№006
連載6日目。あと1日がんばるぞい!
玄関のドアは、何の抵抗もなく開かれてしまった。
ちなみに、カギは僕しか持ってない。
ちなみに、じいちゃんの家のドアには鍵が無い。
さて、ここまで言えばわかると思うが我が家のドアは今かなり悲惨な状況にある。
あれ、鍵穴は?ドアノブにあるはずの鍵穴が無いな~?
目の前には、鍵穴のあったと思われる部分に人差し指サイズの穴の開いた板があった。
ため息をつきながら扉を開けると、リビングに明かりがついている。
僕はまめな性格だから消し忘れが無いように毎回気を付けている。
つまり、家の中に誰かいるということだ。
玄関のドアはいつのより重い気がした。異世界に行って力をつけたので本来なら軽いと思うはずの扉。
これはリビングにいるであろうあの人たちに会う不安からくるものだろうか?
廊下を抜けてリビングへそのまま向かう。
その足はなんというのだろう。期待と不安が混じったせいか、早足、されど進まず。直線に歩いているのに、その視界は歪んでいた。
けど、リビングへ近づくにつれて漂ってきた匂いに彼の意識は覚醒する。
焦点の定まらぬ視界はドアの向こうへと目を向けていた。
漂うのは、肉の焼ける重厚な香りに、織田家特有のトマトを基礎とした甘みと酸っぱさを感じさせるさわやかな香り。
先ほどまで早く足を動かしながらもまったく前にすすまなかった足は今ではいつも通りの歩幅で前へ向かっている。覚悟は異世界でとうに決めた。
その、覚悟を決めて開いた扉は玄関の扉なんかよりも何十倍も軽かった。
「「「「「「おかえり」」」」」」
そこには、二度と会うことはないと思っていた家族の姿。
僕はその姿を見て、目に涙を浮かべながら言うのだった。
「・・・・だだいま、帰りました」
※※※
全員おかえりと言ってくれた後の反応は違った。
「ああ、やっと見つけたと思ったら。こんなに成長して!」
「ああ、ようやく所在がつかめて来てみたら、なんかずいぶんと雰囲気が変わったような・・・」
そう言いながら僕を撫でるばあちゃんと父さん。
その後ろから僕の顎をクイッと上げさせるじいちゃんは僕を見てうれしそうな声音で言った。
「なかなか良き面構えではないか。あの時のお前と同じとは思えぬな。それに鍛えておったのか?強者の風格を感じるぞ」
「・・・」
唯一、母さんだけが何も言わず黙々と料理を作って運んでいた。
それでも僕の方をちらちらと見る母さん。
確か、家を出て行く時に一番口論したのは母さんであった。
そして、家を出て行く時。唯一母さんだけが気づいていた。
「かあさん。手伝―――――」
「兄さん!」
「兄様!」
母さんの手伝いをしようとすると、僕の腰に飛び込んできた2つの影があった。
「勇気、絆。久しぶり」
僕はそう言って二人の頭をやさしくなでた。
顔立ちは父さんで性格は母さんに似た弟、勇気。顔立ちは母さんで性格は父さんに似た妹、絆。
「織田グループちゃんと動かしているみたいだな。たまに、株とか見て驚いているよ。」
「初めは、危なっかしかったけど・・・
「・・・兄様のおかげで助かったの!」
「はは・・・何のことかな?」
「兄さん、僕達はこれでも兄さんの育てた隠密を扱っているんだよ。わかるよ」
「・・・ガマ吉のやつか」
随分と前。香木の会社に入って少しして二人が社長となることを知った。
分家の僕たちは元来指導役というのが性に合っているらしく、現在はそれを生かし織田グループは大きくなった。
『優れた指導者とは、孤高であるべき。多くの知識を有し、他者の想像もつかぬ未来を見ることこそ導く者に必要である。』
これはわが織田の分家初代が残した言葉らしい。
そして僕の家系はこの言葉を体現するかのような人物が多く生まれてきた。
そして今代、長男よりもその弟たちに当たる双子はその力を合わせることで過去最大の指導者となると期待されていた。
