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全然面白くない物語  作者: 垂れ耳猫タビー
第1章 誕生編
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第6話 ―― 光の伝令 ――

第6話 ―― 光の伝令 ――


 ふと意識が、よみがえる。――なにか、あまり寝覚めがよくない。変な夢を見ていた気もするが、思い出せない。


 そういえば、俺は昨日はどうやって部屋まで戻ったのだろうか? そう思って周囲を確認するが、ちょっと寒い。空気が冷えてる。後頭部に柔らかな温かみを感じる。首がちょっと痛い……寝違えたか?

 

 目を開ける。

 ああ、やはりそうか。お嬢様(セシリア)のひざまくらのままなのか……。

 ――って、ことはまた、俺はモフり倒されたのか……、理解するまでもないことだった。


 そう考えまとめると、俺は、お嬢様(セシリア)を起こさないように慎重に身を起こす。どうやら、玄関ホールに置かれたソファにずっとひざまくら状態だったらしい。


「おはよう。」 少しためらってから、付け加える。今なら誰も聞いてない、今なら言葉にしてもいいだろう。寝ているお嬢様(セシリア)にそっと言葉を投げかける。


「セシリア……。」

 ……ああ、やっと言えた。なんとなくそんな風に思った。


「……やっと、セシリアって言ってくれた……。」


 低く抑えられた声がすぐに返ってくる。


「え゛?」


「うふふふ……」


「ま……まさか起きていたんですか?お嬢様……。」


「そうよ、おはよう。ブライ。」


 嬉しそうに朝の挨拶を口にしながらにじり寄ってくるお嬢様(セシリア)


「あ、いや、その……。どこから起きてましたか?」


「えっと……、実はずっと前から起きてて、ブライの寝顔をみてました。ブライが起きそうなったので寝てるフリをしていたのです。」

 ……と満足気な笑みで答えるお嬢様(セシリア)

 なんだか、寝顔を見られていたってのは気恥ずかしい。


「そ……そうですか。さ、さて、お嬢様(セシリア)も起きたことですし……わ……私はすぐにでも王都に行かなければ……。」


「ふふ……照れ屋さんですね。ブライは――。でも、その必要はなさそうよ。はい!これ。」


 そういって、ソファの横のサイドボードの上から取り出した紙を、お嬢様は俺に渡してくる。俺はそれを受け取ると、すぐに開いた。それは伯爵様からの通信文だった。


「これは?。夜の間に伯爵様から?」。


「ええ、お父様も無事に王都に着いたみたいね。」


「さすが、ダイリュート家秘伝の光魔法を使った光通信ですね。」


「まだ私では光魔法はうまく使えないので、うまく伝えることはできませんわ。」


「まぁ、お嬢様なら、すぐにできるようになれますよ。」


「……だめね。ああいう細かい魔法の操りかたは苦手なのよ。ブライはいつもそうやって励ましてくれますけど、正直、重荷にしかなりません。」


「それでも、瞬時に王都の情報が分かるってのがすごいですよ。王都にいた間も、他の家の騎士候補たちに聞きましたが、そういう通信の仕方をしてるのはダイリュート家だけでしたよ。」


「そうね、昼間なら往復伝書鳩の方が便利ですもの。光は夜にしか使えませんから。言うほど便利ではありませんわ。」


 それは、王都とダイリュートのお屋敷の間をつなぐ、光魔法を利用した通信方法で、ダイリュート家の秘伝とされているものだった。魔法の光で長点灯と短点灯の組み合わせで発光させて、文章や、簡単な絵なら、素早く伝送できるという仕組みだった。

 これは、別邸とお屋敷の間で相互に通信することができるよう、光魔法が使えるダイリュート家の使用人達には門外不出の技として教えられていた。


 このあたりが永代爵位を持つ貴族とその領主の強みであった。使用人も何代も重ねて、仕えているからこそできる、秘密の守り方だった。領土とともに生きる領主とその家が作り上げたシステムのたまものであり、領主そのものでさえ領土経営というシステムの歯車の一部になっているという点で領主もまた自由ではないのだ。


