第37話:決戦、開幕
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『チラシの裏の読書感想文』様にて御紹介頂きました。この場を借りてお礼申し上げます。
ブックマークが300件を超えました。有難うございます。
今後とも宜しくお願い致します。
窓から差し込む朝日で目を覚ましたレオナルドは、汗の匂いが染み付いた寝台で一人物を思う。
「見送りは、させてくれないか」
昨晩、行為を終えて眠りに就いた時には隣にいたリリアンヌ。今は誰もおらず、ただ彼女の残滓だけがある。
レオナルドが目を覚ます前にそっと抜け出していったのだろう。
ここからは彼女の戦場。
脱ぎ捨てられてよれた夜着に袖を通し、レオナルドは立ち上がる。
リリアンヌの祝勝会の準備をしなければならない。予算を捻出せねば。
極力前向きに思考して、レオナルドは身支度を整え自身の仕事場へと向かった。
いつも通りに明日が来ることを願って。
焼け落ちた廃墟の村で少女は待つ。
およそ一ヶ月半前、この村は帝国の襲撃を受け破壊と陵辱の限りを尽くされた。
家は焼かれ、村人は皆殺し。
それを守るべく立ち向かったリリアンヌの両親もその命を落とした。
怒りと敗北の記憶をじっくりと噛み締める。
帝国の勇者に報いを。気持ちを改める。
そして同時に、昨晩のことを思い出す。
女である自分を受け入れ、彼を受け入れた一夜。その時の感触は未だ身体に残っている。
ともすれば体調を崩しそうなものだが、リリアンヌの身体にはいつになく活力が漲っていた。
これまで僅かに感じていた心身のズレが消え、精神は一本の芯が入ったように確固としている。
今ならどんな相手にだって勝てそうだ。
そう―――――
「待たせたな」
かけられる男の声に、無言で振り向く。
黒の外套、黒髪黒目の少年。腰には緩く弧を描く鞘を提げている。
今日の決闘の相手。
「来たな、帝国の勇者」
「ヨシヒコって呼んでくれよ、リリアンヌさん」
少しだけ残念そうにヨシヒコが応える。相変わらず妙に馴れ馴れしいし緊張感も感じられない。
歩いて十歩。相対する二人にとっては踏み込み一つの間合いで両者は向かい合う。
リリアンヌはちらりと太陽を確認した。
「約束の時刻にはまだ少し早いが、始めるか?」
「んー、ちょっと待って」
ヨシヒコが左手を持ち上げると、そこに青い光が灯る。
炎とは異なるぼんやりとした蒼の球体。遠目に、ぽつぽつと二つの白い光点が浮かんでいるのが見える。
光点の数を見て、ヨシヒコは一つ頷いた。
「ちゃんと一人で来てるね」
「感知の魔術か?」
「魔術じゃない。神様から貰った能力だよ。レーダーみたいに場所が分かる」
さらりと語る。相変わらず、手の内を晒すことに全く躊躇がない。
握り潰すように蒼の球体を消し去る。
「よし、じゃあ始めようか」
刀をすらりと抜き放つ。左手一本で握り、だらりと下げて構えは取らない。
「勝敗の規定は覚えているな?」
対するリリアンヌも剣を抜く。
右手に翠の宝石を嵌め込んだ片手剣。左手に愛用のマインゴーシュ。
そしてヨシヒコから見えない位置、服の中に先日鍛冶屋に作らせた短銃が隠されている。
これが鍵だ。
「どちらかが負けを認めるまでだっけ?」
「あるいは死ぬかだ」
「そうそう。……なるべく殺したくないから、降伏してくれると嬉しいんだけど」
「こちらこそ、降伏するなら捕虜としての待遇を約束しよう」
「しないしない」
へらへらと笑いながら否定するように右手を振る。
「だって俺が勝つから」
「そうか」
ぴり、とリリアンヌの周囲の空間が軋む。
魔力の励起。その小さな身に収まり切らぬ魔力が大気中のマナを震わす。
全身に無駄なく力を漲らせてリリアンヌは剣を正面に構えた。
「始めよう」
「いつでもいいよ」
両者の合意。
開戦の狼煙は、リリアンヌから迸る炎だった。
「―――『鎌首を上げよ、炎竜』ッ!」
裂帛の気合と共に爆発的な熱量が発生。それはリリアンヌの操作により極太の柱を形成する。
天高く舞い上がった竜の顎が、逆落しにヨシヒコの頭上から喰らい掛かる。
「効かないよ」
人体を焼き尽くして余りある熱量。それがヨシヒコの右手に触れた瞬間に霧散した。
「知っているッ!」
既に間合いに踏み込んでいたリリアンヌが右剣を振るう。
ヨシヒコはそれを左手の刀で容易く弾き返し、返す刀で斬り掛かる。
リリアンヌの身体は既に後ろへ跳んでおり刃は空を斬る。
「―――おおおおおっ!」
咆哮するリリアンヌと、何処か楽しそうなヨシヒコによる、余人には目にも留まらぬ高速の剣戟が始まった。
「―――――始まったようですな」
空へ昇る炎を見やり、隻腕の老爺はぽつりと呟いた。




