「これからたぶん、あまりよくないことが起きる。
よくないことが起きるって分かっていても、
それでもこの赤い部屋を調べる?」
「そりゃあ、ここまで来たからにはね!」
「僕は…」
千尋ちゃんは想定通りだけど、
さすがに酒井くんはちょっと怯え気味だよね。
「そこまで…危険を冒す必要もないんじゃないかな…
掲示板の情報もあるし、ほんとに久遠さんの言う通り、
嫌なことが起きる気がする。
出来たら、このまま調べないっていうのもありなんじゃ…」
「それは大丈夫だよ。」
千尋ちゃんは即答で自信満々に言い放った。
「美山さんは大丈夫かもしれないけど…」
「違うよ。」
酒井くんに目を見て真剣に、揺るがない眼差しで千尋ちゃんは続けた。
「私が大丈夫なんじゃない。
由希ちゃんがいるから絶対大丈夫なんだって。ね?」
「久遠さんが?」
酒井くんはすごく戸惑った顔をして私の方を見た。
そりゃそうだろう。
こんな事態になって私一人いたら大丈夫って言われても
説得力はないでしょうね。
私に何ができるのって?不思議そうな顔している。
ともかく不安そうだ。
「ともかく、由希ちゃん信じていれば絶対大丈夫だから。ね?調べよう!」
「そ、そんなに言うなら…」
千尋ちゃんは半ば超強引に酒井くんを納得させた。
出来れば、私もさっきの酒井くんの案に乗って
何もせずに終わらせたかったんだけどね。
でも、たぶん逃げられない。
かえって一人になったときのほうが危険度が高いと踏んだから
この場で終わらせようと思ったの。
この赤い部屋。
いったい何が待っているか分からないけど、
ここまできたら開くしかない。
正直言って嫌だなぁ。
私だって怖いんだぞ?
でも…
由希ちゃんがいるから大丈夫…ですか…。
私は少しため息をついてから呟いた。
「千尋。酒井くん。危険だって思ったときは、
極力私のそばから離れないでね。」
「分かってるよー。じゃないと由希ちゃん呼んだ意味ないじゃん。」
「よく分からないけど、分かった。久遠さんを信じてみるよ」
ありがとう。
不安だっていうのは分かったけど、
それでも、
信じてくれるって言ってくれたのが嬉しかった。
それは同時に重たくもあるけどね。
「みんな、心の準備はいい?」
声を出さずにみんな頷いた。
酒井くんがゆっくりマウスを動かして赤い部屋にカーソルを合わせる。
各々に想いは違うだろう。
不安も感じるし、
好奇心も感じる。
いろんな想いが入り混じっているけど…
この先にその答えがある。
「じゃあ、始めますか。」
カチ。
私たちは緊張感が走る中、赤い部屋のページを開いた。




