第7話 ―― 決闘 ――
第7話いよいよ誕生編のラストへ向けて突っ走ります。
第7話 ―― 決闘 ――
その日、ダイリュートの屋敷に国王からの迎えの馬車が到着したのは、翌日の9時を回ったころだった。これには伯爵令嬢であるセシリアも同乗する許可もまた与えられていた。
その使者を出迎えたブリジット夫人があわててセシリアとブライアンを呼ぶためにセシリアの部屋の駆け込んだとき、2人は手持無沙汰な時間を潰すためにピアノの前で久々の連弾演奏を楽しんでいた。
「二台のピアノのための練習曲」と題されたこの曲は本来、文字通り2台のピアノで演奏するべき曲であったところを、ブライアンが1台のピアノを使って連弾で演奏できるように編曲した曲だ。
走り出しの4小節目まで強烈なフォルテッシモのユニゾンとトリル連打から始まる、この曲はまだセシリアが十四歳、ブライアンが十二歳の頃にブライアンが編曲した思い出深い、最初の連弾曲でもあった。
その思い出の中でも最も強いものは、緊張していたセシリアが最初のトリルの後に音をはずして、ピアノ教師に「いきなり、出だしから外さないの!」と金属製のタクト棒で頭を軽くはたかれるという甚だ不名誉な記憶であったのだが、セシリアにとってはそれでも美化された懐かしい記憶の一つでもあったのだ。
メイド二人がセシリアとブライアンを挟むように左右について、それぞれの譜めくりを担当していた。
そして、曲が終わるまで、あと少しというところで、ブリジット夫人がドアをせわしくノックしたのである。
――――コンコンコンコン!!
そのブリジット夫人の様子に異変を感じた二人は、曲を途中で切り上げる強烈な不快感を抑え込んで、手を止めた。――この不快感は演奏家独特の本能のようなものだ。――
「なんですか? ブリジット夫人!?。 騒々しいですよ?いいから、お入りなさい。」
お嬢様がその不機嫌をあらわにしながらも、ブリジット夫人を部屋に招き入れる。
ドアが勢い良く開くと、あわてた様子のブリジット夫人が室内に飛び込んで、そのまま床に躓いて転んでしまい、そのままピアノの下にゴロゴロと前転を繰り返しながら潜り込んだと思いきや、両足を投げ出したまま、ひっくり返ってしまっている。
「お嬢様、ブライアン様! 大変で御座います!!。」
ひっくり返った態勢のままでもブリジット夫人はそのままうめくように声を張り上げる。
「大変なのはわかりましたから、はやく起き上がって何が起きたかを話してくださる?」
……と、その滑稽な様子に、半分吹き出しそうになりながら、お嬢様が呆れたようにピアノの下を屈んで覗き込みながら、声を掛けている。ブライアンと言えば、あっけにとられて絶句したままだった。
その後、ブライアンがブリジット夫人に手を差し伸べて、身体を起き上がらせる。メイド長である、ブリジット夫人をして、ここまで慌てさせるとは尋常な話ではないらしい。
そして、ブリジット夫人が口を開く。
「げ、玄関に、こ、国王陛下からのお迎えの馬車が!」
「ああ、昨夜伯爵様から連絡のあった、お迎えの馬車だな。少し早いが、まぁ、あわてなくても良いですよブリジット夫人。」
「さ、左様で御座いましたか、これはまた、私としたことがお見苦しいところをお見せしてしまいました。」
起き上がってきたブリジット夫人が一礼して、かしこまる。
そして、室内を一回り一瞥すると、その日の先客がいることに思い当たった。
「えと、失礼しております、ブリジット夫人。」
そう言って、挨拶をしたのは、准騎士のコンラートである。
「あらあらあら。まぁまぁまぁ。コンラート様これは大変失礼をいたしまして、お恥ずかしゅうございます。」
心底恐縮といった様子で引き締めた表情を固めてブリジット夫人はそう答えるのがやっとであった。
「いえ、ご無事な様子で安心しました。」
