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その元・男、現・貴族令嬢にて  作者: 伊賀月陰
序章:転生令嬢、その華麗なる幼少期
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第19話:出陣

書いててほぼイキかけました。

序章ラストまで分割して投稿します。








 国境付近における帝国兵の活発化が確認されてからきっかり半年後。


「御報告致します。―――帝国軍の、緩衝地帯への侵入を確認致しました」


 屋敷に飛び込んできたセバスの報告に緊張が走る。


「王国軍への報告は?」


「監視部隊から直接早馬が行きました。私めが走るよりは遥かに速いでしょう」


 帝国軍の本格的な行動開始。

 もう疑うべくもない。帝国軍の侵攻が始まったのだ。


「オーランド公は、早馬を受ければすぐに動き出すだろうが……少し、間に合わないか?」


 机に広げられた地図。国境から王都へ向かう道筋には、まず始めにル・ブルトン領がある。

 その領内でも最も国境近くの農村。ここを橋頭堡とするのが帝国軍の狙いだろう。


 王国軍本隊はオーランド公爵領で待機中。

 先発隊が丁度こちらへ配置予定だったので行軍中であるが、早馬を受けて進軍速度を上げたところで僅かに間に合わない。

 推測では、帝国軍が農村に到達してから王国軍が間に合うまで半日ほど。これだけあれば向こうは迎撃準備を整えるだろう。


「―――迎撃に出る。セバス、兵に連絡を」


「御意に」


 命令を受けたセバスは即座に屋敷から駆け出していく。ル・ブルトン領の兵に集合命令を伝えに出たのだ。

 しかし兵と言っても、殆どは日頃鍬を握っている農夫達。最低限命令通りに戦えるかどうかといった雑兵だ。

 敵先遣隊と当たるには些か不足が過ぎるのではないか。

 そんなリリアンヌの懸念が顔に出ていたのか、ジルベールは笑って応える。


「足止めだよ。全面衝突なんてするつもりはない。嫌がらせに徹して、可能な限り進軍速度を鈍らせるんだ」


 よっぽど上手く行けば村を守れるかもな、と冗談めいた口調で語るが、その眼は真剣そのものだ。

 領民を可能な限り救う、領主の顔をしていた。


「それなら、私も行きます」


「ダメだ。何度も言っているだろう」


 ずい、と顔を寄せて厳しく言いつける。


「リリアンヌは剣も魔法も一端の騎士以上になった。魔獣狩りも十分な経験を積んだ。父さんや母さんとの模擬戦で対人経験も積んでる。

 ……でも初陣はまだだ」


「ならこれを初陣にします」


「ダメだと言っている」


 ジルベールは両肩をがっしりと掴み、目線を合わせた。

 リリアンヌも臆することなく受け止める。


「いいか、これは敗北前提の戦闘になる。オーランド公は理解してくれるだろうが、それでも部隊が壊滅して撤退するのは確定事項だ」


 戦う前から確定している敗北。

 敵の規模がどれほどか分からないが、侵攻第一陣を弱卒・少数で編成しているとは考え難い。

 正規軍による大規模な部隊だと予測するのが妥当だ。

 納得しがたい。その姿勢を崩さないリリアンヌに、ジルベールはふっと口元を緩ませる。


「すまんな。これは父さんの我儘なんだ」


「我儘……?」


「お前の初陣を、こんな泥臭い撤退戦で飾りたくない。

 お前の出番はもっと後。王国軍と帝国軍がぶつかって、戦線を構築して……それから、華々しい勝利で始まるんだ。

 大丈夫、リリは強い。それこそ母さんよりも、父さんよりも、もしかしたらこの国の誰よりも強いかもしれない」


「そんなことありません……まだ剣も魔法も勝てないんです」


「でも、リリは全部使える。一つ一つでは負けていても相手より上回っている部分で勝負すればいい。それが出来るのは、リリが強いってことなんだ」


 ま、剣はもっと修行しないとな。とジルベールは快活に笑った。


「ずるいですよ、お父様」


 そんなことを言われては、娘としてこれ以上迷惑はかけられない。


「ごめんな、ずるい父親で」


「いいえ、いいんです」


 リリアンヌは家族が大切で、好きだから、守りたいのだ。

 その家族からお前を守ると言われては従うしかない。


「早く帰ってきて下さいね」


「ああ、剣の素振りでもして待っていてくれ」


 ぎゅ、と強く抱き締めあって、離れる。

 再び目を合わせた時には、父親から領主の顔に戻っていた。


 地図を再度確認し、帝国軍の侵攻ルートの予測を立てつつ、ジルベールは戦支度をする。

 といってもジルベールは軽装を好む。

 鎖帷子を着込んで厚めの布服を纏い、籠手やブーツをしっかりと装着し、兜を被って腰に愛用の二剣を携えればそれで整う。

 固定を確認している内に、セバスチャンが戻ってきた。


「集合、完了しました」


「御苦労。セバスも装備を整え次第来てくれ。先に出ているぞ」


「御意に」


 ジルベールはリリアンヌの頭を一撫ですると、屋敷の正面から出て行った。

 シャルロットも収束具である指輪を五指に嵌め、挙動を隠しやすい貫頭衣に外套と羽織ってジルベールに寄り添う。


 リリアンヌは、それを祈りながら見送ることしかできない。

 両の掌を合わせ、いるに違いない神に祈る。

 神様、どうか私の両親が無事に帰ってこられるよう取り計らってください。

 私が多くの才を持ち、幸福な家に生まれ育てたその加護を、両親にも分け与えてくださいと。






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