ー 序章 ー
「ねぇ。由紀ちゃん
赤い部屋の話知ってる?」
中間テストの2日目が終わり、みんな早々と帰りだしている時だった。
私も部活が休みだし、明日は苦手な数学だったので早めに帰ろうと思い準備していた。
「何それ?」
「このまえクラスの男子がね、話してたんだけどさー」
「何?家の話?」
そう私が聞き返すと、一瞬きらっと目を輝かせたのを感じた。
こういうときは何かろくでもない話の時であって、少し嫌な予感がした。
私はそのまま片付ける手を休めずに話を聞いていた。
「ううん。なんかパソコンの話なんだ。
パソコンでね。
赤い部屋って検索かけるんだって。
そしたらね、ひとつのサイトが見つかるんだってさ。」
嬉しそうに語り始めたその顔は、まるで水を得た魚みたいにいい顔をしていた。
「でね、でね。」
鞄に荷物を詰め込み終わり、よいしょっと私は立ち上がった。
この後の流れをなんとなく把握していた私は何食わぬ顔で、教室を後にしようと歩き出そうとした。
しかし、千尋ちゃんは私の手をがっしりと持って手を止めて、私の目をじっと見つめていた。
「そのサイトを見つけても絶対に見ちゃダメなんだって。」
一瞬、その場の空気がゆっくりと時間の流れが変わったみたいな感覚があった。
それでも、私はその何かに気づかないようにした。
「なんで?」
「さぁ?見たことないから分からないけど。
でもさ、なんかさ。面白そうな話じゃない?」
「ぜんっぜん!
そういうホラー系あたし嫌いなのあんた分かってるでしょ?」
「そうだっけ?」
千尋ちゃんはこの上なくきらきらした瞳でこちらを見ている。
この子とはわりと長い付き合いだから、なぜこの話を私にしてくるのかよーく分かる。
私が断れないことを知っているからだ!!
今回ばかりは付き合うわけにはいかない。。。!
「もー、この変態!
ひとりかくれんぼの話もひきこさんの話もあたし嫌いって言ったじゃん!
検証しよう!!って付き合わされるあたしの身にもなってごらんよ!」
「えー、だってー1人だったら何かあったとき大変だもん」
「んもー。だったら、始めからしなきゃいいことじゃない!
いい?その話はもうしちゃダメだよ?
わかった?」
「はーーーーい。」
それはまるで小学生のように全く反省してない返事だった。
分かってはいるが、このままペースに飲まれて心霊検証につき合わされるのなんかたまったもんじゃない。
「もうっ。
知らないからね!!!」
私はそのまま鞄を持って教室を出た。
廊下を歩いていると私の足音がよく響く。
カツン、カツンと、何か焦っているようなそんな感じ。
生徒達は、早々とみんな帰って行ってるせいか、廊下にも人が少ない。
窓から校庭に目を配るとみんなが帰っている姿が目に入る。
あまりにも普通だった。
何も始まらないし、何も変わらない日常のはずだった。
それでも、私の頭の中には新しい言葉がひとつ離れなくなっていた。
「赤い部屋」
一体どんな部屋なんだろう。
なんで見たらいけないのかな。。。
いい予感なんてなかった。
それでもただ、その言葉が頭を離れなかったんだ。
「赤い部屋なんてサイトなかったじゃない。」
「え??」
「何よ…」
「ふーん。」
何かとっても嬉しそうな不敵な笑みを覗かせてくれるわ。
千尋ちゃんは………。
「怖いの興味ないんじゃなかったっけ?」
む。(‐_‐)
「確認くらいするわ。」
「ふふふ。そういうことにしとってあげる。」
小悪魔クラスに素敵な笑みを浮かべてくれるのね。。。
「結局、赤い部屋ってのは無いわけなのね?」
「いや…。
あるよ。」
「あ、酒井くん。」
「ごめん。ちょっと話聞こえてたから。」
「それは、別にいいけど、今…赤い部屋あるって言った?」
「あるよ。俺は見てないけど、そのウワサは有名だよ?」
「男子の間で?」
「んまぁ…。」
「結局、どんな話なの?」
「聞きたい?」
「え?んと………」
ちらっと千尋ちゃんを確認してしまう。
またニヤニヤしてやがるコノヤロウ…。
「あ、ちなみに!」
「何?」
「赤い目の女の話とは、全然違うからね。」
ん?
赤い目の女の話?
「それも、赤い部屋の話って言われてるの。」
「へー。何?どんな話?」
「それはね…………」
「新米のタクシー運転手がね、街でたまたま一人の女の人を拾うんだよ」
「そのくだりってなんか有名じゃない?」
「まあまあ。ちゃんと最後まで聞く。」
「その人は髪がすっごく長いんだけど
すらっとしていてきれいだったんだ」
「ああ、いかにもって展開だね。」
「まあ、その人が手をあげてたから仕方なく車を止めるわけさ
行先は家まで送ってほしいんだってさ
どの方面まで?
