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学園独立戦記  作者: Relaxin'
1/1

始まり

地獄の黙示録みてて思いつきました。

よく言われますが、まだ20にもなってません。おっさんではありません。


自由、について考えてみたい。

青春という人生の中で最も輝かしいであろう時期において、これは大変大きな意味をもつ。だが、自由というものを盲信し、実践しようとすると社会を動かす大人たちの反感を買うことになる。安保闘争から始まった高度経済成長期における大学闘争もまた大学自治、すなわち自由を求めて行われたものだ。

実際には、発展した社会の中で自分に意味を見出せなかった連中がヒステリックで幼稚な暴力で鬱憤を晴らしたかっただけであろうが。



僕には関係ない。


遠い遠い、僕とは隔たられた過去の話。



市立玖賀之高校。

それが僕たちの通う学校だ。総生徒数694名、いたって平凡などこにでもあるような学校であった。しかし今、玖賀之高校は多数の生徒に占拠(・・)されていた。

事の発端は生徒の自治権への介入にあった。

少子化と教員減少のため行われた平成の教育大転換の"生徒の独立心と協調性を育む"のスローガンのもと行われた改革は、学校から最低限を除いて教員を廃止するというものだった。授業は教育システムがインプットされた電子端末によって行われ、学校運営の大半は生徒が担うという体制となった。

それが国の方針転換によっておびやかされた。具体的には生徒、つまりは生徒会による学校自治の原則を全面的に廃止し、各自治体の教育委員会が直接運営を行うというものだった。

当然だが、それに対して抗う運動が各学校で展開された。しかしそれ は代表同士による交渉のような平和的なものではなく、1960年代の大学紛争が蘇ったかのような様相を醸し出していた。

若者の独立心と協調性は国の思惑を外れ、危険な方向に走りつつあることに気づかなかったのだ。

学校自治を守れ、と。

他人事のように語っているが、僕は生徒会役員だった。在りし日の言い方をするなら、ノンポリと言うやつだ。常に平穏を望む男。全生徒に自宅待機が命じられて以来、家からは出ていない。連日のようにテレビに流される各校の様子は熾烈を極め、すでにことは学校や教育委員会内の問題に収まりそうにはなかった。

全生徒の半数近くが立てこもる現在の玖賀之高校はもはや学校には見えず、全学連立てこもる東京大学のように見えた。

それは若者の無気力が叫ばれるこの現代に出現しているのはなんとも奇妙な光景だった。



僕には関係ない。



半ば願望のようなその考えは、脆くも崩れ落ちることとなった。










相手を確かめることなく開けたドアの向こう側に立つ人間の顔を見て、僕は思わず嘆息した。


「やあ。神代君、息災に過ごしていたかい」

「……飛鳥先輩、なんの用ですか」

「可愛げのない男だな、君は」

「あいにくですが、僕は先輩に振りまく可愛げなんかないんですよ」


五条飛鳥。玖賀之高校生徒会副会長。

僕の直接の上司に当たる人だが、僕が認識対象として見ているのは上司としてではなく、黒メガネの少女としてである。


「元気そうで良かったよ。早速だけど、学校に……」

「嫌ですよ。僕は英雄になる気はありません」

「私が何を言おうとしたか分かるの?」

「玖賀之に乗り込んで説得、かなと思いました」

「大当たりだよ、すごいね君は。そういうことだから早く制服に着替えて」


さも当然という風に飛鳥先輩は言った。僕は深い深いため息をつく。

このまま事態が収束に向かわなければ、警察が学校紛争に介入し、必然的に教育委員会のお偉方は責任を取らせられる。そうなる前に各学校の穏健派に行動派を説得、解散させようと教育委員会は目論んでいる、と飛鳥先輩は語った。

全く大した面の皮の厚さだ。最初は学生達に同情していたくせに、自分達の地位が脅かされ始めた途端に反対運動に対して冷笑と軽蔑を浮かべた小役人達に、僕は軽い怒りを覚えた。


「なんの権限があって先輩がそんなことを」

「私が進んでやってるわけじゃないよ。教育委員会からの直接私達にお達しだよ」

「内の揉め事は内でやれってことですか。というか何で僕たちなんですか?僕たちまだ高校生ですよ?」

「同じ事を占拠してる連中に言うんだね。詳しいことはよく知らない。これから教育委員会本部に行くよ」


飛鳥先輩は、これ以上の反論は許さないという風に僕に背中を向けた。

盛大にため息をついて僕はタンスに入れっぱなだった制服に腕を通す。防虫剤と乾燥剤の入り混じった複雑な匂いが鼻をつく。

飛鳥先輩の背後に見えた鉛色の空を思い出してトレンチコートを手に取った。












教育委員会のビルは灰色の、重たい建物だった。僕にはそれがベルリン陥落直前のナチスの国会議事堂に見えた。


「玖賀之高校生徒会役員です」

「どうぞ」


無駄に立派なドアを開いた向こうには、やはり無駄に立派なスーツを着た実年ほどの女性と中年男性2人が座っていた。その鷹揚とした態度から、人を使うことに慣れていることが感じ取れた。


