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ただの取り巻きの中の一人の貴方

作者: 売る木

「突然だが婚約の破棄を申し出たい、ヴィクトーリア」

「・・・つまり、家運の傾きかけたわたくしに「もう用はない」という事ですわね?」

「違う、そなたの日頃の振る舞いについて、だ」


「はあ」


またいつもの「あれ」が始まったのだと

辛うじて貴族としての地位を維持している

没落しかけの令嬢、ヴィクトーリア・ディアーブルは密やかに思った。



「・・・元平民である身ながら分不相応な振る舞いと

此度、セルージュ・リヴジエール嬢と

その友人であるリュビーヌ・フィグリシー嬢に

辛く当たっていたそうだな」


セルージュ・リヴジエールと

リュビーヌ・フィグリシーとは

平民でありながらもとある方法でひと財産を築き上げ

つい最近その金銭で爵位を得てきた

いわゆる成り上がりの元平民女性、現男爵令嬢である。

そう、「とある方法」で。



(・・・寧ろ、わたくしの方が

大したお付き合いがないのにも関わらず

以前からじろじろと干渉されては

「お高くとまっている」だとか色々とある事ない事

彼女達の噂や中傷の的にされていたのですけれども・・・)


かつては愛おしく感じていた婚約者であるはずの

ヴィジオン・ヴォワミュール爵。

彼の自慢である美しい金色の髪が

いつもよりひどくくすんで見えたのは、気のせいだろうか。



「彼女は、特にセルージュ・リヴジエール嬢は

私の大切な「友人」・・・だ」


友人。その含みある発言に

おいそれと普通の関係でない事をヴィクトーリアは察していた。



「ヴィジオン様はお気になさるかも知れませんけれども、

わたくし、自分の結婚相手の身分にはこだわりませんのよ?

・・・貴方様がとうの昔に財産を失っていたとしても」


半ば呆れ気味にヴィジオンを見据えながら

銀色の髪をさらりと靡かせる。


「一体どういう事だ」


「庭師のヴィブラシオスから全てを聴きました」



とある陰謀により財産を失って没落し、

もはや名前だけのヴォワミュール家を

留学という名目で囲ったのが

リヴジエール家とフィグリシー家との事であった。


両家は没落しかけた貴族を庇護するという

その与えた恩義によって名声、つまりコネと財産を得ていたのである。



共同生活をする元貴族達によって教えられた

それ相応と地位のある人間達のゴシップは

大きなゆすり、つまり金儲けの対象ともなっていたし、

場合によっては時として男女が共に生活する時に起こりえた

いわゆる「火遊び」が

口封じとコネクション作りに大きく貢献していた事は、

もはや言うまでもないであろう。


要するに分かりやすく言ってしまえば

金に困った貴族の男達を金のある平民の女が囲い

貴族の男は「時として陰謀の対象にもなりえるような名誉ある者達の噂話」を女に教え

平民の女は貴族の男達に「住処と肉体を提供する」といったようなものなのである。


ヴィジオンと共に

セルージュ・リヴジエールとリュビーヌ・フィグリシーを

援護しに来たらしい背後にいる他の貴族の男性達

ショマージュ・アルトン爵、ヴォワザン・ヴニール爵および他7名も

もはや「彼と兄弟」になっていたという事は明確な事実であった。



「そんな噂を信じるのか」

「・・・現に、あなた様もわたくしの噂を、信じたではありませんか」


(もしかしたら・・・わたくしと貴方が没落した原因は、

その方達の噂話にあるかもしれないのに)



「打算と肉欲で裏切るようなお相手は、こちらとて願い下げですの」


何もかも知ったような気でいて何も知らない、

正義感の塊のような顔をした勇敢なる騎士を気取るヴィジオン。

あわれなあなたは事実、セルージュ・リヴジエールの、

ただの取り巻きの一人でしかないというのに。



「お返ししますわ、貴方に頂いたものです」


趣味ではないがかつての婚約者が好きだと贈ってくれていたので

肌身離さず身に着けていた。

東洋の国に伝わるアコヤ真珠の耳飾りをそっと外すと、

ヴィクトーリアはヴィジオンの手のひらに握らせて立ち去って行った。

互いの声は・・・もう二度と響く事もないだろう。


ディアーブル家の令嬢ヴィクトーリアと

ヴォワミュール家の伯爵ヴィジオンの婚約破棄が決まり、

ほどなくして、セルージュ・リヴジエールとリュビーヌ・フィグリシーの家に

また新しい貴族の男達がやってきたのはそれからすぐの事であった。


ヴィジオン・ヴォワミュール爵がどうなったのかは、その後は誰も知らない。



おしまい

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