第36話:宵の口
言ってしまった。後悔の念がリリアンヌの胸を苛む。
それでも言わずにはいられなかった。両親にすら言えなかったこの事実を。
「異世界からの転生者、というと……」
「私は、ある世界に生きている人間でした。
その世界に魔法は無く、城のような建物が当たり前に立ち並び、雷の力を用いて文明を作り出していました」
十数年の時が経っても記憶は明確だ。細部はぼやけても忘れることはない。
「その世界での私は、トラックに轢かれて死にました」
「トラック?」
「乗り物です。馬よりも速く、馬車よりも多くの荷物を運び、一人で動かせます」
「凄いなあ、それは」
「はい。魔法はありませんが、高い技術を持つ世界でした」
妹を庇って死んだ自分は、神様らしき何者かと出会いこの世界へと転生することになる。
「高い魔法適性は、神から与えられたものです。本人から聞きました。
身体を鍛える方法は前世の知識を活用しました。
魔法は前世の科学と照らし合わせ利用法を模索しました。
そして先日、この世界に無く、異世界にあった武器を再現しました」
とんだズルをしている。その自覚があるからこそ隠してきた。
これまではそれで良かった。才に恵まれた一人の人間として扱われていたから。
だがヨシヒコと出会い、自分が何者なのかを見せ付けられた気がした。
「私は、この世界における異物なのです」
白鳥の振りをしている鴨のような、本来居るはずのないナニカ。
それが自分たち転生者なのだと、そうリリアンヌは吐き出す。
レオナルドは何も言わない。ただじっとリリアンヌを見つめているだけ。
「ヨシヒコは排除します。それは、仇討ちです。やらねばなりません。
しかし同時に、私も消えるべきではないかという思いが拭えないのです」
ヨシヒコを消す為に、この世界に異物を増やしていく。それは許されないことではないのか。
自分はこの世界にいてはいけないのではないのか。
無論、そんなことはないと頭では分かっている。
自分は、リリアンヌ・ル・ブルトンだ。
ジルベールとシャルロットから生まれ、カロルやセバスチャンに守られて育った男爵家の一人娘。それ以上でも、それ以下でもない。
「だから、お願いします、レオナルド様」
絞り出すような涙を零しながら、レオナルドに縋り付く。
「私に証を下さい。この世界にいるのだと、貴方の女であるのだという、よすがを―――――んぅっ」
突如として顎を掴まれた。強引に顔を上げさせられる。
不意を打たれて動けないリリアンヌの淡く開いた唇に、そっとレオナルドが唇を重ねた。
「ん……ん、んっ……ぷ、あ……」
初めての接吻。
男のがさついた唇が、柔らかく肉づいた少女の唇に押し付けられる。
時間にして秒の二つ三つであろう。しかしリリアンヌには分よりも長く感じられた。
レオナルドの顔が離れ、静かな両の瞳をリリアンヌは視界に捉える。
「本当は、正式に婚約を発表してからにしようと思っていた」
呆然とするリリアンヌの肩を強く掴む。骨張っていて硬い、男の指だ。
見据える瞳は理知的で、しかし奥底に抑え切れぬ炎がちらつく。
「でも君のことを、僕が支えられるのなら。今ここで君を抱く」
「レオナルド様……」
「嫌だと言うなら、今だぞ」
その言葉に、ふっとリリアンヌは表情を緩めた。
レオナルドは……自分の伴侶となる人は、この段に至って未だにリリアンヌの意思を確認するのか。迫ったのはこちらからだというのに。
据え膳を食わない男とはまさにこのこと。差し出されて、さあどうぞと言っているのに、本当にいいのかと重ねて問うているのだ。
ともすれば弱男と言われよう振る舞いだが、リリアンヌはそうは思わない。
彼は心底リリアンヌのことを案じてくれているということなのだから。
「ええ。お願いしますレオナルド様。今宵、私を貴方のものにして下さい」
穏やかに答えるリリアンヌに、レオナルドはもう言葉を返さない。
片手を肩から背へと移し、優しくリリアンヌを押し倒した。
作者「あかんかな」
友人「(セッションシーンは流石に)いかんでしょ」
セッションシーンに関しては後日ノクターンの方にページ作って投げます。
※追記(9/14)
セッションシーン上がりました。大人の方のみお楽しみ下さい。
→次話(R-18の為、未成年の閲覧禁止) 『36.5話:初夜』
http://novel18.syosetu.com/n3422eg/1/




