第7話:国と世界と
穏やかな午後。昼食も終えて腹が落ち着いた頃合。
リリアンヌはジルベールの書庫で読書に耽っていた。
もう、ほぼ全ての書籍が読めるし、読み終わっている。今読んでいるのはこの国の歴史に関する本だ。
どうやら長い歴史を持つ国らしく、その成り立ちはほぼ神話といっていい内容である。
昔々のそのまた昔、この地にすんでいた村長と天にまします神が交わり、一人の子が生まれた。この子は才に富み心優しく身体は強く、たちまち周囲の村々を併呑して一つの国を作った。
それが今この地にある王国・イーストエッジ。
そこから、各地の民族抗争や他国との戦争に入る。
一通り頭に入れつつ、念頭に置くのは今いるル・ブルトン家の立地についてだ。
端的に言って、ル・ブルトン領は小さい。
丘陵地が一つに、村が三つ。それだけだ。屋敷の最寄りの村は城下町と言えなくもないがほぼ農村なのであまり関係はない。
それだけならのんびり暮らせて良かったのだが……問題はその位置だ。
このル・ブルトン領は隣国との国境線に接している。
今でこそ衝突はないが、長いの歴史の中で幾度もぶつかっては勝利と敗北を重ねている隣人。
帝国・ウェストシクル。
「三十年前に停戦、とあるが……停戦か」
いずれ再開するつもりであるということだ。少なくとも相手方は。
そして開戦すれば真っ先に標的になるのは此処、ル・ブルトン領。
「神様が言ってた『苦難』というのはもしかしてこれか?」
リリアンヌの時代に戦争が勃発する、ということを指している可能性はある。
天を仰ぎ、心のなかで問いかけてみる。
「…………………」
お告げはなかった。
「確率は高い……備えだけでも出来ればな」
ぱたん、と本を閉じて書庫を見渡す。
齢十年、思えば長い時間をこの書庫で過ごした。この書庫のお陰で様々な知見を得られた。
だが。
「そろそろ、不足を感じる」
その殆どを読破した今、読みたい本はずっとずっと増えていた。
もっとこの世界の歴史について学びたい。もっと魔術理論を読み解きたい。もっと畑の耕し方を知りたい。
その為には本が必要だ。外から仕入れる、本が。
「となると……お金か」
ル・ブルトン家の財政状況は良くない。と思う。
男爵家として領地からの税は得られてるし、飢えることは当然ないし趣味に興じる豊かさもある。
カロルとセバスチャンという二人の従者への給金も払えている。
だが何か新しいものに手を伸ばす余裕は無いのでは、とリリアンヌは見ている。
「私の知識と魔術で、何か金を稼げないものか」
考えても答えは出ない。未だ、リリアンヌは世のことを知らなさすぎた。
ちょっと短いですが、次の切り時まで長いのでこれで。