第15話:出会い
少し遅くなりました。申し訳ありません。
デイリーPV1600超過ありがとうございます。……なんで急に増えた?
話の流れはお互いの年齢や趣味から、少し踏み込んだ話へと進んでいった。
「え、それじゃあリリアンヌは両親から教育を?」
「家庭教師を雇うのもお金がかかりますので」
リリアンヌへの教育は、魔法担当シャルロット、剣術体術担当ジルベール、礼儀作法カロルという配分。
本当ならば本職を雇うべき分野もあるのだろうが、貴族へ教育を施せる家庭教師となれば相応の謝礼が要る。あまり我儘を言うのも気が引けた。
しかしレオナルドが驚いたのはその点ではなかった。
「あのジルベール殿に剣を教わっているのだろう。金貨を積み上げてでも教授願いたい者は幾らでもいると思うぞ。それを毎日だなんて、リリアンヌは凄いな」
「”あの”ジルベールとは?」
「なんだ、知らないのかい? あの方はね―――」
「こうして互いの子供を合わせるというのは、感慨深いものがあるな。なあジル」
「はい。誠に光栄の極みです」
「……二人で話している時くらい、その堅苦しい振る舞いはよしてくれないか『副隊長』」
「周りに要人が犇めいてる状況で馴れ馴れしい言葉遣いなんか出来るわけないだろう、この脳筋。それにもう俺は副隊長じゃないし、お前も隊長じゃあないだろう」
「くく、そうそう。よくそうやって毒づいてたな副隊長殿は。それを聞かないと調子が出てこねえよ」
「近寄るなマゾヒストのホモ」
「不敬でしょっ引くぞ」
「あっ、お前そこで地位を濫用するのはずるいぞ」
「お父様が、オーランド公の部下?」
「元だけどね。『業炎』のヴィクトル……ああ、これは父上のことね。
隊長のヴィクトルと、副隊長『風迅』のジルベールと言えば、剣を志す者なら知らぬ者はいないと有名だよ」
「知らなかったです……」
「うちは父上がよく自慢話をするから、飽きるほど聞いたよ」
苦笑するレオナルド。リリアンヌとしては寝耳に水だ。まさかそんな有名人だったとは。
そこでふと思考が至る。
(もしや自分も、彼の娘として注目されるのでは?)
その想像は当たっているのだが、もはやリリアンヌ個人としても注目を集めているので気を付けても無駄なことには思い至っていない。
「今度からは、もう少し敬意を持って稽古に臨むことにします」
「ああ、それがいいさ。しかし、その歳で剣技とはね。将来は騎士……ではないか」
後継ぎが必要だしな、と次ぐ。
「はい、私はル・ブルトン家の娘ですので」
いずれは爵位と共に何処かへ嫁ぐか、婿を取るかになるだろう。選択肢は殆ど無い。それは貴族に生まれた者として自覚している。
それでも、かつて聞いた『苦難』への備えを欠かすことはしたくなかった。
またそういった目的意識抜きでも、剣術や魔法の鍛錬は楽しいと感じているので辞める理由はない。
「近頃は木剣での打ち合いも楽しくなってきて。暇さえあれば庭に出て振り回しております」
「ははは、元気なお嬢さんだ。僕も見習いたいよ。……兄達からはどやされるけど、僕はどうにも剣が苦手でね」
武人の家なんだけどな、と一人ごちる。
「風当たりが?」
「いや、好きにやればいいと言われているよ。だから本を読んで過ごしているのだしね。
それでも……兄や父が楽しそうに稽古で汗を流しているのを見ると、堪えるものがある」
明確にわかる、愚痴だ。
「剣を握ったことは?」
「あるよ。筋が悪いと言われたし、僕も全然楽しくなかったからすぐやめちゃったけど。
好きでもないことを続けるのは、誰の為にもならないと思うんだ」
「誰の為にも?」
「身の入らないことを続けても効率が悪いし、教えて貰ってる相手にも悪いってこと。そう考えてしまうと、続けるのが辛くなった」
興味のないことを続ける辛さ。勉学に通じるものがある。
勉学も剣術も、続ければ大なり小なり結果が出るものだから、我慢が足りないと言われてしまえばそうだろう。
しかし好きなことに邁進するならそちらの方がより頑張れるわけで、それはそれで間違ってないようにも思う。
レオナルドが悩んでいるのは。
(彼が、武門の家柄だから)
これが学者の家であったならレオナルドは心置きなく本を読み、研究の道に進んだろう。
オーランド家に生まれたという事実がレオナルドを縛っている。
周囲の無理解、というわけではない。無理解ならば周囲は剣を押し付けよう。
今こうしてひょろっとした身体で本を読めていることこそが、レオナルドが許容されている証拠に他ならない。
彼を責めているのは彼自身の責任感だ。
レオナルドを救うにはどうしたら良いか。リリアンヌは頭を回す。
周囲に働きかける必要はあまりない。レオナルドの悩みはレオナルドの性格に起因するものだ。
救ってあげたい。
自然と、そう思う。前世と同じように。
「レオナルド様」
「……ああ、すまないね。恥ずかしい話を聞かせてしまった」
「文通しませんか?」
「―――は?」
ぽかんと間抜け顔を晒すレオナルドに、全力の作り微笑みでニッコリ対応してみせた。
「私、勉強したい分野は山ほどあるのですが、どんな本を読んだらいいのか分からなくて。
もし宜しければ、定期的に手紙のやり取りなどさせて頂けたらなと思うのですが」
瞳の揺らぎが収まってきた。だがその前に畳み掛けさせてもらう。
「申し訳ありません、私め如きが過ぎたお願いを致しました」
わざとらしく深々を頭を下げてみせる。
予想通り、慌てたような言葉が降ってきた。
「い、いや別にそんなことはない。僕としても断る理由は……」
「しかし御迷惑では……」
「そんなことはない!」
おずおずと視線を上げてみせる。
「解った、僕で良ければ相談に応じよう。いつでも気兼ねなく手紙を出しておくれ」
「宜しいのですか?」
「もちろんだ」
不安気な顔から、一点笑顔に―――できただろうか?
「有難う御座います。領に戻ったら早速書かせて頂きますね」
「ああ、楽しみに待っているよ」
にこやかに会話する二人。
「……おい、本当にお前の娘かあれは」
「……俺もたまに疑わしく思う時があるよ」
それを遠くから眺めながら、引き攣った顔で顛末を察する男二人なのだった。
悪徳令嬢要素。




