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その元・男、現・貴族令嬢にて  作者: 伊賀月陰
第一章:失ったもの、失わなかったもの
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第29話:二人の語らい






 ほう、ほう、と夜鳥が啼く。


 木々に囲まれた開けた宿営地。その外れに、男が一人座り込んでいた。

 時折、傍らに積み上がった枯れ木を焚き火に放り込む。ぱちぱちと弾け、火勢が保たれる。


 男はぼんやりと何かを見ていた。

 持ち上げた左掌には蒼い円盤のような光がある。

 よく見れば、表面には黄色の光点が幾つも瞬いている。

 中心に一つ、男から見て右下方向に多数。そして左上にも一つ。

 光点は動かないが、左上の一つだけは徐々に中心に近づいてきていた。

 男はその光点が中心部に近付くのをじっと眺め……重ならんとしたところで、円盤ごと握り潰すように消した。


「良い夜だな」


 語り掛けられた言葉に、男は顔を上げる。









「良い夜だな」


 月明かりの殆どない晩。リリアンヌは目の前の男にそう語り掛けた。

 長身痩躯、黒い装束を纏い、腰に刀を携えたその男は、驚く様子もなく顔を上げる。


「こんばんは」


「ああ、今晩は、だ。―――息災かな、勇者ヨシヒコ」


「俺は元気だよ。君はどうかな。ええと……」


「リリアンヌだ」


「そう、リリアンヌさん。やっと俺のところに来る気になった?」


「土下座して這い蹲って首を差し出したら、斬り落とした後に考えてやる」


「駄目ってことかあ」


 がっくりと肩を落とす。

 どう見ても隙だらけだが、腰の剣には手をかけない。防がれると分かっている。それほどの力の差がある。

 それを知ってか知らずか、無邪気に話しかけてくるヨシヒコ。


「じゃあ、復讐?」


「間違ってはいないが、今この場でやり合うつもりはない」


 勝てないから。

 万に一つ勝てたとして、それは相討ちになるだろう。

 リリアンヌ個人の心情としてはそれでも一向に構わないが、リリアンヌには遺された領地がある。

 自分は、コレに勝利せねばならない。相討ちではない、勝利だ。


「少し、話に来た。嫌なら帝国兵を呼ぶか刀を抜け。全速で逃げる」


「まさか、大歓迎だよ。また日本人と話せるなんて夢にも思わなかった」


 ばしばしと横の地面を叩くヨシヒコを無視して、焚き火を挟んで向かいに座り込む。

 ガッカリした様子を見せるが、まさか本気で横に座ってくれるとでも思ったのだろうか。


「今回わざわざ足を運んだのは他でもない。―――決闘の申し込みだ」


「いいよ」


「即答か。私がどんな条件を付けるかも言ってないぞ」


「何でもいいよ。俺の方が強いし」


 思わず反駁しようとし、唇を噛んで言葉を呑み込む。

 ヨシヒコの方が圧倒的に強い。これは客観的に見て正しい事実だ。

 そして、そう思っていてくれなければこちらの策は通らない。


「……勝敗は、どちらかが死ぬか負けを認めるまで。武器・魔法の制限はなし。場所は……そちらに任せよう」


「じゃあ、この間の焼けた村でどう?」


「構わないが、こちらの領地だぞ」


「別に俺一人が入り込む分にはいいでしょ」


 こちらが持ちかけた決闘だ。否やはない。


「いつにする? 明日?」


「こちらにも死に水の準備がある。なるべく日があると有り難い」


「んー……じゃあ一ヶ月くらい?」


「それでいい」


「じゃ、それで。いや決闘なんて初めてだな」


 ウキウキと肩を揺らすヨシヒコに眉を顰める。


「殺し合いだぞ」


「決闘でしょ?」


 きょとんとした目のヨシヒコに、いよいよリリアンヌの困惑も極まる。

 思わず疑問が口を突いて出た。


「お前は……なんだ。何故そんなに躊躇がない?」


「えー、そんなに俺って変かな?」


 からん、と枯れ木を焚き火に投げ込みながら。


「同じ日本人なら分かるでしょ。此処、まるで夢の世界じゃない」


 顎を上げ、星空を仰ぐ。


「魔物がいて、魔法があって、なんだか中世ヨーロッパみたいで」


 それはリリアンヌにも分かる。

 この世界は、まるでかつて絵物語に描かれるファンタジー世界のようだ。


 同時に、思う。

 この世界は夢の世界などではないと。


「そんな夢の中で、俺は神様に選ばれた最強の勇者! 王様に頼まれて国を救う!」


 楽しそうに笑いながら。


「いいじゃん、こういうのってさ」


 その気持ちだけは分からなくもない。

 リリアンヌも前世は日本人の男で、十数年の時を経てもある程度は色濃い記憶が残されている。

 その魂が、ファンタジー世界で勇者をやる、という状態に好感を示している。


「時には失敗もあったり、障害も襲ってきたりするけど、最後には勇者が勝って大団円。そんな捻りのない王道がいいんだよ」


 そう思わないか、と同意を求める視線を向けられるが、リリアンヌは静かに首を振った。


「そっか。……まあいいや。俺が勝ったら、ちゃんと殺さずに捕虜にしてあげる。周りが色々言うだろうけど俺は殺すつもり無いから」


「そうか」


 こちらは殺すつもりで動いているのだが。


「では、一ヶ月後に件の村で待っている」


「うん。……ああ、そうだ。それまで帝国軍動かしちゃいけないとか無いよね?」


「なるべく動かさないで欲しい、というのが個人的な願望だが、それはお前に要求することじゃない」


「じゃ、好きにやらせてもらうよ」


「ああ。―――では一ヶ月後にまた会おう」


 そう言い残し、リリアンヌは駆け出す。

 僅かな魔力のみを走行の補助に用い、迅速に帝国領を離脱する。




 残り、一ヶ月。







正確にはリリアンヌが転生、ヨシヒコが転移になります。

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