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その元・男、現・貴族令嬢にて  作者: 伊賀月陰
第一章:失ったもの、失わなかったもの
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第32話:竜vs人




「『風よ、運んで』!」


 先手はリリアンヌが取った。風を纏って疾駆する。

 竜は魔法を使うと言われている。感じる魔力からして、その出力はリリアンヌでも足元に及ぶまい。

 よって早急に懐に入り込み、迅速に一撃を加えて離脱。これしかない。

 迫るリリアンヌに、白竜が口を開く。

 火の息でも吹くのか、と魔力を練り上げる。


『グォァ―――――!』


「なあ……っ!?」


 白竜は魔法を編むでもなく、ただ吼えた。

 それだけで音圧が身体を叩き、魔法は構成を崩され、魔力が乱される。

 攻撃でもなんでもない。

 莫大な肺活量で吠え立て、そこに自然と漏れ出す魔力が乗ってしまっただけ。

 ただそれだけで、リリアンヌの攻撃は押し留められた。


「反則だろう、それは!」


『此の程度で怯むとは貧弱よなあ』


 初見でこれを受け流せる人間がいたら見てみたい。

 崩された風の魔法を再構成しながら、回り込むようにリリアンヌは駆ける。

 素の脚力でも十分に速い方ではあるのだが、いかんせんこの竜相手に人間基準の速さがどこまで通じるか。


「ふ―――ッ!」


 体内に練り上げた魔力で、瞬間的に風のマナを集め噴出する。

 ピンボールの如くリリアンヌの姿が跳ね跳ぶ。


『ほう、対処が早いな』


 白竜も身体を回してリリアンヌを視界に収めんとするが、僅かながらリリアンヌの方が速い。

 このまま背後を取って―――と行きたかったのだが。


「よ、っと!」


 ごお、と振り回された尻尾を回避する。

 速さは避けられる程度だが、万が一にでも直撃すれば一撃でノックアウトだろう。

 悠長に背後を取らせてはくれないようだ。

 回避行動を取っている間に白竜の旋回が追い付いてくる。


『次はこちらから行くぞ』


 宣言と同時、魔力が渦巻く。

 これまでの垂れ流していた魔力の波動ではない、本格的な魔力行使。

 現れるのは巨大な水球。


『吹き飛べ』


 轟音と共に水球が放たれる。

 さながら真横に落ちる滝の如く、リリアンヌを圧殺せんと迫る。


「当たるか!」


 直線と分かっているなら何も恐れることはない。宙を跳ね跳びコースを逃れる。

 今の隙に距離を詰めて、と考えつつも実行に移らなかったのが結果的に命を救うことになる。


『ほう、では次だ』


「は?」


 背後を大水球が通り過ぎるのを感じつつ、白竜の横に次の水球が現れるのを見る。

 再度放たれる瀑布を慌てて回避する。


『さて何度凌げるかな』


 三つ目、四つ目の水球が浮かび上がる。

 流石にこれにはリリアンヌの頬も引き攣った。


「こ、のぉ!」


 連続で放たれる大水球を間一髪で回避し続ける。水球が岸壁にぶつかって洞穴を震わせる。

 これだけの攻撃を連射して全く魔力が衰えないのは流石の竜種といったところだが、当然ながら限界はある。

 避け続ける内、構成される水球が徐々に小さくなっていく。


『む……』


「マナ不足だ。当然の結果だよ!」


 白竜の周囲に存在する水のマナを使い切ってしまったのだ。

 常人には無縁の現象だが、ここまでの大規模魔法を連発すれば空間中のマナは一時的な枯渇を起こす。閉鎖空間なら尚の事。

 リリアンヌとてただ無策に体力を消耗していたわけではない。

 莫大な魔力があれど、マナが無くば魔法は使えないのだ。


「一撃、見舞わせてもらう!」


 今度こそ全速の突撃。

 白竜はそれを見据えて、動じることなく。


『では使い回すか』


 洞穴内全体に白竜の魔力が満ちる。

 何が、と視界を広げたリリアンヌの目に映るものは。


「水が……」


 撃ち出され、洞穴の随所に散っていた水が浮かび上がる。

 それは吸い込まれるように白竜の元へと集まっていく。

 まずい、と足を速め剣を振り被るが一瞬遅い。

 莫大な水の壁に行く手を阻まれ、やむなく後退する。

 下がるリリアンヌに覆い被さるように水が落ち、飛沫を上げた。


『ふむ、これで元通り』


 落とした水を壁に戻し、平然と告げる。


 白竜の魔力を甘く見ていた。リリアンヌは臍を噛む。

 大規模な魔法攻撃を連発すればいずれ魔力は尽きる。

 そうリリアンヌは考えていたし、実際白竜の魔力とて無限ではないだろう。

 しかしこれだけの攻撃をしても一向に余裕が崩れない白竜と、高速機動の連続で息が荒れ始めているリリアンヌ。

 白竜の魔力が切れる前にこちらの限界が来るのは明白。

 実力差があるのは戦闘前から分かっていたが、ここまで隔絶しているとは。


 これが竜種。

 人類史よりも長く生きる古の怪物。


『中々素早い。これは捉えるのが手間だな』


「ほざきよる」


『いやこれでも驚いているのだぞ。ここまで粘る人間は珍しい』


「そりゃどー、もっ!」


 激音立てて迫る水撃を回避する。

 離れた場所の水も操れると分かった以上、避けた後の水にも警戒せねばならなくなった。

 このまま戦闘が続けば、決着は早い。潰されるか、魔力が切れるか、体力が尽きるか。

 いずれにせよリリアンヌの敗北で終わるのは必定。

 これはもう、覚悟を決めるしかあるまい。

 リリアンヌはステップを踏み、ゆっくりと後退する。


『何をするつもりかな?』


「言わなくても分かるだろう」


 魔力を全開励起。左右の剣を通して魔法を構成する。

 洞穴内で白竜とリリアンヌの魔力が衝突し、マナが震える。

 隙だらけの攻撃準備。これに対して、白竜は笑うように鼻息を吹くのみ。


 やれるならばやってみろ。

 そう言わんばかりに。


 ならばリリアンヌはこう返すべきだろう。

 上等だ、と。




 一か八かの策を胸に、リリアンヌは地を蹴った。





Q.竜種と人類の違いってどのくらい?

A.だいたいFFとWizくらい

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