「玖賀之高校生徒会副会長の五条飛鳥です」

「…企画委員長の巡伊神代です」

「ご苦労様。そんなに固くならず、リラックスしてもらって構わないんだよ」

「はあ」


気の抜けた返事をしたせいか、太ももを先輩につねられる。結構、痛い。

そもそも自分達だけ椅子に座って、僕たちを立たせっぱなしとはどういう了見なのか。そういう抗議を込めたものだったのだが、どうも伝わらなかったらしい。


「君たち2人は生徒会の中でもかなり優秀だったそうだね」


左端の女は安っぽい同情心からだろう居心地の悪さを改めるためか、そう猫なで声で言った。


「私たち教育委員会でも君たちの名前を知っている人は多いのよ」

「学校運営を率先して行っているとね」


彼等は口々に同意した。まるで本人はそこにはいないかのように。どうせ同じセリフを各学校の穏健派に何度も吐いたのだろう。名簿から適当にスケープゴートを選んだに過ぎないだろうが。

やっと型通りのご機嫌取りが終わり、中央に座る男がいかにもすまなさそうな顔で本題を切り出した。


「まあ、あらかたの事情はお伝えしましたが……。まあ補足と言いますか、お願いする以上は詳しい説明をした方がいいかと思ってね」

「そういことだから、まあ、さっそくだが……」


今度は右端の男がめくっていた書類から視線を上げて言った。


「玖賀之高校生徒会会長……来流都君を知っているだろう?」

「はい。同じ生徒会役員ですから……」


飛鳥先輩は当惑しているようだった。こんなところで思わぬ名前を耳して驚いているのかもしれない。

来流都先輩。

最上級生であり、僕たち生徒会のトップに君臨する青年である。そして、今回の占拠事件以来行方不明になっていた。


「彼は今、学校を不法に占拠している学生達のリーダーになっているようでね……。実は、最初は数人の穏健派とともに占拠していた学生達を説得に向かったようなんだが、帰って来ない。内々に調べてみるとそういうことになっていた。理由?まあそれは……これを読んでみたまえ」


差し出されたのは何やら文字が走り書きされたルーズリーフだった。飛鳥先輩が少し頭を下げて受け取り、なんとも言えない表情とともにだが、それでも熱心に読み始めた。肩越しに見えた内容はこうだーー



ーー彼等とともに行動する判断に至ったのは、なにも洗脳されたからでも暴力に屈したわけでもありません。学校自治の原則を覆そうとする国家と教育委員会への純粋な怒りのせいです。

これは正義の道です。

学ぶ自由、生きる自由、そして生き方の自由のためにはこの国から独立する必要があると考えました。つまり、我々行動派はここに学生による新たな国家を建設することを……ーー



ーー「これは本物なのですか?」

「もちろん。教育委員会に直接電話をかけてきたんだよ。慌ててメモをとったせいで少し汚いが、我慢してくれ」

「なにがあったのでしょう……」


すでに飛鳥先輩は心ここにあらずという様子だ。


「彼は狂ったのでしょうか……?」

「かもしれないね」


僕の問いに男は肩を竦めた。


「大多数に囲まれて過ごせば思想の影響はうけるだろう。学校を一つの国家と見なし、自分はトップであるという自尊心を満たすためかもしれない」


いや、彼はそんな愚かな安直な考えで行動する人間ではないはずだ。夢見がちであっても、リアリズムの上にしか理想論は立脚しえないことを忘れるような人間では、ない。


「君たちにお願いしたいのは彼等の説得、それから来流都くんの解放(・・)だ」

「無理だった場合はどうすればいいのですか?」


3人はかすかに顔を歪めた。だが、すぐに表情をもとの友好的なものに切り替えた。


「できるだけ努力してちょうだい。同じ学校の生徒たちのためなんだから」

「はあ……分かりました」


なんの成果もなしに帰って来るな、とどうしてはっきり言わないものなのか。思わず顔をしかめてしまった。


「ではよろしく」


僕たちは差し出された手を機械的に握り振った。その時の彼等の眼は安堵に溢れていた。

自分達は解決のために、何かしらのアクションを起こしたのだという証明したかったのだ。その役に割り振られた道化師が僕と先輩。

少なくとも主役にミスキャストはない。来流都会長、飛鳥先輩、そして僕。

先輩はその間ずっと俯いていた。

来流都という漢字にこまりました

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