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心からの幸せ

作者: 辛太郎

 朝の6時。けたたましいサイレンの音が頭に鳴り響く。頭蓋が内側から粉砕されるような気がしたから、反射で腕を伸ばしものの2秒でスマートフォンのアラームを止めた。


「………んん………おお、6時だー…………」


 普段は目覚ましをかけてもなかなか起きることのできない私だが、今日は違った。サイレンの音なら鳴った瞬間に何か事件か火事かでも起こったかと脳が勘違いして、勝手に目が覚めるだろうという小学生並の凡庸な発想で、昨日の夜に音色を変えたのでした。


「ぐぉぉぉぉ…………ふぁ……………………………………」


 …………はっ。気を失ってた。

 今日は確か大事な会議が早くからあったはず。遅刻すれば、あの上司から雷が落ちることは彼の頭が三年後には焼け野原になっているだろうことと同じぐらい明白だった。う~ん……でも、眠たいなぁ。


 昨日は高校の頃に仲の良かった京子と沙也加と私の三人で遊びに行った。もちろん今も仲がいい……はずだ。私だけが友達だと思っていて、彼女たちはそう思っていない可能性は否定できない。なぜなら人間だから。人は本当の意味でわかり合うことなんてできないのさー。そんな誰もが理解していることを脳内で反芻しながら昨日の楽しかったことを思い出したりして、私は朝の貴重な時間を無為に無為にと……すご…………すぐー…………………。


「すぴー」


 じゃねえ!いい加減に起きなければ。いやでも私は普段から目覚ましは余裕をもって設定している。今日も例外ではないはずだ。えーと、準備に二十分かかるとして、朝ごはんは……抜いていいか。化粧はいつもより手っとり早く終わらせよう。七時に家を出れば間に合うからー………おお!あと四〇分も寝られる!すげえ!いや、時間を確認したら六時六分だから正確には三四分だ。それでもすげえ!余裕をもったアラーム設定に感謝。私に感謝。よし寝よう。ぐーすかぴー。


 ウォーンウォーン


 るっ


「せぇ!!」


 どうやらスヌーズ機能を解除していなかったようだ。スマートフォンのサイレンが再び私の安眠を妨げる。せっかく二度寝モードに入っていたのに。

 何はともあれスヌーズ解除、これでもう私の安眠を妨げるものは何もなくなった。しかし寝起きで液晶を見るのは堪えるなぁ…眼球のストレスゲージがぐんぐん伸びていく感覚、わかるかなぁ。さて寝よう。今度こそ。


 私だけのスクリーンが、瞼の裏によってエンドロールに切り替わる。ロールしないし、誰の名前もないけど。そういえば、眠りに落ちる瞬間の意識を探ろうとして、毎晩躍起になっていた時期もあったっけ。こういう二度寝するときなんか、絶好のチャンスだと思うんだけどなぁ。まー無理よ。寝ることしか考えられない。あれ?じゃあ今考えてるのってなんだ?そして私は深い深い眠りに落ちぐー。






 アラーム。スヌーズ。反射的に止めた。八時を過ぎていた。おい!

 ていうか早すぎ!本当に一〇〇分も経ったの!?信じられない。この時間はとても会議には間に合わないだろう。怒られるなぁ……イヤだなぁ……優しく怒ってくれないかなぁ。

 最悪クビ……なんて。あっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっは


 笑えねえ。


 これから大事な用事がある日は二度寝しません。このお布団に誓います。誓う気あるのかないのか自分でもわからないけど、とりあえず頭より体を動かした方がいい状況なことだけは確かだ。

 三分で洗面歯磨きを済まし、二分で着替え、一分で髪を整え、荷物を確認し、結果十分ほどで家を出ることができた。やればできるじゃん私。これから寝られる時間が増えてラッキー。


 どうせ遅刻確定なんだから急いで出ることも、もっと言えば開き直って出社することもないんじゃない?と、私に似た美人の悪魔兼天使が甘い言葉を囁きかけてくる。でも行くぞ。ここで行かないと休み癖がついちゃいそうだし、それに私、責任感だけは強いんですよね。どの口が。


 走るのは疲れるから、早歩きで駅まで来た。ふくらはぎの筋肉がぱんぱんになってる気がする。おや?駅の改札前に人がたくさんいる。なんだなんだ?人混みの隙間から看板が見えた。えーと、なになに………。



『本日午前七時〇五分頃、××線にて人身事故が発生致しました。 』


『復旧には四時間程度かかる見込みです』



「……ひゅう」


 その後に続く謝罪の言葉に目を通すこともなく、私は胸をなで下ろした。それから合法的に遅刻できることに感謝した。なんて素晴らしい日なんだろう!どこのどなたかは存じませんが、本当の本当にありがとうございます!ぜひとも今夜一緒にお食事でもどうですか?何か奢らせてください、そうでなければ私の気が済みません。無理だけど。


 この路線、けっこううちの会社の人たちも利用してるし、会社に連絡しなくてもいいかなー?ぷるるるる、ガチャ「はいもしもし」「瀬川です。あのー実は電車がですね」「ああ、人身事故ですよねわかってます。それじゃあ復旧次第来てください。それでは」ガチャ。一瞬で終わった。しかし、これで恐いものはなくなった。



 いやー、でもまったく本当に、救われた気分だ。開放、解脱、もしくは脱獄か。なんて爽やかな朝だろう。世界の全てが美しく見えて、最高に愛おしい。道行く人に片っ端からこの幸せを分けてあげたい気分だ……………嘘、やっぱり絶対やらない。


 そうだなぁ、時間もあることだしいったん家に帰って優雅にシャワーでも浴びますかな。その前にお腹空いたし、なんか食べていこうか。朝マックってこの時間やってるんだっけ?それとも終わった?一回食べてみたいと思ってたんだよね、美味しいかどうかは別として。あー楽しい。人生楽しいな。こんなに活力にミチミチ溢れてるのいつぶりだろう。うおおおお、さーて、


 今日も1日がんばりますか!

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