表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
その元・男、現・貴族令嬢にて  作者: 伊賀月陰
序章:転生令嬢、その華麗なる幼少期
10/72

第9話:リリアンヌvsシャルロット(後編)





 シャルロットは焦っていた。


 今のところ、シャルロット優勢で進行できている。リリアンヌの攻撃は完璧に防いでいるので彼女は相当焦っている頃合だろう。

 だがシャルロット側にも焦る要因はあった。


(魔力保つかしら……)


 シャルロットは元来魔力量が多い方ではない。故に魔法を使ってもさほどの威力は生み出せないのだ。

 幸いにして今回の模擬戦はノックアウトではなく当てれば勝ちなので、魔力量の多いリリアンヌ相手でも問題ないと踏んでいたのだが……


(まさか拳で殴るなんて)


 日頃の魔力操作訓練と、生来の魔力量が成せる技だろう。

 リリアンヌは自身の拳に魔力を纏ってぶん殴るだけで、シャルロットの魔法を破砕しているのだ。


 とてもエレガントとは言えない野蛮な戦法だが、この戦闘においては魔法阻害を受けない、

 そして基本四属性を気にする必要がないという二点で優れていると言える。

 本来ならば消耗の激しい技だろうが、そこは魔力量に長けるリリアンヌ。

 攻め気を見せるシャルロットとどちらが先に魔力の底が見えるかと言えば。


(十中八九、お母さんが魔力切れねえ)


 先程から連発している魔法阻害とて魔力を消費するのだ。


「『解除』~」


 木陰から飛んできた火球を霧散させつつ、シャルロットは飛んできた方向に視線を向ける。


「あらあら……万策尽きたのかしら?」


 こちらに向かって真っ直ぐに疾走してくるリリアンヌの姿が見えた。

 魔力を励起させてはいるが、火球を発射した直後のためか発動の予兆はない。

 当てれば勝ち、故にシャルロットはここで決着を着けにかかる。


「『炎の蛇よ』」


 更に、唱える。


「『炎の蛇よ』―――」


 重ねる。


「『炎の蛇よ』………」


 三つ、、四つと渦巻く炎。一つ一つもこれまでより一回り大きい。


「『連なり、逆巻き、喰らい尽くせ』!」


 そして放たれるのは極太の炎柱。リリアンヌへと向かい、中途で分裂する。

 一本はそのまま正面へ。二本はそれぞれ左右から殴り込むように。残りの一本は、下から抉り込むようにリリアンヌを襲う。


(さあ、どうするかしら?)


 着弾までには秒もない。魔法で迎撃するには遅すぎるし、拳に魔力を集めての迎撃も間に合わない。

 四本全てが直撃コース。シャルロットの勝利だ。


 しかしてリリアンヌは、防御も回避も選ばなかった。


「『風よ』―――」


(来た!)


 魔力の発露。魔法発動の前兆だ。シャルロットはそれを感知し、しかし困惑する。

 全周から襲う炎を吹き飛ばすにしては魔力が少なすぎる。これでは一本を潰すのが関の山、それにすら足りないかもしれない。

 そして何より、魔力の収束位置がおかしい。

 魔力が集まっているのは、リリアンヌの足。それも足裏だ。

 何をしようというのか。訝しむシャルロットの前で。


「『止まれ』!」


 リリアンヌが、宙を駆け上がった。

 足元を四本の炎が通り抜ける。

 そのまま更に空を踏み締め、シャルロットに逆落しに蹴りかかる。


「せいやぁっ!」


「ひゃあっ!」


 驚いて尻餅をついたシャルロットの頭に、こつんと軽く足が当たる。


「命中。これでいいんですよね」


「はあー……うん、お母さんの負けね」


「やたっ」


 無邪気に喜ぶリリアンヌを前に、シャルロットは小さく笑った。


 少し、愛娘を甘く見ていたかもしれないな、と。






評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