「さて、エレナ、準備はできてますわね?」
「はい、お嬢様。つつがなく。」
そう言うとエレナは自分の半身ほどもあるトランクケースをずいと押し出すと誇らしげに答える。
「ブライと共に王都の屋敷に向かいます。エレナ、あなたもついてきなさい。」
貴族にとってメイドとは、人間ではなく空気の様にいるのが当たり前の存在である。主人の行くところには常に付き従い、そして、存在を消しておく。したがって、国王の迎えの馬車に乗る人間として問題が起きるどころか、そもそもはメイドは「人の数」には入らないのだ。
「コンラート、それでは、私たちは先に王都のお屋敷に行かねばならない。私の馬と金属鎧をエックハルト領前の野営陣地まで運んでおいてくれ。鎧の場所はブリジット夫人に聞いてくれ、頼むぞ。」
そういうと、隣に控えるメイドに預けておいた、長剣を受け取り、腰の左側に固定する。
「わかりました。ブライアン様。」
「はい、では後程、コンラート様をお部屋に、ご案内いたします。」
コンラートとブリジット夫人がそれぞれがかしこまって返事を返す。
「それと、屋敷の使用人達の王都への護送も頼む。それでは行くとしますか、お嬢様。」
「はい、ブライ。」
とセシリアはブライアンに微笑みながら返事をするのと同時に、全員がお嬢様の部屋を退出し、玄関ホールへ向かう。
その間際、ブリジット夫人はセシリアとブライアンを一瞥する。
そこには、ブライアンの左腕を自らの右腕で絡めたまま、満足そうな顔で歩くセシリアという本来、うら若い貴族のご令嬢としてはあり得べからざる姿があったのだ。そして、これは救いようのないことだが、自分達がそういった姿を見せている、ということにブライアンはまったく気が付いてなかった。
しかし、ブリジット夫人は、その姿をあえて咎めない。
ブリジット夫人のその表情はあくまで、引き締めたままではあったが、その瞳の奥には微笑ましい何かを見つめるような、暖かさと慈愛とで満たされた光が宿っていた。
――――
国王からの迎えの使者を見たとき、ブライアンは驚いた。それは王都の2年間を共に騎士学校で学んだ親友のロト=シュナウザーがそこにいたからだ。着込んだ金属鎧と青いマントもずいぶん板についてるようだった。
「ロト、お前が何でここに?」
「元気そうだな、ブライアン。叙勲式以来だからざっと1年ぶりかな?」
「ああ、懐かしいな。しかし、どうしてお前が?」
「もちろん、任務さ。お前を迎えに来て、王都に送るだけの簡単な任務だな。ところで、今はお前だけか?」
「ああ、いや、お嬢様も今回は一緒だ。」
「ああ、なるほど、そちらがお嬢様ってわけかな?今回、ブライアンの護衛を務める騎士ロト=シュナウザーと申します。どうぞ、よろしく。」
このロトの言いぐさは、本来かなり不自然なものだ。仮にも正式に叙勲を受けた騎士であるブライアンひとりに対して、同じ位階にある騎士をわざわざ護衛につけるというのは、明らかに過剰な警備なのだ。これが"セシリアの護衛"ということであれば、まだしも、ロトは"ブライの護衛"だと言ったのだ。
そもそも、国王陛下の召喚状を受け取った時点でその任に当たるべきは本来、筋から言えばコンラートであるはずで、コンラートこそが、お召馬車とともに来る方が本来の形のはずなのだ。
その馬車にセシリアが乗れるというのも筋から言えばかなりおかしな話なのだ。
そこには伯爵による何らかの政治的な裏工作があったかもしれないし、そもそも、コンラートには第一部隊の部隊長として、エックハルト領までの行軍の指揮を任せる必要もある。そのあたりの事情を考えれば、合理的理由があるわけで、ことさら不自然だと言い立てるようなことでもないとブライアンはその時点では考えていたのだ。
「こちらこそ、お初にお目にかかります。セシリア=ダイリュートと申します。」
