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RING×RING  作者: 阿古耶丸
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目覚め 壱

混濁した意識が、少しずつ形になっていく。

私は、どこで何をしているのだろう。

確か……


思い出すのは容易い。だが、その後はどうだろう。

上も下も右も左もない、不可思議な空間。

そこにぼうっと浮かんでいた。

そして……


うっすらと、目が開く。

見覚えのない黒ずんだ天井は、板張りであろう屋根が煤けているためか。

体がだるい。首を動かして左を向くと、どこかで見たような娘が自分と同じように寝せられている。

今度は右を向いてみると、すぐ傍に火鉢だろうか時折ぱちぱちと音を立てて火が燃えており、その隣で粗末な椅子に座った女性がなにやら本を読んでいる姿が見えた。

口を開けて声をかけようとするが上手く行かない。

じたばたともがいてみるとほぼ服を着ていないことに気づく。掛けられた毛布はともかく、シーツは薄く下に積まれているであろう藁が少しだけチクチクと体を刺激していた。

「あっ」

じたばたともがく御琴に気づいて、本を読んでいた女性が近づいてくる。

しー、と、口に手を当てて。

御琴はその様子を見てもがくのを止めて落ち着くことにする。近づいて自分を起き上がらせようと力を貸してくれるこの女性の優しい手つきに、悪意を感じなかったからだろうか。

その女性――ユキはそっと毛布を剥がし、御琴の身体の下に手を入れて引き寄せ、寝台の縁に座らせる。

「まっすぐ座れるかなー?」

優しく呟きながら、奥に寝ている娘を起こしてしまわないよう、毛布を戻す。

御琴を支えて一人で座れることを確認すると、傍に掛けられていた御琴の制服を持ってくる。

「他に服がないから、とりあえずこれ着よっか。そしたらちょっと落ち着くよね」

言葉は通じるようだ。そして柔らかな物言いのユキに、御琴は安心したのか軽く頷くと、寝台に縁に腰掛けたままユキの手を借りて制服を身につける。

気持ちだが洗濯されたのだろうか。破れた部分はともかく倒れて泥がついていたであろう制服はある程度綺麗になっていた。

意識がはっきりとしてきた。立ち上がろうとしてみたが、たちまちふらついてしまう。

「わわ、まったまった」

慌ててユキが御琴を支える。支えられながら、御琴は考えていた。

自分は守護者として、厳しい修練に耐えてきた身である。倒れそうになるほど疲れ果てたり、実際に疲労が限度を超え意識を失って倒れたこともある。

しかしここまで消耗し、前後が不覚になるほどふらついたりするほどのことはなかった。これは一体どういうことなのだろう。

だが、これまでがそうだっただけでそれを越える事態に遭遇したということなのだろう。

そんなことを考えつつ、支えてくれる女性の暖かさを感じつつ気力を振り絞ると、ぐっと力が入りなんとか立ち上がることができた。

ユキは微笑んで軽く頷くと、御琴を支えたままゆっくりと部屋を出る。


「おーい、この子起きたよー」

果たして隣室には若い男と老人がおり、抱えられて現れた御琴を出迎えた。

ユキは、背もたれのある大きな椅子に御琴を座らせる。

「大丈夫か?とりあえずこれでも飲め」

御琴は少しだけ呆けていたが、若い男にカップを渡されて我に返る。

銀色の髪に、青い瞳の男だ。

金属製のカップは暖かく、中にはミルクとおぼしき物が入っていた。

何はなくともといった感じで本能のまま、御琴はカップに口をつける。

熱すぎない程度の、ちょうど良い温さ。少しだけ甘みのある何か動物のものであろう乳。

御琴がよく知る牛乳とは明らかに違う、不思議な味だった。

夜なのか外は暗い。目の前ではやはり火鉢のような火立て場にどの様な仕組みか、金属の鍋が置いてあり良い匂いが漂ってきていた。

自分はどれくらい眠っていたのだろう。

カップを持ったままそんなことを考えていた御琴に、ユキが鍋からなにやらよそって差し出した。

使い込まれた木の食器によそわれたそれは野菜がごろごろと入ったシチューのようだ。

受け取った器から立ちのぼる香りに物も言わず、御琴はかき込み始めた。

「ゆっくり食べようねー」

全員分の器にシチューをよそいながらユキが優しく声を掛ける。

言葉にはっとした御琴はむせかえることもなく食べきる。

ふう、と一息つく御琴に向かって、全員にシチューを渡し終えたユキが「もうちょっと食べるかな?」と問いかける。

聞かれて「はい」と小さく答え、その後二杯を食べた。


その後はしばし無言の時が流れるが、ついに男が切り出した。

「何から話そうか……そうだな。俺はロルフ」

「わしはガイアルド」

男に続いて、老人も名乗る。白髪交じりの黒髪をした老人だ。歳は取っているように見えるが、老いている感じには見えず覇気が感じられる。

「わたしはユキだよ」

そして、起きた御琴を気遣い、今も優しく見つめる女性が名乗る。赤く長い髪がお下げにまとめられている。

「御琴……御霊御琴です」

三人の方へ向き直り、御琴も名乗る。

自分は一体どうなったのか。ここはどこなのか。

前にいる面々はその謎に答えてくれるのだろうか?


もうしばらく夜は明けそうにない。


「しかし待て。お前さんはさっきまで寝ていただろうが、今は夜じゃ」

話が長くなりそうだということを悟ったガイアルドが、唐突にそう言って遮った。

「とりあえずご飯も食べたし、もう一回休んでもいいかもね。眠れなかったらお話しすればいいよ」

「そうだな。まだ寝てる奴も居る、いつ起きるかは解らんが詳しいことはあいつが起きてからでもいいかもな。もう少し、眠るといい」

そう諭され、隣室に戻ってまた床につくと、食べて飲んだことで身体が満足してしまったのか、横になった御琴はあっという間に眠りに落ちていた。

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