砂糖でできた君に、
砂糖でできたはなびらに、きみは真っ赤なくちびるをよせた。
唾液でしたたかにぬりたくられた前歯が、がじりと脆いはなびらを食いちぎる。
「あまーい」
そりゃ、ぜんぶが砂糖だしな。
と言いたいのを抑えて、ぼくはそう、と相づちを打った。
彼女は、さちこは自分の思い通りにならないことがあると、すねる。
この砂糖菓子だって、きのうぼくの失言によって損ねた、さちこの機嫌をとるためだ。
この月末、さちこはよりによっていちばん高い砂糖菓子を選んだ。
すっからかん寸前の財布でも、さちこの機嫌さえとれればまあ、いいだろう。
砂糖菓子のかけらが、ほろほろとさちこのワンピースの上におちるのをみつめがら、そうぼくはとりとめもないことを考えていた。
それをみたぼくは、その砂糖菓子でも、かけらでもいいから姿をかえることができればいいのに、そう思う。
つい、抑えきれないいとしさがこみあげて、ぼくはさちこの薄桃色のくちびるに、くちづけをした。
ぼくのくちびるでそっと、その花弁を掴んで、つつむ。
花弁は蜜をおさえきれずに、蜜をあっさりと侵入者に盗まれていく。
くちびるを離してから、その心地よい快感の余韻すら感じさせずに、さちこはつぶやく。
「ねえ、こうちゃん」
ああ、この小鳥のさえずりのような、、まっさらなこの声が、ぼくを狂わせてゆく。
いとしい、いとしい。
いとしいより、このきもちを形容できることばは、この世に無いのだろうか。
あったらいくらか便利になるはずのなのに。すくなくとも、このぼくにとっては。
「ひとってね、たいせつなひとのために生きるんだって」
「どうして」
また、さちこは砂糖菓子をかじる。
「だって、自分だけのためだけにしか生きれないのは、かなしいじゃない」
「さちこは、かなしいの?」
ぼくがそのあまりの臭さに苦笑しながら、さちこをじっとみすえて言い放った。
すこしかっこうをつけた。
「あっはぁ」
と、意味不明な笑い声をあげて、さちこもこちらをじっと見つめた。
視線が深く、長く絡みあっていくと、さちこの唾液にいろどられた甘美な口角がゆっくりと両端にあがっていく。
「かなしさなんてかんじさせないくらい、そばにいてよ」
熱い、音だけがむなしいくらいに、白い壁に吸収される。
「こーーーーーちゃん、」
さちこの手が、腕が、ぼくの首のうしろに回されていく。
さちこの手に温度はないのに、どうしてこんなにも熱いんだろうか。
「だあいすき」
ああ、結局無意味なのだ。