第13話:ブリーフィング
間食にと用意された果物を貪り食い、泥のように眠った。
馬車での旅路はリリアンヌの想像以上に疲労を強いており、周囲もそれを知ってか好きなように休ませてくれた。
昼前に屋敷に着いた筈が、ぐっすり眠って気付いてみれば。
「………あれ、まだ昼?」
「もう昼、で御座いますよリリ様」
カロルが呆れたように応えた。
なんと丸一日眠っていたらしい。服もそのままだったので格好が酷いことになっている。
「今晩はサロンなのですから、すぐに支度を始めましょうね」
「すぐに?」
「ええ、時間は幾らあっても足りませんので」
まずはくしゃくしゃの服を脱いで、ぼさぼさの髪と汚れた肌を清める。湯船に浸かりたいという気持ちもあったが、流石に出先では要求できない。
桶にぬるま湯を張り、布で身体を拭く。
その間にカロルが髪を櫛る。
次に、軽くだが食事。何故食事かと聞いてみれば、これから身嗜みを整えるのでサロンが始まるまで食事を摂れないからとのこと。
一晩ぐっすり眠ったせいでお腹が空いている。
リリアンヌは差し出されるがままに食事を貪った。この身体は小さい癖に燃費が悪く、たらふく食わないと魔力が足りなくなるのだ。
「さて、それでは御めかし致しましょうね」
カロルの手で再び肌着まで剥かれる。少しだけ楽しげなのは見間違いではあるまい。
目の前の姿見には、生まれて十一年近く付き合ってきた自分の姿が映っている。
伸ばし続けて背中まで届いている真っ直ぐな金色の髪。
すっと伸びた鼻に、焦げ茶色の瞳を持つくりっとした眼。ふっくらと柔らかそうな口元。
首から肩、腕にかけては少し筋肉がついているが、その上から女の子らしい脂肪がついており健康的だ。肌は毎日の運動でうっすら焼けている。
胸は最近みるみる膨らみ始め、肌着をはっきり押し上げている。そろそろ専用の下着が必要だろう。
へそから腰にかけてはくびれているが、臀部は丸く肉が付いており女性らしいフォルムを演出している。
足は普段酷使されているせいか、骨太ながらすっきりと締まっている。
少女から女性への変化が、既に現れ始めている。
前世の小学生時代の記憶は曖昧だが、胸が膨らみ始めている同級生もいた気がする。
自分は発育が良い方なのだろう、とリリアンヌは自己分析する。食生活に気を付けているのと、運動を欠かしていないからだろうか。
もしかしたら神の加護か何かかもしれない。
そんなことを考えている内に、カロルの手で髪が結い上げられていく。ぱちん、と髪留めが嵌められれば髪の用意は終わり。
あとは服だな、と鏡越しに後ろを見てみれば。
「………ばあや、それは?」
「はい、今日のドレスですよ」
「ひらひらの?」
「一番の他所行きで御座いますね」
全力で女の子女の子したふりっふりのドレスであった。
「うう、落ち着かない……」
「ふふ、似合ってるわよ」
「お母様みたいなドレスの方が良かったです」
もじもじとスカートを下に引っ張りながら、両親達と共に廊下を進む。
リリアンヌはカロルに着せられたふりふりのドレス。
ジルベールはすらっとした長ズボンに長い上着を羽織り、ただでさえがっしりとした肩幅が凶悪なシルエットになっている。
シャルロットは腰を細く締めたワンピースドレスだ。
あれはあれで実際着たら恥ずかしいのだろうが、少なくとも女の子全開のこの子供向けドレスよりは格段にマシであろう。
それとも、この世界の同年代の少女達は皆こういう服装に憧れるものなのであろうか。
「ほら、リリ。もうすぐ大広間に着くぞ」
「はいお父様」
そっとジルベールの左手、シャルロットの右手を握る。
この先の大広間に、この国の貴族達が集まっている。
魔窟と思ってよかろう。
国を、民を率いるとはそういうことだ。
しっかりを足を踏み締め、視野を大きく持ち、口を意識して緩ませ。
リリアンヌは大広間に踏み込んだ。
ノクターンならエロを挟むタイミング。