「お近づきになれて、光栄ですセシリア様。」
……とロトは跪いてセシリアの手の甲にキスをする。
「まさか、こんな美人のお嬢様のいるお屋敷で働いているとは、うらやましいな。ブライアン。」
「あ、いや、まぁ、お嬢様にというよりダイリュート伯爵の下に執事長として仕えてるんだがな。」
「王に剣を預けたまま、王城にくすぶってる俺と違って何よりだ。ところでだ、ブライアン……」
「――え?……。」
そういうと、彼は木剣を2本取り出すと、1本をブライアンに放り投げる。自分は木剣を右手に構えなおすと、外していた左手の手袋をブライアンの足元に投げつける。
ブライアンは器用に木剣を受け止める。
「……外に出ろ ブライアン!決闘だ!」
「えーー?またかよ?何回やれば気がすむんだよお前は?」
「勝つまでに決まってんだろ?いいから拾って外に出ろよ。」
ブライアンは心底うっとおしいという顔をしながらも、手袋を拾い外に出た。
「――ブライ!? ええ?ロトさん?いったい何を?」
……セシリアも話の展開について行けず、おろおろしてる。
「昔からこいつはこうなんですよ。いきなり決闘を吹っかけてくる。で?今回のお題目はなんだ?」
そういうと、ブライアンは苦笑いを浮かべつつも、先ほど足もとに投げつけられた手袋を、ロトの顔に思いきり投げつける。それをまともに顔で受けてしまうロト。
「ぶ、ぺっぺっ……そうだなぁ、俺が勝ったら、俺の質問に一つ正直に答えるってのはどうだ?」
「いいだろう。じゃぁ俺が勝ったらどうする?」
「なんでもひとつ言うことを聞いてやるよ! そんなわけで、セシリア様? 立会人をたのむわ!」
「ええ?ちょっと、ブライ?どういう。」
「お嬢様には立会人をお願いします。できたらコイツの治療もなんですが。」
「ブライ?、ちょっと?何を言ってるの?」
「そういうのは勝ってから、言いたまえよ、ブライアン!」
「OKOK。ところで、お前だけフルメイルってのはちょっと卑怯じゃないか?」
「一撃入れたら勝ちってことでいいだろう?」
「それだって、ちと俺の方が痛いと思うんだがなぁ?」
「まぁ、そしたら、セシリア様のひざまくらで治療ってことでいいじゃねぇか。役得じゃないか?」
「それはお嬢様を侮辱したってことでいいのか?」
一通り舌戦の応酬が終わると二人はともに声を合わせる。
『フェーデ!!』
「我こそは騎士ブライアン=セルカーレクス!わが主とお嬢様の名誉に賭けて木剣での決闘を申し込む!」
「我こそは騎士ロト=シュナウザー!わが主の名誉に賭けて木剣での決闘を申し込む!って、お前、セシリア様の名誉まで賭けるのかよ?」
「悪いか!」
「いいや、上等さ!」
『いざ!』
同時に声を掛けあうと、両者が木剣を構え、間合いを取る。
木剣を右手だけでもち、左手を伸ばして、距離を測るようなしぐさでブライアンの出方を伺うロト。対して、両手で持ち正眼に構えるブライアン。
先に動いたのは、ロトだった。身体を巻き込むように時計回りに回転しながら、右手を水平に伸ばして、横なぎにブライアンの胴体を狙う。
ブライアンはそれを、左下から右上に払い上げるように垂直に剣を振り上げ、はじく。ロトがその剣の勢いの流れに乗るように後ろに跳び、剣を地面に突き立てて支点にしながらバク転する。
追撃するように突進するブライアン。跳ね上げた剣に円運動を与えながら縦運動から横運動に変換しつつ、反時計回りに回転力をつけて切り返す。
ロトが、バク転の動きを利用して、そのまま剣を上に振り上げて、迎撃する。
剣同士がぶつかり合い、弾きあう。互いにその勢いを利用して、バク転して距離を取り合う。
「やるな、ブライアン。」
「ふん。ロト、お前も腕を上げたな。」
互いに自分の右側へとスライド移動しながららせん状に巻き込みように接近していく。ロトが上段から木剣を振り下ろす。正確にブライアンの正中線を狙う鋭い一撃だ。
