開幕:男の死と神の言葉
人生は過ちとの向き合い方だ、と父は言った。
人は産まれ、生き、過ち、いずれ死ぬ。
死なぬ人はおらず、過たぬ人もまたいない。
過ちから時に逃げ、時に忘れ、そして時に克つ。それが人生なのだと。
だから―――自分がこうして、過ちを犯したまま死ぬのも人生なのだろう。
「それは過ちなのかい?」
無論である。
人を救おうとして、救えないどころか自分も揃って死ぬなど過ちでなくて何なのか。
「ふむ、目的を達せられないのが過ち?」
この場においてはそうだ。
「ではこの過ちとどう向き合えれば満足かな?」
自分は死ぬ、もう何も出来ない。
「それは今置いといて」
…………この人を救えれば、それで満足だ。
「その願いを叶えよう。代わりにお願いを聞いてくれるかな」
なんだ?
「此処より遥か彼方、ある者が苦難に遭おうとしている。これを救えるとしたらどうする?」
救う。
「素晴らしい。即答だね。その道が容易いものでなかったとしても?」
やれば救えるのなら、やる。
「救えるとも」
やろう。やるべきだ。やらねばならない。
「では、君に救ってもらうとしよう。……ああ、脅したがそう厳しい道ではないよ。気楽にやりたまえ。では君の新たな生に幸あらんことを」
ぐるり、と意識が暗転する。下半身がもう無いのに話せていたのは、不思議な彼女の温情だったのかもしれない。まあ死ぬのであればもう関係のないことだ。
ああ、でも。
―――できれば本当に妹が無事か確認をしたかった―――
主人公が死んだ!