第8話 恐怖の作戦会議
癖の強すぎる神様が降臨。
恐怖の宴の幕が上がる……(嘘)
住んでいた村を焼かれ、両親とは生き別れ。
帝国兵に追われ命からがら森を抜け、他国の都市に忍び込む。
自分がどうなってしまうのか、明日のことすらわからない。
うん、そりゃ疲れるよ、幻聴だって聞こえるよ。
でもまさか、そんなのが聞こえるレベルにまで達しているなんて。
明日、レナを見舞いに行ってみる予定だし、ついでにお医者さんに診てもらおう。
『幻聴じゃないよぉ~』
「いやー!?やっぱり聞こえるぅー!!?」
一人きりの夜の客室。
いつの間にか部屋にあった、満面の笑みを張り付けたまま自分に語り掛けてくる、男の声をした美少女人形。
絶叫する俺。ホラー以外の何物でもない。
俺は懸命に現実逃避を図ったが、お構いなしにその男…か女か分からんけど、それが追い打ちをかけてくる。
『う~ん、良かれと思って声をかけたんだけど。』
「良かれと思うなら消えて下さいぃ!」
『でもこのまま引っ込むと君、心を病んじゃいそうだからね。』
「それ以前に恐怖で病みそうですよ!」
『はは、確かにね。ただ、幻聴か心霊現象だと思っててもイイから、僕の話を聞いてよ。僕は君の身体と関係があるんだから。』
「…………!?そんな……いつの間に!?」
『な、何でお尻抑えるの!?そういう意味じゃないよ!!』
~~~~~
「な、なるほど。そういうことだったんですね。それで、オオイ様は…」
『呼び捨てでイイよ。そんな柄じゃないし。』
彼ーーー呼び捨ては失礼だと思うので、オオイさんにしよう。
オオイさんいわく、彼は俺がよく手を合わせていた聖なる森の祠に奉られていた神様らしい。
そして、俺の身に起きた不幸を憐れに思って命を助けてくれた、と。
副作用はあったけど、命が助かったのには大変感謝している。
俺の致命傷の回復や謎の能力向上、両親の安否情報の把握についても原因が判明したから、それは良かった。
本当に良かった。良かったんだがーーー
「なぜ………なぜ、そんなお姿なんですかね?」
『!!!よくぞ聞いてくれたね!この女の子は僕の居た世界で大人気のアニメ”魔導少女ロリカル七日”で人気のデスタロットちゃんって言ってね、そりゃもう可愛い子なんだ!僕はこのキャラが大好き、否、愛していると言っても過言ではなくて、周囲の人間にはデスタは俺の嫁と「わかりました!!!好きだからですね!!!もう結構です!!!」
触れてはいけない場所を踏み抜いてしまったようだ。
人形の瞳がキモイ輝きを放っていた。
というかこの人、本当に神様か?
神っぽくない不審な言動に、どちらかというと妖や物の怪の類ではないかと疑問を感じてしまう。
慌てて言葉を遮って俺は質問を続ける。
「一連の流れは理解しました。でも、今の話だと俺に干渉するつもりはなかったみたいですけど?」
『そのつもりだったんだけどね。君、あの家族に恩返しがしたいんだろう?方法は考えてるのかい?』
「それは…ほら………………ねぇ?」
『正直に考えてなかったと言いなさい。』
見透かされている。
一番現実的なのは薬代を支援するという方法だが、単純に金額が足りない。
なにせ銀貨1000枚だ。子供の俺にはあまりに遠い。
有り金全部渡すというのも、何か違う気がする。
お金渡したから恩返し完了では、何か違うと思う。父さん母さんに知られたら、フルボッコにされる自信がある。
第一、ベルクさんが絶対に受け取ってくれないだろう。
「ということは、オオイさんに何か考えがあるっていうことですか?」
『うん。それを伝えるために姿を見せたんだ。これからは近くでアドバイスさせてもらうよ。』
「…………質問なんですけど、今後もそのお姿で?」
『えっ?問題あるかい?』
問題しかないよ。
最初に話し掛けられた時は、心臓が動くのを諦めるところだった。
村にいたグスタブじいちゃんだったら、間違いなく天に召されている。
何より、”近くでアドバイス”ということは、もしかしたら俺がこの人形ーーーフィギュアというらしいが、これを持ち歩かなければならない可能性があるということだ。
美少女フィギュアを持ち歩き、会話する男……確実に変態認定される。
断固拒否しなければ……!
