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ゴッドブレス・ミー  作者: tonton
第一章 幼年編
6/50

第6話 指ぬきグローブと犬耳

やっとヒロイン登場。

獣耳は、お好きですか?

 ゴォーーン……ゴォーーン……

 街中に大きな、それでいて優しい鐘の音が響き渡り、その音が俺の意識を浮上させる。

 寝ぼけながら寝返りを打つと、硬い寝床が俺の二度寝の邪魔をした。



「…あたたたた………フカフカまでいかなくても、そろそろ普通のベッドで眠りたいな…」



 どうやら朝になったようだ。安いよ安いよ~、見てってお客さ~んーーー

 そんな声が街の喧騒と共に時折外から聞こえてくる。夜には気付かなかったが、どうやらこの物置は市場か商店街の近くにあるらしい。

 眠い目を擦りながら机を降り身体をほぐしていると、突如爆音が鳴り響いた。



 ぐぎゅるるるぅぅぅ~~~~~


「………………」



 そういえば、俺って一昨日(おととい)から何も食べてないんだよな。

 森の小川で水は確保できたけど、流石に食料調達までは無理だったし。

 命の危機でスッカリ忘れてたけど、9歳の子供にこれはキツイ。

 謎の身体能力向上がなければ、おそらく動けなくなっていただろう。違う意味で命の危機だ。

 とりあえず父さんから持たされたお金もあるし、まずは腹ごしらえをしよう。

 領主様に会うのはそれからだ。

 俺は身だしなみを整え持ち物を確認した後、慎重に物置を出た。





~~~~~


 物置は人通りの多い道から外れた小道に面していた。

本当に表通りのすぐ脇といったところで、子供の俺が一人でいたとしても不審に思われることはないだろう。

 物置の鍵を閉め表通りへ出ると、そこには活気に溢れる出店(でみせ)や屋台の数々。

 食べ物はもちろんお土産や装飾品、武器や防具といったものまでジャンルも様々。

 どうやら商店街のようだ。



「色々見たいけど、まずは食べ物だ。」



 父さんから渡された小袋の中には銅貨が20枚、銀貨が5枚入っていた。

 貨幣は大陸全土で共通、銀貨2枚が平均的な家庭の月収なので、今の俺はかなりリッチマンだ。

 ちなみに貨幣のレートは

  銅貨1000枚=銀貨1枚

  銀貨100枚=金貨1枚

  金貨10枚=白金貨1枚

といった具合だ。

 一般的な生活で使われる貨幣はほぼ銅貨で事足りるので、銀貨以上は普通に生活していればまず見ることも使うこともない。

 高い買い物をする時や給料の支払いで銀貨を使うくらいだろう。

 露店の食べ物なら銅貨1、2枚で充分買える。

 さて、何を食べようかーーーいざ行かんというところで、出店のおじさんから声を掛けられた。

 年は父さんより少し上といったところで、頭に白いタオルを巻いている。



「おう少年、串焼き食ってかねぇか、串焼き!!1本銅貨1枚だ!!」



 真っ黒に焼けた肌と、それとは正反対の真っ白な歯を見せて俺に串焼きを勧めてくる。父さんと同じような強面(こわもて)で。

 おじさんの前には大きめのサイコロ大の塊が3つ刺さった木の串が数本、炭火で炙られていた。



「これは、何の串焼きですか?」

「おう、見たことねぇか?これは短足牛(ダッカウ)っつう家畜の肉でな。柔らかくて肉自体の旨みが強いのが特徴だ!」



 ほっほう、お肉ですか。

 野生の獣の肉なら一応村でも食べられたけど、ほとんどが角兎(ホラビィ)みたいな小型の獣で、村人全員で分け合ってたから満足な量を食べたことがあまりない。

 何かタレを付けて焼いているのだろう、ほんのり焦げた甘辛い匂いが食欲をそそる。



「それでは1本下さい。」

「おう、毎度!」



 俺は我慢できず、おじさんから串焼きを購入する。

 ああ、久しぶりの食事、しかも肉だよ!肉!!肉ぅぅぅ!!!



「いただきます。」

「言葉遣いもそうだが、随分礼儀正しいなぁ…」


 

 おじさんが感心したようにつぶやくが、それは違う。

 脳内の俺は今、血肉を欲する狼だ。餓狼だ。

 たまらず串にかぶりつくとーーーそこには楽園(パライソ)が広がっていた。

 噛めばほんの少しの弾力を残してアッサリと歯を通す柔らかな肉、舌の上で肉の旨みとタレの甘辛さがコサックダンスを踊っている。

 空腹が満たされていく幸福と串焼きのあまりの美味しさに、俺は嗚咽を抑えられない。



「くっーーーうううぅぅ~~~」

「ど、どうした少年!?急に泣き出して!?」

「ず、ずみばせん、あまりに美味しくて…」

「いや、そこまで喜んでくれるなら作った甲斐があるってもんだが…」

「俺が死んだら是非とも棺桶(かんおけ)に入れてください。」

「そんなにか…」



 おじさんの屋台の前で、俺は号泣しながら食事を続けた。





