私の親友
急な話になるのだが、私は生来の性分で人と交わるのが苦手だ
なので私の友人はもっぱら機械や、犬猫などのいきものである
彼らは話こそしないがその実、人よりも感情や欲求が率直で、付き合うには気楽なモノだ
たとえば私の1番の友人に黒い猫がいる
彼は…そうだなここではクロにしよう
クロは毛の長いイギリスの猫で、種はラガマフィンというものだ気性は極めて温厚にして人によく懐き甘え上手というのがこの種の特徴である。
彼が私と出会ったのは私が中学に上がりたての頃だ
彼は生まれつき歯が抜ける病気で親元から見放されたのを母が引き取った猫で、その顔は実に間の抜けた顔だった。
さらに彼は鳴き声を上げるのがトンと下手で、「にゃー」ではなくまるで息が詰まったように「ケ」と鳴くそれも相まり、私は当初彼を馬鹿にしていた
それにその頃私は犬の方が好きだったと思う、いつも学校から帰ると家で飼っていた犬と遊んでいた。これがまた可愛いもので、抱き上げると顔を舐め鼻の穴に舌を突っ込むのだ、私はなぜか知らないがこれが好きだった。
おそらくこの頃から私に妙な性グセが着いたのだと思う。
さて猫の話に戻す前に私が中学の時どんな人物だったかを少し話そう。
正直な話あまり話したくはないが、この時私は虐められていた。
容姿に問題は無かったが体型がいけなかった、あまりに大きかったのだそれと、学校での態度もよくは無かった。授業は聞かず眠りこけていたがテストはなぜかいつもパスしていた。今思うと実に不思議であるがそれは置いておこう
ある日Kと言う少年が私を馬鹿にした、内容は覚えていないが確か私の身体的な事だったと思う、それが頭にきた私は彼を殴り、泣かせてしまった。
まぁその結果は皆様の想像通りだ、職員室に呼ばれ何故そうなったかの経緯を話す。
私は正直に話した。
「彼が私の事を馬鹿にしたのに腹を立てた」。っと
しかし、先生達の反応は私が彼に難癖を付けられ始まった事ではなく体格の大きな私が彼を殴った部分にのみ重きを置いた。
彼ら曰く「大きな人はどんな事があっても小さい人に暴力を振るってはならない」だそうだ
理屈は分かるしかしその結果、彼はお咎め無しで私は一週間のトイレ掃除を命ぜられた、あまりに不当な判決に私は憤りよりも先に悲しみが走った。
家に帰りカバンを部屋に置くと胸の中でモヤモヤが募った、私はこれの発散方法がわからず、家の中を当てもなく彷徨った。
その無意味さに気付き部屋に戻ると私のベッドに珍しくクロが寝ていた。
少々驚いたがそんな事を気にしている余裕の無かった私はクロを枕にベッドに伏せ彼にその胸の内を明かした、すると彼はそれを慰めるように私の顔を舐めたのだ。
あまりに突然の事でびっくりして彼を撫でるとまた、私の顔を舐めた。猫の舌はグルーミングをするためにザラついていると言うがそれを感じさせないほどに優しく舐められ。
その瞬間私の中で糸が切れた。
気がついたら彼を抱きながら涙を流していた。
その間彼は私の胸の中で大人しくしているのだ。
ひとしきり泣き終えると私は彼にお礼を言った、すると彼はいつものよう「ケ」と鳴いた。
そんな彼に私はまるで昔からの親友のような気持ちが芽生えた。
それ以来彼は私の相談役でいてくれる。何か困った時は彼に話すとスッキリしたし彼もそれを甘んじて受けてくれていた。
いつの間にかクロは私の部屋に常に居るようになった、寝る時はいつも一緒だし朝も目覚ましの代わりに彼が起こしてくれる、餌をあげる時もソワソワと私の周りを回り、声のない声で鳴く。
彼はもう10歳になった、人間でいえばすでに初老である、ここからは彼がいつ亡くなってもいいようにしっかりしなければならない。
しかし、そう思う反面、同時に私は不安になってしまう、彼がいなくなった時私はどうなってしまうのか、ほとほと検討がつかずもしかしたら人生に悲観し首を吊るかもしれない、心に穴が開きそれを何かで埋めようとするかもしれない。
拠り所である彼にはできれば私が死ぬまでいて欲しいと願うがそれは不可能なのも分かっている
それに百万回生きた猫よろしく何度も何度も生き返っては死ぬというのも酷な話ではないか。
猫は9つの魂を持っていると言う言葉を映画で聞いた事がある、それ曰く9回目の死を迎えた時猫はこの世からいなくなるのだそうだが9回も死んでいては身がもたない。
とりあえず、私は彼が死んだ時笑ってあげようと思う、あの時のように中学の頃彼を抱き泣いた時私は悲しみで泣いたが今度は笑いながらよく生きたと言って泣いて送りたいと今は強くそう思っている。