しかし彼女たちは当時まだ幼く。しかし優秀でありすぎた。
だれも予測しないであろう未来を見通す観察眼を持つ弟。
だれよりも知識をどん欲に求め、博士の卒業資格をも得る知識を持つ妹。
周りは天才二人を神輿とすることでさらなる拡大を望んだのだろう。
二人を半場、だまされるように社長の席に座った。
始まりは順調だった。
彼女たちの打ち出す計画は完璧で処理速度は素晴らしい。しかし、以前より少しばかり増える仕事にブラックと化していた。
辞めるものも多く、気づけば人材不足による経営困難に。
そんな時思い出すのは、憧れだった兄の言葉。
「僕はね、あの初代の言葉嫌いなんだ。だって、せっかく共に学ぶ仲間がいながらあえて彼らと距離を置くなんておかしいと思うんだ。だけどね、僕は思うんだ。初代様は戦国織田家の指南役。そこには優秀なものは多くいただろう。しかし、全員戦に向かう。
だとすれば当然、死もあり得るわけだ。ならば、多くの知識を得て仲間を救え。
他者の想像もつかぬ策を使って仲間を生かせ。・・・まあ、つまり教えるなら生徒を大切にしなと言うことを諭しているんだと思うよ」
今になって思い出した言葉。
逃げ出したと聞いて思い出さないようにしていた兄の言葉。
兄はやはりすぐれていた。自分たちよりよっぽど指導者に向いていた。
二人は涙を流す。
後悔の涙を。
そんな時、彼らは戻ってきたのだった。
辞めて行った彼らは、勇気たちのもとに来て自らの友の有能さをアピールした。
見生きたちは呆けてしまった。
つらいと言って出て行った彼らが、今の計画に必要となる人物を連れて戻ってくるなど思いもしなかったのだ。
そして彼らは等しくこう言った。
「〈あの人〉が諭してくれたように、やはりここは新しいことだらけで楽しい」
そして調べて分かった。
彼らの言うあの人とは朋友であると。
「「再び出会えたら言おうと思っていました。」」
二人は透き通ったきれいな目で僕を見て言うのだった。
「「ありがとう兄さん(にいさま)。大好きです!」」
僕は思わず涙を流す。あの時、僕は彼らを諭したとは思っていない。
しかし、それは僕が下部会社起業したばかりなのに少しばかり大きな仕事を受け追ってしま。それにより優秀な人たちが大量に必要となり、丁度良かったので彼らを雇った。雇った初めはそんな彼らは、弟たちの不満を言っていた。
最終日。計画が完了し、もしよければこのまま内に来ないかと全員に言おうと思った。
しかし、彼らはどこかつまらなそうだった。
やり遂げたというのにそこには期待していたような達成感がないという感覚。
僕は思わず、怒った。そして言い放った。
「君たちは、優秀だ。しかし、こんな仕事では楽しめなかったようだな。では、私は君たちとの契約を更新することはない。これでサヨナラだ。・・・・・・今までありがとう。帰るといい。おそらく、あいつらはようやく君たちの大切さに気づくだろう」
それから、9割近くの人間が去っていった。
実に笑いごとだが、飯島にお願いされて作った下部組織はイベント一つを完遂させた後、つぶれた。と言うより人材不足でつぶした。
残った1割の人は今、飯島のもとにいる。
まあ、それはどうでもいいのだが僕としてはまだ弟たちを思う気持ちがったことに驚き、それからちょくちょく手を貸した。
まあ、かなり自分とばれないようにしていた端なのだが気づかれていたようだ。
そして先ほどの言葉。
家族と仲直りしたいと思っていたが勇気と絆は昔と変わらずにいてくれた。
僕は胸の内側からあふれてくる喜びを抑えることができずそのまた二人を抱きしめた。
そして言うのだ。家族として大切なこの言葉を。
「僕も大好きだよ」
読んでくれてありがとうございます。
すみませんまだ旅には出ません。まずは家族との仲直りがさきです。
(もう2話仲直り編やるつもりです。すみません)