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非日常は意外と目の前で

 ☆じゃねぇ!いや、落ち着け!さっきより落ち着くんだ僕!イッツ クール。



 冷静になろう。僕の回復力を持ってすれば骨折くらいなら……いや待て。よくよく考えたら僕って今まで骨折したことがない。



「骨折ってそもそもどうやって治るんだ!?この回復力だと何分で治るんだ!?」



 いや、落ち着こう。深呼吸しよう僕。吸って〜…吐いて…吸って〜…ヒッヒッフー。







「……多分だけどさほどかからないよね、うん」



 落ち着いてみると両足は既に感覚がなく、麻痺してるのかこれといった痛みも感じない。とりあえず仰向けになり、ほふく前進をして茂みから出る。



「ふぅ…あ、あの子は?」



 倒れたまま砂場を見ると、既にモスマンと戦闘しているようで、彼女はステップで翼による大振りのビンタを避ける。







 モスマン。いつだったかは忘れたけど、アメリカの方で目撃情報が上がってた未確認生物。俗に言うUMAってやつだ。



 ちなみにモスマンは蛾人間って意味らしいけど…本当にいたんだな。ガセかと思ってた。



 ただでさえUMAを目撃して信じられないのに、僕の目には更に。信じられないような光景が映った。







 モスマンの攻撃を避けた彼女が腕をあげると、なにもない空中に突然大きな赤い魔法陣が現れる。



「降り注ぎなさい!」



 そのまま腕を振り下げると、空中に浮いた魔法陣から野球ボールサイズの火球が何個も何個も発射され、大量の火球がモスマンに向かって降り注ぐ。



 そういえば、ご存知だろうか?モスマンの飛行は自動車より速いと言われている。だけどアレは…自動車より速かった。



「いや速すぎだろ、アレ」



 思わずそう呟いてしまうほどだった。雨のように降り注ぐ火球を、翼を使って器用に空を飛び、全て避けている。








 遠目からだが、彼女は苦悶の表情を浮かべている気がする。アレを避けるなんて…。っていうか、火球!!?




 え?ちょっと待ってあいつなに使ってんの!?魔法?あれ魔法?うっそ、現実世界に魔法なんてあるの!?ファンタジックな異世界にしかないんじゃないの!?うっそまじで?え、かっこよくね?魔法陣。初めて見たわー!!空中に浮くって!アニメみたいじゃん!?



 その光景を見て、興奮したのか。僕は勢いよく折れた両足で立ち上がる。



「あ、骨折治ってら」



 普通に立てた。ちょっとジャンプしてみるが特に痛みもない。完全治癒だ。








 立ち上がったまま遠目から二人(?)の戦いを観戦しているが、若干少女が劣勢に見える。



 僕が呑気に感想を述べているこの間にも女性は魔法陣を展開させ、火球やら、ドリルのように尖った水を発射させているが、全て紙一重で避け、モスマンに一発も当たらない。


 

「やっぱり…援護したほうがいいか」




 モスマンのスピードは確かに早い。超人的な力を手に入れたせいか知らないけど、目で追えない速さじゃないし…産まれてから十九年間、あんな化け物を殴ったことはない。

 でも、そんなんだからって女の子を見捨てるようなことはしたくないからなぁ。




 僕は自分に気合いを入れ直すため、頬を叩く。







「…やる!やってやる!」



 クラウチングスタートの体勢になり、足に力を入れる。力を溜め、MAXに近い状況になったところで思いっきり踏み出した。



 すぐにモスマンの姿が目の前に現れる。



 この状況にモスマン側も気づいたようだが、突然の状況に対処しきれないのか、何も抵抗をしない。








 …これはチャンスだ!手術で手に入れた僕の身体能力の高さを舐めるなよ!



 僕は翼を掴むと、そのまま後ろにまわってモスマンの背中に足を置く。



「んぐぐぐ…おらぁああ!!」



 火球やら水のドリルやらを避ける自慢の翼をとにかく力任せに引っ張る。服が破けるような、ブチブチと筋肉が千切れる音が鳴る。



「な、何が…何が起きてるの?」



 横目で少女を見ると、状況を理解するのに時間がかかっているらしい。そりゃあそうだ。さっきスーパーボールの如く吹っ飛んだ男が急に現れてモスマンの翼を引きちぎっているのだから。



 「お前の翼、いただくよ!」



 どこかの大鎌職人のようなセリフを言いながら、最後に思いっきり力を加え、翼を引きちぎる。







 ドス黒い血が流れ出す中、すぐに引きちぎった翼をその辺に投げ捨て、両手でモスマンの頭をがっしりと掴み、ニーキックを繰り出した。



 少しモスマンがぐらついたので、そのまま手を離し、地面に倒れるのを確認して、一歩ほど後ろに下がる。



「…ふぅ、ふぅ、はぁ…ど、どうだ?やったか?」






 あ、待て日浦 依!その言葉は言っちゃいけないやつだ!!






「い、いやまだ…!あいつら幽魔ゆうまは魔法じゃないと倒せないの!」



 へぇ、やっぱりUMAか。UMAって確か、未確認生物だったけど、少女の言い草からして、結構確認されてるなこれ…い、いや待て。






「今なんて…?魔法じゃないと…倒せないって言った?」



 僕のその言葉に反応するように、モスマンはゆっくりと立ち上がる。もう二度とやったか。は言わない。心にそう決めた。






 しかも頭を抱えることに、僕が引きちぎった翼が再生してると来た。明らかに力任せじゃ倒せないよ。って言ってるようなものだけど、何故かモスマンはグラグラと足元がおぼつかない。



「ダメージが…効いてる?な、なんで?」



 そのモスマンを見て、少女が一番びっくりしていた。え、ダメージ効いてるの?魔法でしか倒せないのに?



 一瞬。一瞬だけ少女の方を見たのが失敗だった。すぐに僕の前方に気配を感じ、前を向くと、赤い眼光。血のように赤い眼光がこちらを見据えていた。



 こ、こいつこんな近くにま───っ!!?








 もう一度、翼でビンタの要領で殴られるが、さっきと比べて幾ばくか予想ができたので、とっさに防御したけど…衝撃には耐え切れず、横に吹っ飛ばされる。



 ゴロゴロと地面を転がるが、すぐに立ち上がる。幸い、どこも大きな怪我をしていない。転がってる時に自分の歯で少しだけ、口の中を切っただけだ。



 そんな僕に一発食らわせたことを喜んでいるのか、あいつは優雅に飛んでいる。その人間っぽい感情を見て、煽られたような気分になった僕の中で何かが切れた音がした。



 さっきは本気で翼を引きちぎったけど、今度は本気で殴ってやる。







 僕はその間も無意識に首輪を触る。そしてその時に、カチッと嫌な音が響いた。


 …あ、やべ。

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