~~~~~


 商店街ではあれから大変だった。

 串焼き屋のおじさんーーーオードさんが子供の俺を泣かせたと周囲から誤解を受け、メチャクチャ吊し上げを食らったのだ。

 最後に誤解は解けたが、気を使ってくれた周りの店の人達から焼菓子やら果実水やら、沢山頂いてしまった。

 結果、串焼きの銅貨1枚でお腹一杯だ。

 最近大変な目に遭ってばかりなせいか、本当に人の善意が身に染みる。

 いつか一杯買い物して、みんなに恩返しをしよう。


 さて、そんな出来事から2時間、俺はオードさんに教えてもらった服屋に来ていた。

 フォレストサイトは俺が住んでいた村(そういえば村の名前知らないな)と違って大きい街なので、移動するのも結構時間が掛かってしまった。

 …ごめんなさい、ただ迷っただけです。本当はすごく近かったです。

 さて、何故服屋かというと、領主に会おうというのに薄汚れた穴の開いたシャツでは(まず)いだろうと思ったからだ。

 森の中を強行軍で進んできたのでズボンも靴もボロボロだ。

 この際、全て変えてしまおう。

 俺は服屋〈エンゼルマリー〉(名前が恥ずかしいって言った奴、前へ出ろ)のドアを開いた。



 俺は鏡を覗き込む。

 身長はこの年代の子であれば平均的な130センチくらい。

 灰色の髪に紫色の瞳と、母さんの血の影響か少々冷たい印象の配色だ。

 顔の造形は悪くないと思う、母さん似だし。

 そして、そんな俺が今着ている服はこの服屋の看板娘(マリーさん45歳、身長は母さんと同じくらい、幅は母さんの3倍くらい。オードさんの幼馴染)に選んでもらった物だ。

 上は白いワイシャツに黒のシンプルなジャケットを合わせている。

 下はベージュ色の厚手のジーンズに黒革のブーツだ。

 …うん、結構、いや、かなり気に入った。シンプルイズベストだ。

 パンツや靴下も新しく替え、心機一転。これぐらいの格好なら領主様に会うのに問題ない…はず。会ったことないから分からんけど。

 お代はしめて銅貨200枚。

 端数をおまけしてくれた上にベルト代わりにもなる、小物が入れられるウェストバッグまで付けてくれた。

 マリーさん、マジ天使。あと30歳若かったら口説いてたね。

 マリーさんにお礼を言い、店を出ようとしたところでーーー店先に陳列されているある商品に、俺の目は釘づけになった。



 「こ、これは………」



 そこには、黒革製の指ぬきグローブが鎮座していた。





~~~~~


「買って……しまった………」



 俺の両手には、若干大きめの指ぬきグローブが装着されていた。

 このグローブ、子供用がなく、一番小さいサイズでもこれしかなかったのだ。本来なら自分の着る服や持ち物にあまり執着はしないのだが、どういう理由か、これを見た瞬間、手に入れなければならないと思ってしまったのだ。

 まるで自分の中の誰かが、そう叫んでいるかのように。


「…あっ、あの……」


 しかし、何故だ。

 指ぬきグローブを装着している自分の手を見ていると、気分が高揚してくる…!


「えっと、聞こえてる……?」


 何か、こう、自分にしか使えない、新たな力が目覚めそうというか…何か手から出せそうというか…


「うぅっ、無視しないでぇ……」


 よ、よし。やってみるか。

