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この小説は春エロス2008という企画のために書かれたものであり、内容に性描写が含まれます。くわえて、中学生の性行為や同性での性行為、残酷と取れる表現も含まれますのでご注意ください。

 ダン、ダン、ダン。

 規則的に手を動かす。その音に合わせてごろごろと物の転がる音が響く。それほど大きくない簡素な部屋で、じっとその顔を見つめがらベルトコンベヤーを流れてくる物言わぬ生き物の首を刈っていく。首を失った体は空しくベルトコンベヤーの上を滑ってミンチ機に落ちていった。毎日繰り返す作業。何の感慨もなく、きちんと顔の確認をしなければいけないのにもうそれも杜撰だ。

 城田貴紀は害性生物処理を行う公務員だ。職業名はそのまま害性生物処理官。刈った首を冷凍室の棚に大量に長期陳列・保管していることから『首屋』とも呼ばれている。仕事内容は主に今と同じように『害性生物』と認定された迷惑な生き物の処分を執行することである。ほとんど毎日特殊な薬で動きも感覚もなくした飼い犬から人間まであらゆる生物の首をはね、殺していた。勤め始めて三年の、ベテランとも新人ともつかない微妙な時期だ。

 ベルトコンベヤーの上から生き物が消えた。どうやら今日の割当て分は終わったようだ。顔を上げると並ぶ他の二つのベルトコンベヤーではまだ作業が続けられていた。次から次へと対象が運ばれてくる。ベルトコンベヤーの速度は変わらないので、これ程までに終了時間に差が出ることは少ない。城田は不思議に思いながら首の詰まったプラスチックの箱を台車に乗せて冷凍室に運ぶ。

 冷凍室へのドアは、U字になったベルトコンベヤーが伸びるのと向かいの壁の、それも城田のラインとは一番離れた端にある。対象的に城田のラインの前には冷凍室に続くドアと変わらない更衣室へ出るためのドアがあった。滑りの悪い台車が耳につく騒音を出すのを気にしながら、同僚のラインの横を通りドアを抜ける。中のごつい金属のドアも開けると体を冷気が包んだ。身震いする。城田は暑いのよりは寒い方が得意であるが、それとこれとは話が違った。急激な温度の変化で眼鏡が曇る。城田はレンズを拭うといそいそと生首を陳列し、来たのとは別の二重扉をくぐって外にでた。

 そこは、城田のラインの傍にあるドアの外と同じ更衣室だ。城田は自分のロッカーの傍に行くと、手早く厳重な作業衣を脱ぎにかかった。目以外の場所を全て覆う完全防備だ。


「おぉ城田、終わったな」


 恰幅がよく頭の心許ない男が豪快な笑みを浮かべて近寄ってきた。この処理所の所長である岸だ。あまり城田と相性がいいとは言い難かったが、嫌みのないよい上司だった。城田が手を止めて無言で見つめると、岸は首の後ろをぼりぼり掻いて言葉を続けた。


「さっき田上から電話があってな、自転車との衝突事故で骨が欠けて病院にいるらしいんだ。それなのに間の悪い話で今日田上には処理対象の引取りの仕事が入っていてな」

「俺が引き取ってくればいいんですね」

「そうだ。お前は田上と仲もよかったし対象の扱いも上手いから、勝手に割当てを変えた。まぁ、これは田上に引取りの仕事を押し付けてお前があまりやらないのがいけない」


 勝手とは言い切れない言葉を残し、詳しい資料を置いて岸は出ていった。別に城田が引取りの仕事が嫌いで田上に押し付けているわけじゃない。引取りの仕事があまり好きではないのは確かだが、問題は田上にあるのだから。

 田上は城田より一年早く入所した先輩だったが、波長が合うらしく入所してすぐ遠慮ない関係の数少ない友人の一人となった。田上は不健康そうではあるが煩くない華やかさを持った男で、城田は自分の凡庸さと比べいつも感嘆した。繊細で理解しがたい部分もあるが、田上は一緒にいて気の休まる特異なモノを持っていた。しかし田上は繊細すぎて、何か思いつめたようになってしまっている。仕事について悩みがあるらしい。それも処理のことで。

 彼は処理が嫌で嫌でたまらないのだと言う。城田が不思議そうな顔をしていると、悲しげな顔で君にも分からないか、と呟いた。そんな田上をほっておけなくて、城田は考えなしにできるかぎり自分が代わると言っていた。それから、田上が滅法嫌う人の処理を優先して引取りの仕事と交換するようになった。ようするに押し付けられたのは田上ではなく寧ろ城田だ。

 田上の仕事を肩代わりすることぐらい何とも思わないのに、自分が断りたいのだろうと思っているような岸の発言に少し腹が立った。友人が怪我をした時の手伝いなど、それこそ自分から志願してでもやるというのに。城田は岸の消えた方に溜め息を吐いてから資料に目を移した。

 今回の引取りの対象はどうやら人間の、学生らしい。城田は大体に目を通すと、それほど遠くない中学校の名前を頭に刻んで着替えを済ませ、すぐに車に乗り込みそこに向かった。


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