って聞くと、その辺りでは山奥の方向だった。
ちょっと距離があったがその分稼げるから少しだけ喜んでいたかもね
そのままその女の人を乗せて
山奥のドライブに行くわけさ。
髪がとても長くてきれいなんだけど
なんだか不気味なんだな。
ほら、さっき久遠さんが言ってたみたいに
すごく有名なくだりじゃない。
もちろんこの運転手だってそう感じていたはずさ。
けっこう長い距離を走ってさ、辺りは真っ暗な山道。
シーンとした空気もいやだし、何か話そうと思った時
ここでいいです。
って一本の薄暗い小さな道があるところで言うわけさ。
辺りは真っ暗。
本当にこんなところに家あんのかよって思うくらい人気がなく
静まり返ってるんだ。
ここでいいんですか?
とタクシーの運転手は恐る恐る聞いたんだが、
お金を渡され、そのまま女の人は歩いて、ふと山奥に静かに消えて行ったんだ。
なぜかその運転手は、その女の人のことが何か気になってしまったんだな
好奇心なのか、ただ単に心配だったのかは分からない。
車をそこに停めて、運転手はその女のあとをつけてしまったんだ。
薄暗い森の中へ。。。
ミシミシってなーんか山道って嫌な音立てるんだよな
草木がちょっと悲鳴上げてるってわけじゃないがそんな感じ
時刻は12時をもう回っていた
辺りは驚くほど静かで小さな足音がしっかり聞こえるくらい。
本当にこんな山奥に家があるのか?
そう思って少し歩いたところで
ばたん。
扉を閉める音がした。
あ、
そこには、小さな家があったんだ。
白を基調とした感じだが、少しだけ新しい?
新しいと言っても築2~30年は経ってるだろうか。
こんな山奥にあるのだからかなり古い家屋想像していたから
その点では意外だったらしい。
そして、そこで止めればいいものを
男は疑問に思っていたんだな
本当にここに入ったのか?
というか住んでいるのか?
誰だって疑問に思うが…それを確かめるのは怖い
しかし、男は少しだけ。そう思ってドアの前まで立ったんだ。
中が見えるわけじゃないが、玄関口のあの小さな覗き穴から部屋の中を覗くことにしたんだな
そしたらさ
赤いんだよ。
部屋ん中が真っ赤。
どこを見てもなぜか真っ赤なんだ。
少し黒っぽいところが見えたりするけど、それ以外は真っ赤でな。
男は怖くなってしまったんだな。
部屋一面真っ赤だったら、誰だって逃げたくなる。
それでも、男はなるべくゆっくりと逃げたんだ。
大きく足音でも立てたら、せっかく音を殺してきた意味がない。
ゆっくり
ゆっくりと。
もちろん怖かった。
家が見えない場所まで来ると男は走り出した。
すぐにタクシーに乗り込むとエンジンをかけた。
そして、そのままその場を後にしたんだ。
好奇心から覗いた部屋がとても奇妙で怖かったんだな。
なにより一人でいるの怖かった。
少し走ると小さな屋台を見つけた。
ほっと一息ついて、車を置いて屋台で注文を頼んだ
顔が真っ青だけどどうかしたのかい?
そう言われてさっきまでのことを話した。
ここまでのくだりを話し終える頃に
店主は少しおびえた顔をするかと思っていた
なぜか店主はすごく聴き慣れたような顔をしていた
そして、店主は、こう言った。
あんたその子の目は見なかったのかい?
その子の目は真っ赤な色をしていたはずだよ。
って話さ。
はっ。全然怖くないじゃない。
(聞くんじゃなかった…って思った。
こんな赤い部屋の話もあるにね。。。
なぜ男子はこの手の話をよく知っているのか。)
あれ?
なんかすごく手を握り締めてない?
そ…そんなことないわよ
ばっかじゃない!
今の私の手には誰も触れちゃいけないwww
でもな
何よ?
さっき君たちが話していた赤い部屋の話は
この話よりも怖いって有名だよ?
「よし。じゃあ、赤い部屋の話は無かったことにー…」
え?って目をするな千尋!
「ここまで聞いておいて…由希ちゃん引くんだー
ふーん。。。」
当たり前だ!これ以上怖い話だなんてやってられるか!
「まぁ噂だし気にすることは無いよ
男子の間でも赤い部屋の話はあんまりしないし」
「なんで?」
「あれ?知らない?
赤い部屋の話は死人が出たって噂があるからだよ。」
「死人!?