 伝書には簡単にこう書かれていた。


――伯爵が王都の別邸に無事に到着したこと。


――庭園洞窟の魔物のことについては、後日詳しい話が聞きたいとのこと。


――庭園洞窟の入り口の建物については、急ぎ修復し、洞窟の中に誰も入れないようにすること。


――ただし、中の迷宮区を詳細に調査してから、可能な限り厳重に封印すること。


――定例報告会議については7日ほど遅らせるように手配したので、ブライアンは、改めて日程を組むようにすること。


――領内に駐留する兵士を守備に必要な500だけ残し、残り5000の全兵力・装備・補給物資の全ては王都を経由して、エックハルト領の増援へ向かわせること。これは王国軍令部からの正式な命令であること。


――正式な命令書は後日、届くだろうということ。


――ブライアンについては7日後、王都にて国王陛下からの勅命を受けることになるはずなので、召喚に応じられる準備をしておくこと。


――これについても正式な召喚状が後日届くはずだとのこと


――しばらく、王都での別邸で生活することになりそうなので、セシリアと屋敷の使用人全員を王都の別邸に送ること。


――聖銀戦争の記録と資料をできる限り集めてくること




 それが伯爵からの指示だった。


「つまり、エックハルト領内で内乱か、戦争が起きるってことみたいだ。」


「まぁ、戦争だなんて。で、お父様はあなたにどうしろと?」


「国王陛下からの勅命……ということは、恐らくは出陣せよ、ということだろう。それに領内のほぼ全兵力に相当する5000も動かすとなると、かなり大きな戦いになりそうだ。」

「それに聖銀戦争って、あのおとぎ話の聖銀戦争かしら?」


「そうだろうなぁ、800年くらい前に翼人と呼ばれた種族が魔法を作り、国は繁栄したけどその副産物として魔物が生まれたってまぁ、よく知られている昔話だな。」


「でも、そのお話って、最後は銀の武器で身を包んだ英雄が魔物の元凶を倒して、この世に魔物も翼人も魔法もなくなったって話よね?」


「うーーん。そのはずだけど。魔法は今でも使えるし、魔物もいなくなってはいないし…伯爵様は何を調べろ?っていうんだろう?」


「お父様には何か、お考えがあるのかもしれないわ。」


「さしあたっては、例の洞窟の調査だな。時間はあるんだ一つずつクリアしていくさ。」

「わたしは、もう、あそこにあなたを行かせたくないわ……」


「……そうか、わかった。洞窟の調査と封印は兵士たちに任せよう。私は兵舎の方に行くよ。」


「私は……屋敷で、ブライの帰りを待っています。」



――――

――3日後。兵士たちからの調査結果の報告と、封印の終了が告げられた。

 それと同時に、俺自身の王都への召喚状と駐留する兵士たちのエックハルトへの援軍のための移動命令書が屋敷に届いた。すべては伯爵様の通信文通りだった。

 それらはすべて、准騎士のあのコンラートによってもたらされた。


「久しぶりだなコンラート」


「お久しぶりです。ブライアン様。これが国王陛下よりの命令書と召喚状です。」

 ブライアンは賓客としてコンラートを迎え、コンラートを応接室に通す。

 メイド長のブリジット夫人がメイドたちに指示を飛ばし、コンラートをもてなす。


「で?伯爵様はご壮健か?」


 俺はコンラートに伯爵様の様子を尋ねる。


「はい、王都に到着されてからは、精力的にお屋敷を留守にされて、いずこかへ引っ切り無しにお出かけしております。」


「どこにいかれるのかな?」


 ちょっと、のどが渇いてきた。と思ってる傍から、メイドが新しく紅茶をカップごと交換する。ちょっと、油断すると「ありがとう」と言いたくなるが、いちいち、謝辞を表するほうがむしろ、礼を失することになると、ぐっとこらえる。コンラートの紅茶も交換されていく。


「わかりかねます。そもそも、私を連れて行ってくれないので、私としては少々、暇を持て余しておりました。」


 コンラートはまだ貴族の家の作法に慣れてないらしい。メイドが仕事をするたびにメイドに丁寧にお礼を返してはメイドに怪訝な顔をされては、直後にかわいいわねと言わんばかりに、苦笑を返されていた。――要は所詮は准騎士とバカにされているわけだ――。俺はその様子に苦笑しながらコンラートに苦言を与える。