 コォォォーーーーーーーーーーーー


「あっ、あの!!!」

「はもんっ!?」


 び、びっくりした…!ていうか超危なかった…。

 もう少しでドヤ顔でポーズ決めながら奇声を発するところだったよ。

 ……いや、発してないですよ、普通ですよ、驚いたら言いますよ、はもん。


 自分に苦しすぎる言い訳しながら声がした方を振り向くと、そこには俺と同い年くらいの女の子が立っていた。

 背丈は俺より少し低い程度、可愛らしい白のワンピースを着ている。

 髪は赤茶色の肩にかかるくらいの長さで、同じ色の大きな瞳をこっちに向けている。

 色白で将来美人になるであろう愛らしい顔立ちをしているが、それより何より目を引くのが、その頭とおしりだ。

 ピョコンと生えた犬の耳と、フッサフサのシッポだ。つまりは獣人。


 王国はオープンな国で種族差別はないって聞いてはいたけど、こうして直接目にすると安心する。

 俺も見た目は人間だけど、半分魔人だからなぁ…

 まあ、とりあえず俺に用事があるみたいだし、はもんの恥ずかしさを乗り越えて声を掛けてみるか。



「俺に、何か用かな?」

「う、うん。あの、これ、落としたよ?」



 そう言って俺に両手で差し出してきたのは、見覚えのある茶色い小袋。



「あ、あれ!?」



 急いで腰のウェストバッグを開いてみると、確かにそこに入れたはずの小袋が無かった。



「え、えっとね、手袋を着けながらこれ、バッグに入れる時にね、入れ口からポロッて落っこちてた。」



 な、何たる不覚…!全財産が入った小袋より、指ぬきグローブに気を取られるとは…!

 このグローブは封印しよう……。

 俺はグローブを外しバッグに突っ込んだ。

 いや、そんなことより、まずこの子にお礼を言わなければ。



「ありがとう。この中には俺の全財産が入ってたから、もし無くしたら大変なことになってたよ。」

「うん…良…かったね。」



 ふんわりと少女は微笑むが、俺は彼女の身体が前後に揺れていることに気付く。



「だ、大丈夫…?」



 よく見れば顔色が悪い。

 それにユッタリとしたワンピースのせいで気付かなかったが、少し痩せすぎのような気がする。

 その今にも消えてしまいそうな雰囲気が、山小屋で別れる前の母さんと重なる。

 心配になり俺が近付こうとした次の瞬間、彼女はそのまま気を失ってしまった。

 俺は間一髪、地面に倒れ込む前に受け止める。



「ちょっと、大丈夫!?誰か!誰か!そ、そうだ、マリーさーん!!!」



 ここはマリーさんの服屋の真ん前だ。

 俺は急いで45歳の天使を呼ぶ。



「何だい、大きな声で……アインちゃん!?」

「知り合いですか?」

「ああ。この子また…」

「また?持病か何かですか?」

「…この子の家はすぐ近くなんだ。あたしゃ腰が悪くってね。案内するから、悪いけどそのまま運んでくれるかい?」

「わかりました。」

「事情はそこで話すよ。今の時間ならこの子の父親がいるはずだ。」



 そう言って、マリーさんは歩き始める。

 悲しそうな顔で、少女を見つめながらーーー

 


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