そんな都市伝説で死人が出るわけ!?」
「あくまで噂だよ、噂。
君たちと同じように赤い部屋について調べようとしたやつがいたんだ。
それで、何が起きたのかは分からないけど、
パソコンのディスプレイには赤い部屋のページが表示されていて、
そして、部屋ごと血で真っ赤になって死んでいたって話だよ。
それが本当かどうかは分からないんだけど、その一件以来、男子のネットワークの中でもこの話は危険度が跳ね上がってね、、、
赤い部屋の話はタブーとされているんだ。
だから、この話はあんまりしないんだけどね」
千尋ちゃんがゆっくり口を開いた。
「…そんなに危険な話なの??」
「そうだよ。だから、あんまり…」
「ストップ!それ以上話するの禁止。」
千尋ちゃんめ…
なんて怖がった顔で聞いてやがる
そういう顔するときは嬉しくて仕方ないのを隠すフェイクなんだよ
これ以上彼女の好奇心を揺さぶるわけにはいかない
「ほ…ほら、すっごく危ない話なんだって。
だから、この話は無かったことにしようよ。」
「なんで?」
あちゃー…
「こんなに面白そうな話ないじゃない♪
ひきこさんもひとりかくれんぼも所詮はうわさ、何にも起きなかったじゃない。
そんなスリルなかったじゃん
これは楽しそうだと思わないの?」
いやいや、この話を楽しいって思えるのは千尋ちゃんだけだと私は思うよ?
「ともかく、私は絶対にこんな危険な話に乗らないからね!」
「確かに、久遠さんの言うとおりあまり関わらない方がいいと思うけど…」
「わかってないなー酒井君も由希ちゃんも。
日常なんてつまらないことの繰り返しじゃない?
変わらない毎日、変わらない感情日常。確かに平和だわ。
だけど、平和すぎて、感動さえもないわ。
こんな時だからこそ、私たちは一生懸命になるってこと必要だと思うの。
何か怖いものに触れるっていうのもドキドキするじゃない?
そういうちょっとしたドキドキも大切だって私思うんだ?」
ふわっときれいな髪をなびかせてにこって笑う。
その顔はまるで天使みたい。
言っていることは相当クレイジーだけど。
「だ・か・ら…」
「え?」
「私と一緒に赤い部屋探してくれる?
私ひとりじゃ怖いの。酒井君が一緒なら心強いんだけどなー
私と一緒にドキドキしようよ。」
手をぎゅっと握りしめてお願いですかい。
あんたはどこの少女漫画見てそんなベタなお願い覚えたんだよ。
今どきそんなベタなお願い聞くやつなんか…
「え…えーと」
効果テキメン∑(00;)!何違う意味でドキドキしてるのよ!
「い…いいよ」
「ちょっと酒井くん!もうちょっと考え…」
「由希ちゃんは黙ってて!由希ちゃんはこの話乗らないんでしょ?」
してやったりみたいな顔している。
天使の顔した悪魔ちゃんですか。
そりゃ乗りたくは無いけど、私からしたら酒井君が超心配でたまらないんですけど。
このまま断る方向で持って行きたかったけど、酒井君を見事に人質に取られちゃったからなぁ。
ちくしょう。
「くっ、もう…仕方ないわね!一日だけだからね」
「やったぁ!」
こうして、長い長い夜になることが決定したのでした。
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えーと、話が始まる前に簡単に諸設定について話しておかなくちゃね。
主人公となる私。私は久遠由希。高校2年生になります。
部活は吹奏楽部で…ってそんなこと興味ないか。
私自身怖がり…っていうか、とある事情により幽霊とか怪奇現象に関わることが苦手なの。
あんまりそういうことには関わり合いを持ちたくないんだよね。
そして、重要な役をしてくれるのが美山千尋ちゃん。
容姿端麗ですっごくかわいいんだけど、背が低いことを本人は嘆いていたわね。
怖いの大好きなちょっとクレイジーな頭の持ち主。
何か怖そうなものを見つけるとそれに無理やり私を巻き込んでくれるの。
ひとりかくれんぼとかひきこさんの時とか本人は何もなかったって言ってたけど、
私がいなければどうなっていたことか。
強制的に参加させられた酒井一馬くん。
クラスの中でも比較的おとなしめのほうだけど、持っている情報量はすごい。
男子の中でもかなりのネットワークを持っているし、それにとても頭がいいの。
なかなか話すことないんだけど、けっこうシャイなほうだと思う。
実は私は酒井くんがちょっぴり気になっている存在なのである。
それを知ってか、千尋ちゃんめ、やってくれる。
さて、赤い部屋を探すことになったんだけど、
あれからの話の流れで千尋ちゃんの家で調べるということに落ち着いたわ。
千尋ちゃんの家はひとり暮らしで、
私や酒井君の家と違ってその点では自由が利くってことでね。
学校終わってからすぐじゃなくて、
ちょっと準備があるからってことで7時に集合ってことに。
私はともかく酒井くんが千尋ちゃんの家が分からないってことだったから、
近くのコンビニで待ち合わせをしてから、私と一緒に行くってなっちゃった。
まあ、ちょっと不覚にも嬉しかったんだけど。
ほんとはさー、すっごく気が進まなかったの。
だって嫌な予感しかしないんだもの!
とりあえず、千尋ちゃんが興味を持つって時点からね。
何かしら大きなトラブルに巻き込まれるのは目に見えていたの。
その日も私の予感は的中した。
予感っていうよりもどっちかっていうと必然みたいな感じだったんだけどね。
ま、これだけは言えるわ。
赤い部屋は実在したの。
そして、好奇心なんかでその扉を開けちゃいけないってね。
つづく