ー 赤文字 ー
「何がおかしいかって、
まず、検索したことがあるのにこの画面見るのが初めてってことだよな。
同じ言葉を検索していて、
リンク先が表示されないなんてありえないんだけどね…。」
「え?男の子だからじゃなくて?」
「それはちょっと難しいかな。」
ははっと苦笑いしながら、千尋ちゃんに返していた。
そんな男とか女とかで検索に制限かけるパソコンあったら見てみたいわ(‐公‐;)。
「私のパソコン女の子だからなー。男の子びいきするものだと思っていたのだけどー。」
そんな考えがあるんですねー。
うーん。ちょっと千尋ちゃん黙ってようか?
私は心の中で満面の笑みを浮かべていた。
「それも確かに変なんだけど、リンク先の文字。
赤文字じゃん?赤文字っていうのは基本的に…」
「閲覧済みっていうのを意味するよね?」
「そう。でも、このページを初めて見るってことは、閲覧されてないってこと。」
「それって大事なことなの?」
「うーん。大事っていうか、変なんだよ。
赤文字にならないっていうのなら、まだ分かるけど、
始めから全部赤文字っていうのがおかしい。
インターネット上の設定っていうのはセキュリティが半端じゃないし、
そう簡単にいじれるもんじゃない。
仮に出来たとしても、インターネットポリスに狙われるような…そこまで
危険を冒してまでやる意味もないんじゃないかな。」
酒井くんの話は、パソコンについて詳しくない私でもそれが異常だということはわかった。
きっとそれは私だけでなく千尋ちゃんも分かったんじゃないかな?
不穏に光るパソコンの文字。
私は違う検索結果が表示されたことに気を取られていて、文字が赤いことに気付いてなかった。
今考えると確かにそれもおかしい。
というか、真っ先に気付くべきことじゃないか?
とりあえず…嫌な予感がする。
だって
話を聞いていたらさ、
今目の前で起きていることは恐らく人為的なものじゃない。
そういうことでしょ?
少しだけ冷たい空気に変わり、沈黙が辺りに満ちる中、酒井くんが口を開いた。
「実は僕も事前にちょっと下調べしてきたんだけど、
僕もこのページを見るのは初めてなんだ。
美山さんや久遠さんが言うようにこんなにたくさん表示されなかった。
もちろん他のページも調べてきたけど、
この前話してたが真っ赤な目の女の話ばっかりだった。
この赤い部屋の話はネットでもたくさん書かれていると踏んでいたんだけど、
なぜかその記事については全くなかったんだ。」
酒井くんの話は落ち着いていたけど、どこか不安を感じさせた。
「この時点で僕もおかしいって思ってね。とある掲示板に書き込みしたんだ。
某有名で巨大な掲示板にね。
赤い部屋の話を知りませんか?
そしたら、返事は続々と返ってきた。
赤目の話ばかりかと思っていたが、
意外にもこっちの赤い部屋の話について話が出てきたんだ。
検索されない赤い部屋。
みんな打ち込んでいても気付いたらそのページは無くなってしまうんだってさ。
その中でひとつの記事があった。
赤い文字の赤い部屋は見てはいけない。
それが赤い部屋の入り口なんだって。
その書き込みが上がったとき、
すぐに反応があって誹謗・中傷、便乗犯・愉快犯。
瞬く間にコメントが増えたかと思うと。
その書き込みは消えた。
ま、作成者が消したんだろうなって思ったし、そう思うのが普通。
少し気になったけど、他のトピも見ようと思ってトピを一覧表示したんだ。
そのとき、今度はトピックが消えていた。
作成者は僕だ。僕か管理人じゃない限り消えることはないのにね。
まるで何事もなかったみたいに消えていたんだ。
少し嫌な予感がしたけど、気のせいだって思うことにしたんだ。
そのままパソコンの電源を切った。
そして、今日ここにきてまた同じように検索をかけたらさ、
僕が見ていたようなページばかりが出てきて、結局何も見つからない。
結局赤い部屋なんて噂話だったんだねって笑い話に出来ると思っていた。
でも、どうやら…。」
いつになく真剣な…味わうことのない空気が張り詰める。
「そうもうまくはいかなさそうだね。」
パソコンのディスプレイのライトが妙に明るくて、それがとても不思議だった。
静かにパソコンの電磁音が聞こえる。
無機質な音で空気は支配されていた。
赤い部屋。
この文字だけがとてもきれいにディスプレイに映っていた。