ブライアンは剣の腹でその一撃を左から右に体の外側に流すようにその斬撃を払う。そして、そのまま、峰を流して、相手の腕に刃を当てるように流しきる。
ロトは身をねじり、回転させてそれを避けるとそのまま、身体を回して、右下から左上に振り上げ斬撃を浴びせる。
ブライアンはスカされた剣を切り返して武器の重さを載せて、斬撃を上からかぶせる。
ロトが膝立ちに迎撃し、鍔元で受け止め、そのまま、つばぜり合いが始まる。互いに互いの剣の刃を体の外に反らせようと力比べが始まる。2撃3撃、剣の腹と峰でうちあう。態勢も互いに入れ替わり立ち代わり、目まぐるしく変化する。
「剣では互角だな。相変わらず。いやらしい。」
「お前だっていい加減あきらめろ、ローーート!」」
そういうと、互いに距離を取る。
――2人が同時に左手で杖を取り出す。
親指でダイヤルを見もせずに魔術深度を勘で弾くように回し、チャクラをマナの海に潜らせる。ブライアンは指の感覚を頼りに魔術深度を20にセットする。同様にロトもダイヤルを回す。
ブライアンからはそれがどれだけの魔術深度かはわからない。ロトも同様だ。
魔法深度は魔法の威力をそのまま示すというわけではないが、それでも、大量の魔力を消費する魔法を使うには魔法深度は深いほうが、それだけ成功率も効果も高くなる。相手の魔法深度を見極めることは、相手の実力を測るうえで、重要な目安だともいえる。
ロトはレベル3の風魔法『ジェットストリーム』を発動する。それを自らの追い風として、自分の体を加速させ突進してきた。
騎士の本懐は馬上での突進力にこそ真髄がある、まさにロトはそれを馬なしで実行しようとしていた。
ブライアンは、ロトをできる限りひきつける。
――もう少し!
――もう少しだ!
――十分にひきつけてから、
「いまだ!」
光魔法レベル2の『フラッシュボール』をブライアンが発動する。
ロトの目の前に強烈な閃光を発する光の球が出現し、ロトの目をまぶしく焼き、視界を奪う。
ブライアンにも、この閃光は有効だが、視点をずらして幻惑を防ぐ。
「く!くそ!」
ロトの斬撃が空を切った。
「でりゃぁ!!」
そういうと、ブライアンは足を払い、ロトを転ばせ、その背を足でズン!と踏みつけて、剣を背後からロトの首筋に押し付ける。
「――まいった!」
その言葉が出てからもブライアンは足から力を抜かない。
「とどめ!」
「をい!ちょっとまて容赦ねぇな!」
「何を今さら、命乞いか?ロト?」
「もう、勝負は付いただろが!」
「お前は油断ならん。いっそ、このまま本気で死ね。」
もともと決闘において、相手の命までとることは負けと同義であり、騎士としても不作法でもあるから、最初からロトの命を取る気などブライアンにもない。 が、こうも毎度毎度、決闘を仕掛けられるのにも辟易してるのも事実だった。すこし、意趣返しをしたくなる気分にもなるのも無理からぬことだ。
「負けだ、負け! 俺の負け!これでいいだろう?」
ロトを両手を挙げて武器を捨てた。木剣と魔法の杖の両方が乾いた音を立てて、地面に転がる。
その杖を急いで拾うと、ブライアンはすぐに杖をロトに握らせた。魔法使いのチャクラが、マナの海に潜っている間に、急に杖を離すと、本能的な作用によって、チャクラがマナの海から半強制的に急浮上してしまう。この急浮上も魔力障害を発症させる高いリスクの一つでもあった。
勿論訓練しだいでは3分くらいは潜行したまま深度を維持する方法もないわけではないが、一般的には3分以上魔力の供給がないままでチャクラをマナの海に潜らせたままだと、確実に即死してしまう結果になる。
「これは急に離しちゃダメだろロト!死にたいのか! ――――とは言え、俺の勝ちだな。さて何やってもらおうかな?騎士ロトよ?」