「コンラート、慣れないとは思うが、メイドにイチイチ礼は不要だ。そんなことでは一日に何度礼を言うハメになるか、わからないぞ。」


「そうは言われましても、それでは人としての礼に外れるのでは?」


「貴族の屋敷とはそういう物だ。まぁ、私も辟易することもあるが、気を付けておくといい、そういうちょっとしたことで、侮られることにもなる。お前もいずれは騎士、いずれは貴族の列に並ぶことを目指すのであれば、覚えておくといい。騎士としての振る舞いとか、貴族としての振る舞いという物を、それはお前にとって無駄にはならんだろう。まぁ、私も少々、馴染めないが仕方ないだろうよ。心の中でだけ誠心誠意、お礼を言っていればそれで十分だ。」


 なおも納得できないという様子のコンラートに少しばかり苦笑する。


「わかった、わかった、今日、卿が騎士としての振る舞いがうまくできるようなら、あとで剣の稽古をつけてやろう。せいぜい、騎士と貴族の振る舞いという物を実践して見せるがよいだろうな。」


「ブライアン様自らが剣の稽古をですか?わかりました、では、そのように努力してみます!」

 喜色を隠そうともしないコンラート。

 ブライアンの口の端から好意的な笑いが漏れそうになる。ブライアンはそれをとっさにこらえる。――やれやれ、まだ自分自身でさえ、若輩の身でこんな気分にさせられるとはな――ブライアンはその思いをかみ殺した。



「そうか、わかってくれればよい。ところで、伯爵様は例の洞窟の一件何か言っていませんでしたか?」


「これと言って何も。私も手持無沙汰でして……。」


「エックハルト領の援軍というのはどういうことかわからないか?」


「私ごときではうかがうこともできません。ただ……」そういうと、コンラートは言葉を濁した。


「なにかあるのだな?」


「はい、単純な内乱とか、戦争ではないような、ただならぬ事情があるようです。」


「そうか、卿はどう見ている?」


「わかりません。ですが、噂では相手は魔物ではないか、とういう噂もあります。」


「聖銀の魔物だというのか?」


「わかりませんが、噂では、城下の町で籠城戦になっているという話です。」


「そこまで、深刻なのか?」


「はい。]

「そうか、では、卿はこれより第一部隊の指揮を執るよう命じる。他の第10部隊までの部隊長にもさっそくエックハルト領への移動と補給部隊の編制を命じてくれ。第11部隊には現状待機と警戒強化を命じよう。」


「ブライアン様は兵たちとは同行されないのですか?」


「王都に一度呼ばれている。まったく王国の反対側まで、わが領地の守備隊のほぼ全軍を動かすのだ。恐らく相当大きな戦になるのだろう。ところで……」


「卿は聖銀戦争については何か知ってるか?」


「おとぎ話と聞いてます。800年前の翼人が作った魔法と魔物の話ですよね?」


「そうだ、先日、伯爵より、その伝説の情報を集めるようにという通信文が来たのだ。」

「通信?伝令は私が最初のはずですが?」


「ん? 実は伝書鳩がその前に来ていたのだ。」


 流石に門外不出の通信法をこの准騎士に悟らるれわけにはいかなかったと思い、ブライアンは誤魔化す。


「ダイリュートは、情報を重視してるから、その手の話には比較的、耳が速いのだ。」


「さすが名門のダイリュート家ですね。」


「……そうでもない。伯爵様は他には何か?」


 光の通信術について気取られるのも面倒だと思うブライアンは、そこで話題をそらす。しかし、それはさらなる混乱の渦へと両者を落とし込むことになる。


「あーーそうそう、これはちょっと、意味が分からないのですが……」


「なんだ?」


「はい、ブライアン様に伝えよ、といわれていたことが、あるにはあるのですが……」


「なんだ?」


「はぁ、意味は分かりませんが、”その気があるなら、早く押し倒してしまえ!許す!”……だそうです。」


「はぁ?いったい何を倒せというのだ?伯爵様は?」


「さぁ、私には何のことやら?」


 そうして、ダイリュート伯爵の言葉の意味を理解しかねて、真剣な面持ちで、しばらく互いに首をひねりあう二人なのであった。


 その様子を心ならずも目撃してしまったブリジット夫人とメイドのエレナは、後日「笑いを堪えるのに、あれほど苦労したことは、かつてありませんでしたわ。」と語ったという。その話がブライアンの耳に入り、さらに、彼が死ぬほど、赤面するに至るには、まだ、いささかの時間を要するのであった。



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