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その元・男、現・貴族令嬢にて  作者: 伊賀月陰
序章:転生令嬢、その華麗なる幼少期
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第5話:ジルベールの必殺技






「お、リリ。魔法の勉強は終わったのかい」


「はい、お父様」


 裏庭では、時間の合う時にジルベールに稽古をつけてもらっている。

 稽古とは言っても、基本的には遊戯や簡単な運動だ。まだ剣を握る筋肉がついていない、とはジルベールの談。


「お父様、今日も宜しくお願い致します」



「ん、今日も頑張ろうか」


 身内だろうと最低限の礼儀は大切。一礼し、さて今日は何をするのかと見回すと、気になるものが目に入った。


「ああ、気付いたかな」


「これは……小さな木剣?」


 いつもジルベールが振るう木剣に並んで、二回りほど小さめな木剣が立て掛けられていた。


「正確には子供用の木剣、だ」


「お父様……それじゃあ」


「リリもだいぶ身体が出来上がってきた。まだまだ本格的な稽古には早いが、剣の何たるかを学び始めるには十分だ」


「やったー!」


 魔法に加え、剣術までも学べる。なんて素晴らしいことだろう!


「リリは、魔法の勉強も頑張るんだったな?」


「はい、お父様!」


「なら一つ、技を見せよう」


 ジルベールは長い方の木剣を手に取り、正眼に構えた。


「少し下がってなさい。父さんより前に出てはいけないよ」


 言われた通り、ジルベールの背後、その斜め後ろに立つ。

 何をするつもりなのだろう。


「さて……久しぶりだが……っ!」


 どくん。

 眼前のジルベールから波のようなモノを感じ、心臓が跳ねる。

 これは魔法適性を検査した時と同じ感覚―――?


「『風よ集え』」


 裏庭を突如として強風が巻く。ジルベールを中心として竜巻の如く。


「ふううう……」


 濃密な草風を纏い、揺らぐ木剣を振り上げる。

 地面をしっかりと両足で踏みしめ、まるで何かを溜め込むように。

 溜め込まれた力はがっしりとした両腕に支えられ―――そして放出の時を迎える。


「おおおおっ! 『風烈斬』ッ!」


 剣が振り下ろされた、次の瞬間。



 ジルベールの前方を圧力が薙いだ。



 暴風と呼ぶことすら生温いそれは、地面を抉り立木を薙ぎ倒し、なお留まることを知らず突き抜ける。


「ひゃっ」


 ジルベールの後方にいたにも関わらず風圧がリリアンヌの身体を押す。不意打ちの風に思わず尻餅をついた。

 それでも目線は前を向いたまま。


「すごい………」


 風が収まると、そこに残されていたのは、風の傷跡。

 ジルベールから放射状に捲りあげられた大地だった。


「すごいすごい! お父様、これ――――あれ?」


 とてとてとジルベールに走り寄ると、その顔は呆然と前を見据えて……否、見据えたくないといった顔で、それでも前を向いていた。


「しまった……」


 しまった?


「異音がしたので、様子を見てみれば……」


「あれ、じいや?」


 セバスチャンが建物の陰から現れ、裏庭の惨状を眺めて嘆息した。


「主様。これは一体どういうことですかな」


「セ、セバス。これはだな……その……」


「端的に、お願いしますよ」


 びくり、と威圧感にリリアンヌの背筋が震えた。

 セバスは怒っているのだ。そしてジルベールはそれを見て怯えている。


「その……リリに魔法と剣の複合技術を見せてやろうと思ってだな」


「ほう」


「得意の技を一つ、見せたんだが……」


「だが?」


「……………やり過ぎてしまって…………」


「なるほど」


 リリアンヌは改めて裏庭の全体を見やる。

 酷い有様だった。

 均一に刈られていた綺麗な芝生は捲り上がって土が見え、枝の長さを調整されていた立木は半ばから折れて無惨な屍を晒している。

 それが裏庭のおよそ三分の一を占めている。


 もし戦場で放たれていれば、人が何人吹き飛んでいることだろうか。

 しかしここは戦場ではなく吹き飛んだのは整備された庭だけである。


「主様」


「は、はい」


「今すぐ始めて、明日の朝までには終わらせますよ」


「…………はい」


 肩を落としてセバスチャンと共に去っていくジルベール。


「あの……セバス……稽古……」


 残されたのはリリアンヌと、ジルベールが持ってきた子供用の木剣。


「………筋トレでもしよう」


 木剣はまだ今度でいいだろう。

 リリアンヌは軽く準備運動をすると、屋敷の周りをローペースに走り始めた。



 翌朝、いつもの訓練時間に裏庭へ出ると。


「……………おはよう、お父様。お疲れ様です」


 物言わぬ屍となったジルベールが、綺麗になった裏庭に倒れていたのだった。


「おはよう………おやすみ………」


 がくり。







「こほんっ」


 翌週、やっと時間の取れたジルベールとリリアンヌは裏庭で相対する。


「さて、改めて言おう。リリ、今日から剣の勉強を始めようか」


「わぁい」


 ちょっと棒読みだがそれは許して欲しい。


「ところでお父様、先日の凄い技は……」


「ああ、あれはなあ」


 庭整備のことを思い出したのか渋面を作りつつ、ジルベールは説明する。


「あれは魔法剣と呼ばれる技術でな」


「魔法剣」


「剣を起点に魔法を収束させて放つ。魔法適性のある剣士が使う技だ。リリアンヌならすぐ習得できるだろうが、当面は危険なので手を出さないように」


 確かに凄まじい威力だった。あれが暴発したら屋敷がただでは済まないし、リリアンヌ自身も無事では済むまい。


「リリはあれを見てどう思った?」


「凄い威力だなと思いました。当たったら死んじゃうだろうな、と」


「少し違うな」


 ジルベールは屈み、リリアンヌと目線を合わせて真剣な顔で語る。


「死んじゃう、のではない。殺してしまうんだ」


「殺してしまう……」


「リリアンヌはこれから剣と魔法に触れていくことになる。だからその前に言っておく。

 ―――剣も魔法も、容易に人を『殺せてしまう』技術だ。それを忘れないでくれ」


 まだリリアンヌには早いだろうが、と苦笑に転ずる。


「実感できるのはもっと大きくなってからだろうけど、言葉だけでも覚えておいてくれれば嬉しい」


「はい、お父様!」


 元気な返事を返したリリアンヌの頭をぐりぐりと撫でる。


「それじゃ早速、剣を握ってみようか。まずは握りから―――」


 父娘の元気な声が裏庭に木霊した。







書いててたまにDA確定の人と間違えそうになる

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