ブライアンはロトの背から足をどかすと、手を差し伸べて、ロトを助け起こす。
「なんでもいいけどなぁ、お前、挨拶代わりに決闘を吹っかけるのやめろよな?ロト……」
「何を言ってやがる。それをまともに受けるバカなんざ、お前だけだぞ? ブライアン。」
と、何ともさわやかに笑いあうブライアンと、ロトの二人だった。
「ブライ?これはどういうことなのかしら?」
セシリアがブライアンの下に駆けつけて詰問してくる。心なしか怒りで体が震えてるセシリアを前に気圧されるブライアン。
「えーーと……そ、その……挨拶?」
「決闘が挨拶だなんて聞いたことありませんわ?」
「まぁ、なんだ、俺とブライアントで通じる出会いの儀式みたいなもんだ。お嬢さんにも慣れてもらわねぇとだな。」
「いや、俺は勘弁してもらいたいんだがな?」
「まぁ、どうでもいいわ、2人とも、残留魔素の排出手順はきちんとやってよね?」
『はーーい』
2人が同時に返事をする。ほんの一瞬潜る程度なら魔法の使用もそれほど問題になるわけではないが、2人とも、ダイヤルを5にセットして3分間待ってから、ダイヤルをゆっくりと絞っていき、時間を掛けて残留魔素をチャクラから排出する。
「まぁ、男の子が元気なのは良いことで御座いますわ。」とのほほんと言ってのけるブリジット夫人。
その後、馬車に乗り込み、王都へ向かう中でも、セシリアのご機嫌の取り続けるブライアンと、ロトの姿があった。
――――
「で?本当にお前、セシリア様と二人で王都に行くのか?だれかほかに家族とかこねぇのか?」
「ここだけの話だが、俺にとっては今やあのお屋敷の人間だけが家族だ。」
「お前、実家に兄とか妹とかいなかったか?」
「どうしてそれを?」
「前に聞いてなかったか?」
「……兄が二人。妹が1人だけいる。どちらもここ3年間はまったく会っていない。」
「……そうか。」
「……前にも言ったかもしれないけど、俺はもともと商人上がりの一代男爵の3男坊だ。本来なら騎士なんて名乗れる人間じゃない。」
「そうか、お前も苦労してるんだな……。」
「まぁな、親父はなんとか、男爵にまでにはなったが……領地とともに生きていない貴族なんか張子の虎みたいなもんだ。貴族社会じゃバカにされるだけの成り上がり者でしかないさ。」
「そうか、そういう家の事情がある場合、女が政略の種にされるものだがな……」
「あの親父ならやりかねないな。俺だって、見方を変えれば伯爵様に売られたようなものだよ……。」
「そう、卑下することもなかろう。」
「まぁ、それはそうだな。 今や執事長なんて職をいただいている。伯爵にはいくら感謝しても足りない位だ。」
「一つ忠告だ、商人上がりの成り上がり男爵って親父さん。それには気を付けろ。」
「わかってるご忠告は受け取っておくさ。」
「まぁ、これで俺の任務はお前さんを王都に送るだけなんだから、楽な仕事さ。少なくとも今回はな……。」
「ごくろうなことだ……」
だが、ブライアンはこの時のロトの言葉を誤解していた。だが、それが完全な理解にとって変わるまでにはさらに多くの時間を必要とするのだった。
「……しかしまぁ、このお嬢さん。すっかり眠ちゃって、かわいいもんだな?お前にすっかり気を許してるな。このだらけっぷりはちと、女性としては油断しすぎてやしないか?」
「ああ……。そうだな。」
「なな?お前、このセシリアお嬢さんのことをどう思ってるんだ?」
「ん?そりゃぁ……伯爵のお嬢様だよ。それ以上でもそれ以下でもない。」
「そっか、おりゃぁよ。てっきり。気があるのだとばかり思っていたんだが?見込み違いか?」
「なななな……何をバカなことを!」
「はは、あながち、ただのお嬢様ってわけじゃないってことだな?お前態度に出すぎだ。」
「そ、そんなことは……。」
「まぁ、いいさ、しっかり守ってやるんだな。」
「無論だ言われるまでもない。」