第34話:試射会
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ドラゴン、好きですか。
今後とも宜しくお願い致します。
城砦都市、東門を出て街道を外れた位置にある小さな森。
いつもは鳥だけが囀る森で、その日は王国軍の関係者数名が集まっていた。
「ほれ、これが完成品だ」
丸っこい鍛冶屋の主人が、リリアンヌに鉄筒と銃弾を手渡す。
それはリリアンヌの記憶とは少々異なる形状の、しかし間違いなく銃であった。
子供の背丈ほどもあるその鉄筒は、三分の二ほどを銃身が占める。
銃身は長いほど射程と威力が向上するが、長すぎれば携行に向かず、また加工も難しい。実用性を考えればこのくらいが適当であろう。
後部は至ってシンプル。特筆すべきパーツは引き金と銃把くらいだ。
前世の銃と違い、発射機構は弾丸に刻み込まれた術式が本体となる。
雷管を叩く撃針、撃鉄は要らない為、銃と言いつつ実態としてはほぼただの鉄の筒だ。
最も複雑なのは銃弾だ。
指で摘める大きさで、片方が尖った円柱のような形状をしている。リリアンヌが持ち込んだ竜の牙を加工したものである。
表面には術式が刻み込まれ、これに魔力を流し込み発動することで発射及び弾道制御を行う。
「では、試射を行います」
試射を執り行うのは発案者であるリリアンヌ。宣言を受け、全員が発射方向から距離を取る。
発射方向に誰もおらず、設置した的だけがあるのを確認し、リリアンヌは銃把を下にして地面に置く。
銃弾後部、平らな面を下にして銃身に篭める。
小さな擦過音と共に銃弾は筒へと入り込み、かつんと落下音を立てた。見事な寸法の調整だ。手作業とは思えない。
次いで、銃先を天に向けたまま持ち上げ、引き金を引く。内部の銃弾が更に落ちて銃身の最奥へと入り込んだ。
引き金を戻し、銃先を下に向けても落下しないのを確認。
引き金が銃弾を固定する構造となっている。引き金は魔力伝導率の良い素材で作られており、引き金を通じて銃弾に魔力を流し込める。
装填に異常がないのを確認し、的へと銃口を向ける。
銃床は肩に当て視線と銃身を等しくする。引き金に指をかけ、僅かに魔力を流し込む。
銃弾に魔力が満たされたのを肌で感じる。
とはいえ、頬を銃把に押し当てているリリアンヌにしかわからないほどの微弱な反応だ。銃の射程を考えれば魔力の気配を読まれる心配は無いだろう。
狙いをつけ、引き金を引く。引き切ったのを確認し―――魔法を発動した。
ダァン!
鼓膜を激しく揺さ振る破裂音。痛いほど食い込む銃床。反動で揺れる銃身。
びりびりと頭が痺れる。
予想以上の衝撃だ。耳栓を用意するべきだったか。
しかして、実験は成功だった。
「おお……」
誰かが漏らした感嘆の声が全てだ。
リリアンヌが銃弾を放った瞬間、遠方の的に大穴が開いたのを見たのだ。
秒も満たぬ間の出来事であるが、その短さが銃の強みを何よりも雄弁に語っている。
「なるほど、これは……防ぎようがありませんな」
「あの魔力量では探知出来ない。威力は魔法に劣るが、防御無しの人体に対しては十分過ぎるほどだ。撃たれてからでは遅いのも長所になるな」
「射程も相当なものだ。もっと遠くまで狙えるのだろう?」
興奮気味に語られる言葉は総じて好感触。無事に終わったことを確信したリリアンヌは、ほう、と熱い息を吐く。
「……ところで、弾丸は回収できないのかね?」
その一言に皆が渋面を作った。
「今回の一発については、探せると思いますが……」
「用途としては不意打ち。実戦で弾を回収している余裕は望めないか」
「これ一発にどれだけのコストがかかるか……」
まあそうなるだろう、と銃をコツコツと指で叩きつつリリアンヌは思う。
射程や威力はまだまだ伸ばせそうであるし有用性も明白だ。
しかして消耗品である弾丸に竜の牙というのは材料が稀少に過ぎる。
「しかし、今回に限っては大丈夫でしょう」
振り向き、リリアンヌは堂々と言い放つ。
「弾丸の残りは、あと幾つほどで?」
「百は作れると思うぜ。お前さんが袋一杯に持ってきてくれたんでな」
「十発もあれば十分です。残りは保管しておいて下さいな。他の何かに使えると思いますから」
「ま、竜の牙だからな。何にだって使えるだろうよ」
リリアンヌの問い掛けに鍛冶屋が応える。
恐らく、実戦で撃つのはせいぜい二、三発。試し撃ちを考えても十発あれば事足りる。
「ああ、それともう一つ、言われてたもん作ってきたぜ」
鍛冶屋の主人が懐からモノを取り出す。
それは、大人の掌ほどの小さな銃。リリアンヌが片手で握れる銃把に引き金、そして短い銃身。
前世では拳銃と呼ばれていたものを、更に銃身を切り詰めたような形状。
「言われた通りに作ったがよ……これ、かなり飛距離は短えんじゃねえか?」
「そうでしょうね」
先程の長銃と同じように弾丸を装填する。かちん、と機構が動作しているのを確認。
「すみません。少し離れて貰えますか? そこの木に向けて撃ちますから」
「ん、おう」
言われた通りに皆が離れる。
今度は、少々危険な実験だ。リリアンヌは気合を入れ直した。
銃口をゆっくりと木の幹に向ける。
「―――――ッ!」
瞬間的に魔力を励起。リリアンヌの強大な魔力が引き金を通じて弾丸に雪崩れ込み、暴発気味に術式が発動する。
ガオン!
衝撃を押さえ切れずリリアンヌの右腕が跳ね上がる。感覚を失いそうなほどの振動が右肩を襲う。衝撃波に肌が震えた。
痛みに眉を顰めながら短銃を確認する。
「すみません。壊しちゃいました」
「こ、壊しちゃいましたってお前なあ……」
短銃は想定限界を超えた衝撃に耐え切れず、接合部がガタガタになっていた。部品が脱落しないよう、そっと鍛冶屋の主人に手渡す。
「でも、成功ですよ。見て下さい」
木に刻まれた弾痕を示す。
それを見た軍関係者達は、唖然として言葉も出てこない。
撃ち込まれた銃弾は太い幹の半ばほどまで達していた。埋まった弾丸を中心に放射状に木が抉れている。
「こ、これは一体……」
「魔力全開で発射しました。ただ恐らく、これ以上は射手と銃本体が保たないかと」
痺れる右手を振りつつリリアンヌは答える。
至近距離での抜き撃ちでどれだけの威力が出るかの実験であるが、予想以上だ。
弾丸の素材である竜の牙が想定を超えて魔法と馴染んだのだろう。
ただ、制御は困難だ。細かい弾道制御を行える威力ではないし、悠長に狙っていては発射を読まれて防御されてしまう。
あくまで至近距離で放つことになるだろう。
そんなことをするなら魔法と剣で攻撃した方がまだいい。
「ありがとうございます。修理しておいて下さい」
「まあすぐ直せるがよ……本当に使うのかこんなもん」
「ええ、必要ですから」
長銃と短銃。リリアンヌの作戦に必要な二つの武器は揃った。
あとは作戦実行日を待つのみ。
帝国領の方角を、厳しい目で睨んだ。
残り、五日。




