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RING×RING  作者: 阿古耶丸
5/9

目覚め に

ゆっくりと瞳が開く。

ここはどこだろう。

何となく思い出す。

確か学校から帰っている途中で土砂降りに遭って、雷が鳴って……

目の焦点も定まらないまま、亜希はぼうっとそんなことを考えていた。

全く見覚えのない室内はやや薄暗いが、夜ではないようだ。

僅かだが物音も聞こえる。

なんとかそちらを向くとそれに気づいたのか、見覚えのある制服を着た黒髪の娘が近づいてきた。

「待って。急に起きない方がいいわ」

「え……と……」

舌もあまり回らないが、相手の言っている事は解る。

とりあえず無理に動こうとするのを止め、相手に任せる事にした。

娘――御琴は亜希に近寄ると、自分が起きたときと同じようにまずは寝台に座らせ、下着姿の亜希に制服を持ってくる。

「葦原の制服だよね」

着せながら御琴が言う。亜希がゆっくりと頷いている間に程なく着付けも終わり、御琴に支えられて立ち上がる。

「あっ、起きたー。大丈夫?」

ユキが優しく語りかけ、御琴に手を貸して亜希を隣室へと連れ出すと椅子に座らせる。

隣室には他に誰もおらず、鍋とヤカンがあるだけだった。

「ここは……?」

意識もはっきりしてきたのか、椅子に腰掛けた亜希が二人に問いかける。

「私もまだ詳しくは聞いていませんけど……あなたが起きたと解ったら、きっと教えて貰えると思います」

そう言いながら御琴はカップを渡す。

「うんうん、お話は後にしよ。今は飲んで食べた方がいいよー」

そう言いながらユキは食器を持って鍋に向かっていた。

「………」

まだ少しだけ寝惚けた頭ではあったが、差し出されたカップを受け取ると喉が渇いている事を思い出したように飲み出した。

「ゆっくり飲んでねー」

御琴の時と同じようにユキは優しく囁きながら、鍋の中身を少し混ぜる。

そしてすぐにシチュー――鍋の中身だ――を食器によそうと、カップの中身を飲み干した亜希に差し出した。

よほど腹が減っていたのか器と同じ木でできたスプーンを持つと、亜希は物も言わずに食べ始める。

「けほっ」

「ほらー、ゆっくり食べないとだよ」

今度は水の入ったカップを渡され、慌てて飲むと再びシチューをかきこむ。

食べきって一息つくと、亜希は御琴と同じように眠りについた。

そしてその日の夕刻。

再び目覚めた亜希は隣室に戻ると、小屋に戻っていたロルフとガイアルドに出会うのだった。

全員で夕食を済ませ、改めでこれまでの経緯を含めて、話す体勢を取る。


「俺はロルフ、そっちの爺さんはガイアルド。そして――」

「わたしはユキだよー」

ロルフの物言いを遮りつつ、にっこり笑ってユキが答えると、まだ亜希には名乗っていなかった御琴が先に名乗る。

「私は御琴、御霊御琴です」

やや緊張した面持ちで亜希も名前を名乗った。

「亜希……岡崎亜希、です」

「さて、何から話したもんかの」

緊張をほぐすように、ややのんびりした口調でガイアルドが促す。

「そうだな……まず、ここがどこなのか教えよう」

「はい」

「ここは、お前達二人が居た世界とは全く違う世界、つまりは異世界というやつだ」

ゆっくりとしたペースで男、ロルフが語る。

「……」

それに対して沈黙したまま、二人は耳を傾けていた。

「こっちの世界で言う『扉』からお前達は現れた。そうだな……覚えている限りでいい。こちらに来る前に何をしていたのか教えてくれないか?」

「解りました」

やや言葉を選びながら、御琴は自分が『こちら』に来る事になったきっかけを掻い摘まんで話した。

「なるほど。要はそちらの世界には固定された『扉』が大昔からあったわけじゃ、なかなか興味深いもんじゃ」

ガイアルドが長い顎髭を整えながら言った。

「所謂『そういう場所』って奴か。昔はそんな事気にもしてなかったが、実は以外と近くにそういう所があったのかもしれないな。ま、それはいいとして、君の方は?」

それに答えるようにロルフが呟いていたが、今度は亜希に話を振った。

「ええとあたしは――」

亜希も掻い摘まんで話す――要は帰宅途中に雨雲が出てきて雷に打たれた?位しか言う事は無かったのだが。

「(やっぱりあの時、周りにも被害が)」

虹色の雷に打たれた?のだという亜希の言葉を聞くと、御琴の表情は曇っていく。

あの時に早く止めていれば――いや、もっと未然に八尺の暴走を止める事ができていればこんな事には――

「しかしその虹色の雷?ってのは、実際には雷じゃないのかもな。もし打たれてたら確実に死んでるだろうし」

「それで、ええっと……私達は元の世界に帰る事ができるんでしょうか?」

もし、問題なく元の世界へ戻る事ができるのであれば、寝ていた時間を合わせて二日ほど失踪していただけだ。怒られるなりなんなりはするだろうが、それはそれでいい。

しかし――。

そんな御琴のもっともな疑問に、ロルフは答える。

「それは……わからん」

「え……」

沈黙。そして一呼吸置いて、ロルフが続けた。

「『扉』から何かが出てきた事はあっても、吸い込まれたりしてどこかへ行ってしまったという例を、俺は見た事がない。俺自身も試そうとした事はなかったし」

「ふむ……しかしまあ、普通に考えれば元いた世界に戻りたいと考えるのが自然じゃろう。それぞれの世界で、それぞれの生活がある。お主と同じようにこちらに根ざそうなどとは、普通は思わんじゃろう」

ガイアルドが二人の気持ちを代弁する。

「それは解っているが――ま、それなら兎に角二人を元の世界に戻せないか、何か方法を探してみないとな」

「かわいそうだもんねー」

「同じように……って」

いいながら亜希はロルフをまじまじと見る。銀色の髪に、透き通るような蒼い瞳。ただし、左目には大きな古い傷があった。

「ああ、俺も元はお前達と同じ世界に居たんだ」

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