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その元・男、現・貴族令嬢にて  作者: 伊賀月陰
序章:転生令嬢、その華麗なる幼少期
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第4話:カロル先生の魔法の授業(導入編)





 翌週より、早速魔法の勉強が始まった。


「専門的な学習は、専門の教師を雇うべきなのですが……当面は初歩的なものですので、私がお教え致します」


 いつもの侍従服を着たカロルは、リリアンヌの目の前に本を置きながらそう宣言した。


「お願いします、カロル先生」


「いつも通りばあやで結構ですよ」


 畏まった挨拶に苦笑を返された。


「ではまず初めに魔法とはどのような現象なのかを御説明しましょう」


 本を捲る。


「簡潔に定義を言ってしまえば、魔法とは『魔力を用いて何らかの現象を起こす手法』を指します」


「幅広いですね?」


「ええ、そうですね。基本的になんでもかんでも魔法です。とはいえ何でも出来るというわけでもなく……」


 更にページを捲る。開いたのは属性に関する章だ。


「魔法は大きく分けて四つの性質を持ちます。

 火・水・風・土の四属性を基礎とし、その組み合わせや強弱によって多種多様な現象を発生させる……というのが基本原理となります」


「組み合わせ……例えば、どんな?」


「そうですねえ……リリ様。金皿に水を張って、それを火で炙るとどうなると思いますか?」


 器に入れた水を加熱すれば、それは当然。


「お湯になります」


「更に炙ると?」


「………蒸発して水がなくなる?」


「そう。魔法も同じで、火の力が適切でないとお湯ではなく蒸気が出てしまうわけですね」


 逆に火が弱く水が強すぎると、ぬるま湯にしかならない。そういうことらしい。


「うーん……じゃあ水の力だけで魔法を使うと、冷たい水が出るのですか?」


「冷たくするには、風の力も混ぜないといけませんね。ただ水を出すだけなら水の力だけでいいのですが」


「なるほど」


 これはなかなか複雑そうだ。


「本当は更にマナも関わるのですが、今のところは置いておきましょう。次に、その力の源である魔力について御説明します」


 ページを多く捲る。


「本日は魔法について触るだけの授業となりますので、細かい部分はまた後日。……さて、リリ様。先日魔法適性の検査をした時のことをお覚えでしょうか?」


「はい、ばあや。背中の用紙を当ててじいやが何か唱えたら、胸が熱くなって……」


「その感覚は魔法を使う時にとても大切なので、よく覚えておきましょうね。魔力は胸から生まれ、血に乗って全身を巡るものとされています」


 ばあやはふくよかな胸を拳で叩いた。


「胸から?」


 自分の平たい胸をぺたぺたと触る。


「もっと言えば心臓です。魔法適性の検査は心臓に他者の魔力を軽く当てて呼応させるものなのです。

 リリ様は魔力がかなり多いので、セバスチャンも上手く魔力が通せず苦労したそうですが」


 苦労した様子は見られなかったが、どうやらそうらしい。

 魔力が多いと他者の魔力にある程度の耐性を持つ……これは覚えておいた方が良さそうだ。


「魔力は大なり小なり、皆が持つものです。稀に全く魔力を持たない人も産まれるそうですが……これは置いておきましょう。

 簡単な魔法ならば誰でも扱える魔力がある、ということは覚えておいてくださいませ」


 魔法は生活に大きく関わる技術なのだと、カロルはそう語った。


「それじゃあ、属性適性というのは?」


「はい。魔法を扱う際に重要となるのが魔力量と属性適性なのです。先程話しました四つうの属性の何と親和性が高く、何が低いかを表しています」


「火が得意だけど水が苦手とかですか?」


「その通り。ちなみにばあやは火と水が比較的得意で、風と土が苦手であります」


 セバスチャンは逆なのですよ、と笑いながら言う。


「じゃあリリは?」


「リリ様はとても珍しくてですね」


 懐から見覚えのある紙を取り出す。


「リリ様の検査用紙を確認したところ、別段苦手の属性がありませんね」


 楕円形の図を指でなぞって語る。


「普通は一つか二つ得意な属性がありそれ以外が苦手、あるいは全く扱えないということも珍しくないのです。

 全てが得意と言えるのは非常に稀……天賦の才と言えましょう」


「練習すれば全部扱えると?」


「はい。とはいえ全てを均等に伸ばしては器用貧乏になりますので何か主となる属性を決めた方がよろしいかと」


 使える属性の幅が広い、というのは素直に喜ぶべきことだ。


「最初の内は、一通り学んでおくべきでしょう。勉強によって得られることと、実践によって得られることはまた違いますから」


「はい、ばあや。今日はどうしますか?」


「そうですね……今日のところは、これで終わりにしましょうか」


 本を閉じ、ちらりを外に視線を向ける。


「そろそろ日が傾き始めますからね」


「あっ」


 夕の訓練時間が近づいている。誰に決められたわけでもないが、ここ数年は殆ど毎日欠かさず行う日課となっていた。


「ありがとう、ばあや!」


「はい、お気をつけて行ってらっしゃいませ」


 本を片付け始めたカロルに一礼し、部屋の扉をゆっくりと閉めた。

『女の子らしい』控えめな所作も段々と身に付いてきた。カロルに叱られることもだいぶ減った。

 未だ男の自意識を残す身としては、やはり演技してる感が否めないのだが。それは仕方あるまい。


 早足に裏庭へ続く廊下を行った。









魔力×適性+マナ≒魔法

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