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浮幽士シバ  作者: 下上次郎
1/2

皇兄を殺した父を追って、浮幽士司馬李玄は旅に出る

◆その一 別界の浮幽士




○   1


「司馬どの、司馬どの……」

 自らの口が、自らの名を呼んでいる……。

 森の景色が目に飛びこんできた。その景色は急速に後ろへ流れていた。

 ほんの寸前まで気絶していたというのに、李玄の渾身は猛烈に動いて鞭のように地を蹴っている。

「デュナンか?」

 と李玄は自らの口をつかい呼びかける。

 契約霊のデュナンが李玄の体を借りて、汪豹のこもる洞穴から命からがら逃げ出してきたところだった。

 デュナンは気絶した鉄斎をしっかりと背負ってきたようだ。

 いつものことだが、デュナンが入ると、李玄は金縛りにあったように感じる。

 彼は遮断された目玉に意識をつなげて、ギョロギョロと動かし周囲を見た。

「デュナン、ここはどこだ?」

「まだ後山を出ておりませぬ。早くこの場を離れねば」

 とすると、気絶してさほど経っていないようだった。デュナンは口を使わずとも李玄と意志を通じ合わすことが出来た(一つの体を共有しているのだから当然だが)。が、利口な彼は司馬の意識を保つために体を使うことに決めたようだ。

 李玄は鉄斎の体が重く背にのしかかるのを感じた。霊力のほとんどを使い果たし、仮死状態とかしている。ときおり鉄斎の体を揺すって名を呼んだ。

「師匠、死んだらだめだ。一緒に本界に帰るんだ」

 李玄は、父上を連れて、という言葉を飲みこむ。

 その父が、息子の李玄と、師である鉄斎を迷いもなく殺そうとしたのだ。

 5年ぶりにあった父親に殺され掛かったことで、李玄の心は深く傷ついていた。

 膨大な霊力をもつ李玄の体は、汪豹(おうひょう)に受けた裂傷もどんどん回復していった。攻撃は師匠以上に喰らったが、見た目ほどの重傷ではない。

 今は鉄斎が死んでしまわないか心配だった。八十才を越える五体はなんとも軽い。

 一方、汪豹は40代の壮年である。正面から戦うこと自体に無理があったのだ。鉄斎は、口ではなんと言おうと弟子を殺すつもりなど、なかったのだから。

「ちくしょう、俺に霊術が使えたら」

「そう申しますな。あの場から逃げられたのは、司馬殿なればこそですぞ」

「お前のおかげだよ、デュナン……」

 李玄は背後に首を回す。デュナンは霊体だから、首が後ろを向こうが、視界に支障はない。

 後山は、三人の霊力合戦で、地形まで変わり果てている。別界の住人がくれば、すぐに騒ぎになるだろう。

「デュナン、父上はどうした?」

 と李玄は言った。今は体が一人でに走るのに身を任せている。

「デュナン、きかせてくれ。お前は父上を殺したのか?」

「霊術使いを剣で倒せとは、奇っ怪な……」

 とデュナンは言った。だが、李玄が意識を失う寸前、鉄斎は霊術を仕掛けていたはずである。岩石の牢獄に汪豹を閉じこめたのだ。霊力を喪失した鉄斎が、汪豹の手を逃れることができたのは、汪豹もまた動けぬ身であったからだった。

「司馬殿は父上の死を望んでおられない。だから拙者は逃げ申した」

「ありがとう……デュナン」

 と言ったきり、李玄は疲れ果て、再び意識を無くした。デュナンは鉄斎を(正確には李玄をも)連れて、後山を後にした。

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