その後、少しの時間を話し合いと作戦の下準備に、多大な時間をオオイさんの説得に費やすことになった。
~~~~~
「おはようございます、ベルクさん。」
「おう、おはようさん。良く眠れたか?」
「はい、寝すぎたくらいですよ。」
「テーブルに座っててくれ、朝食を持ってくからよ。」
翌朝の食堂。
久しぶりのベッドの寝心地は最高で、少し寝坊してしまった。
すでに他の宿泊客は朝食を摂り始めている。
俺は言われたとおり、空いているテーブル席に腰かけた。
ちなみにオオイさんは説得の後、今日の昼に森で待ち合わせする約束をして部屋からいなくなった。
まあ、俺の一部になったと言っていたから、おそらく俺の中に戻ったということだろう。
この場合、待ち合わせと言うのだろうか?
それに違う姿で来るとは言っていたけど、今から不安だ。
違うって、フィギュアが違うとかじゃないだろうな…。
「あっ…」
「ん?」
後ろから聞こえた声に振り返ると、そこには昨日見た犬耳っ娘、アインちゃん。
う~ん、つくづく思うが、本当にベルクさんとは似ても似つかない。
手に朝食が乗ったお盆を持っているので、ベルクさんに言われて持ってきてくれたのだろう。
「おはよう。ご飯、持ってきてくれたの?」
「う、うん。あ、はい。そうです。」
「ありがとう。」
慌てて訂正する様子が微笑ましい。
テーブルに置かれた朝食に小声で「いただきます」を言い、ふと視線を彼女に戻すと、恥ずかしそうにしながらまだそこに立っていた。
「どうかした?」
「あ、あの。あり、がとう…」
「…?ああっ!そんな、気にしないで。助けてくれたのは君もだろう?」
「で、でも、ちゃんとお礼、言ってなかったから。」
「うん、どういたしまして。俺はアシュレーっていうんだ。」
「私はアイン、です。」
恥ずかしがり屋なのだろう。顔を真っ赤にして、耳をピコピコとせわしなく動かしている。
引っかかりながらも、一所懸命に話をしようとしてくれるその姿に保護欲を刺激されてしまう。
俺は少しでも仲良くなろうと、それからしばらくの間、互いの自己紹介から始まり色々な話をした。
そうしてしばらく会話をしていると、俺は後ろから突然腕を回され、頭部に圧倒的な質量と柔らかさを持った物体を乗せられた。
「この子がアシュレー君?やだ~、女の子みたいに可愛い~」
「え、えーっと。」
「お母さん!恥ずかしいからやめてぇ!」
「ぷぅ~、恥ずかしいって何よぉ。」
のんびりとした間延びした声が頭上から聞こえる。
俺の頭部の物体はどうやら女性の胸のようだ。
拗ねながら正面に回ってきた女性を見ると、そこにはベルクさんに見せてもらった家族写真に写っていた女の人。
アインのお母さんで、確か名前はアイシアさんだったかな。
昨日は遅くまでパートに出ていたので会えなかったが、挨拶に来てくれたのだろう。
クリーム色のワイシャツに茶のロングスカート。アインと同じ色のふんわりとしたロングヘアと犬耳・尻尾が印象的だ。
あと、メチャンコ巨乳。
メチャンコなんて普段使わない表現が出るほどに。
ワイシャツのボタンが弾け飛びそうなほどに。
夏に食べる果物が2つドッキングしているのかと思うほどに。
んっ?あれって野菜だっけ?
「アインちゃんのお母さんのアイシアです。昨日はうちの子を助けてくれてありがとぉ~」
「僕はアシュレーです。いえ、当たり前のことをしただけです。昨日よりも元気になったみたいですし、本当に良かったです(キリッ)』
「パパが言ってたとおり、本当に礼儀正しい子ね。中に大人でも入ってるみたい~」
ごめんなさい、直前までオパーイのこと考えてました。
しかも大人どころか神様が入ってます。
鋭いツッコミに若干冷や汗。
その後、俺とアインを散々からかったアイシアさんはパートの仕事があるということで、「ゆっくりしていってねぇ」という言葉を残し宿を出ていった。
二児の母とは思えない若々しさだ。
おっとり系人妻、恐るべし。
さて、朝食を食べ終わった後、俺は外出の準備をする。
アインと一緒にレナのお見舞いに行く約束をしたのだ。
オオイさんとの約束は昼からだし、時間的にも余裕がある。
本当はお金を稼ぐために市場で手伝いをしたかったみたいだが、田舎から出てきた純情娘をナンパするチャラ男の如く、アインを強引に口説き落とした。
アインが立ち去った後、物陰からその様子を見ていたベルクさんが光の無い瞳で俺を見つめながら「俺は…坊主を信用してたのによぉ…」と拳をバッキバキ鳴らしながら近付いてきたときは、死を覚悟したが。
ただ、必死に俺の考えを伝えると一応納得はしてくれた。
昨日、オオイさんと話し合った恩返し作戦その1、〈オペレーションASH〉始動だ。
ちなみに「オパーイ」の発音は、一昔前にCMをやっていたマンションの「セ〇ール」と同じです。