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RING×RING  作者: 阿古耶丸
2/9

よく知る世界編 壱

私は一体どうなってしまったのだろう。

そう、私は『門』の中にいたはず――。

あれはそう――。


ある場所、ある時間。

五人の人物が、それぞれの立ち位置を以て対峙していた。

果たしてそこには、人が通るには少し大きな石の扉がある。扉の奥は祠の様になっており、あまり奥行きがあるような感じは無い。

「八尺の。なぜ『門』を開く!」

語気を強める片方の男に対して、対するもう一人の男は至って冷静な物言いで対する。

「大した理由ではないよ、八咫の。『門』があの世に繋がっているなどと、馬鹿げていると思わんか?」

「それはわざわざ、俺たちの対立を招いてまで確かめなければならないことか?」

「お前達、八咫の者どもが調停者気取りでしゃしゃり出てこなければ対立する必要などない。草那芸が門を開くことを了承すればいいだけだ」

「結果的に了承を得られずに強引な手段を取っているだろう」

「横から出てきて口を出すな」

「あたしも止めろって言ってるんだけど?」

男共が勝手に話を進めていることにやや腹を立てているのか、娘の一人が声を荒げる。

「まあそう言うな、草那芸。この『門』はいつからあるのかは解らん。この場所は少し特殊なようだが。奥には目に触れさせたくない物が置いてあるのだろうと俺は見ている」

「それで?」

「それを手に入れ……いや、それがなんなのかを知りたいと思うのだ。仮に言い伝えが事実だったとしたら、我ら三人と、守護者の力を使って再び封じればいいこと。違うか?」

「駄目です」

そんな物言いに割って入ったのはそう、『扉』から現れた娘だ。

「そのような安易な理由で、封印を荒らすことは、何者であっても許されることではありません」

このような場所を守るために、自分とその一族は存在してきた。それは相手が誰であっても曲げることはできない。

「どうあってもか?」

「それを今更問い質すなんて。八尺の。どうしてしまったというの」

どこかおかしい。守護者と呼ばれた娘だけでなく、八咫と呼ばれた男も、草那芸と呼ばれた娘もそれを感じていたが、どうすることもできずにいた。

八尺を継ぐもの、その兄妹を。

彼らがその力を以て本気でかかってくればどうする?

こちらはこちらで、もう一方の力の顕現である草那芸、そして調停者たる役割を持つ八咫。

十分に太刀打ち出来るだろうとは思う。

しかし――。


「さあ、開くぞ!その『あの世』とやらの『門』を!!」

大声で宣言する八尺の男の傍らに、虹色に輝く矛が顕現する。

「なっ!沼矛!?」

草那芸の娘が思わず叫び声を上げる。

「八尺のぉぉぉっ!!!」

八咫の男が声を荒げ、慌てて殺到するが、八尺の元に現れた虹色の矛が輝くと、容易く弾き返されてしまう。

「ハハハッ!そう、全てを生み出すこの力ならば、『門』すら開けよう!なに、『門』から何が現れ出でようが、どうにかなる。お前達三下と、沼矛があればな」

「(沼矛が顕現するなんて……!)」

守護者の娘にはまだ信じることができない。『国生み』の力の顕現たる沼矛が、破壊の可能性を孕む『門』を開く為に力を発揮するなど。

しかし、信じる信じないにかかわらず、『門』は開いてゆく。

「御琴」

八咫の男が呼びかける。守護者の娘の名は、御霊御琴。

「はい」

「開いた『扉』を閉じることはできるか?」

「解りません……そもそも開かれないように守ることが役目でしたから」

「そうよね……でも、このままじゃ開いちゃうわ」

晴れ渡っていたはずの空は、いつの間にか厚い雲が覆っており、雨が降り始めていた。

「もう一度仕掛けましょう。それでも無理なら私が『門』を破壊します」

「というか、ほぼ御琴頼みよね。あたし達は剣も鏡も今は使えないもの。また沼矛の力で弾かれるんじゃない?」

「いや、八尺が『門』にばかり気を取られてるならなんとかなるかもしれないな。兎に角このまま呆けてるわけにはいかねえ」

霊力が高まる。

御琴は手元に意識を集中すると、そこから鈍色の刀が現れた。

「いざ!!」

言葉を合図にそれぞれが飛びかかる。草那芸は八尺の男へ。八咫は八尺の女へ。そして御琴は沼矛と『門』の間の空間へ。

「むっ!」

『門』の動向を見守っていた八尺の男はやや対応が遅れる。

が、殴りかかってきた草那芸を一旦いなし、八尺の女、彼の妹へ向かう八咫へと向かって大きく腕を振る。

力の奔流が八咫へと迸り、八咫は大きく吹き飛ばされた。

「はっ!」

御琴は手にした刀で『門』を開くべく力を送っていると思われる沼矛と『門』の間の空間を切り裂いた。

雨が激しくなり、稲光が怒れる空で暴れ始めている。

「さすがは守護者の一撃、危ない所だった」

八尺の男はそう言って、いつの間にやら手にした沼矛で刀を受け止めていた。

土砂降りになった雨の中、ついにその時が来てしまう。

「よし、開くぞ」

『門』は完全に開き、なんと言えばいいのかよくわからない妙な空気が流れている。霊力ではなく、瘴気の類いでもない。

雨と雷の音だけが響き渡る中、沈黙と言ってもいい雰囲気を『門』は醸し出していた。


「………」

「何も起きない?」

顔をしかめて起き上がった八咫の男は、注意深く『門』を見守っていたがなにかが起こる様子はない。距離があるとはいえ、中を覗き込んでも何も見えないのは不気味だった。

心なしか、周辺の空気、霊気などが『門』へ吸い込まれているようにも思える。

刹那の沈黙。

しかし、その沈黙を破るように轟音が響き渡り、沼矛の力を現すかのように七色に煌めく稲妻が周囲に落ちる。そしてその範囲は徐々に広がっているように思われた。

「(これでは、街まで!)」

立っているのも厳しい風雨に晒されながらも、低い姿勢で刀を構えると御琴は『門』へと走った。

「――!」

「――!!」

誰かが何かを叫んだような気がするが、全てを轟音がかき消す。

「(結果的に閉じるのではなく破壊することになってしまうのかもしれないけど、この『布都御魂』ならば何かが現れる前に『あの世』との繋がりを断ち切れるかも……!!)」

御琴は『門』へと飛び込んだ。


そこには何もない。

上下も、左右も解らない、例えるならば灯りのない水中のような感覚。

以前修練のために、暗い夜に水中へと入ったことがあるが、水の中ならば力を入れずに浮くことができればよい。流れがなければ――だが。

しかしここは流れもなく、呼吸もできるようだが、何も見えず、空気の流れのようなものも感じない、そんな場所だった。

不安に駆られそうになっている御琴であったが、やるべき事を思い出す。その手に霊剣が握られていたからか。

最後の霊力を高め、振り絞ると、空間を一閃する。


すると、僅かな光が漏れる。その光を辿るように見知らぬ娘が『門』を伝って運ばれていくのが見えた。

どこかへ落ちていくような感覚。『この世』には戻れないかもしれない。

霊剣が消える。

そして、御琴の意識も昏く落ちていった。

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