第29話 影者必衰
魔法名にルビふりました。
他の話も随時変更予定です。
「ギルド員カ?随分と派手な登場ネ。」
「………」
対峙する俺と男。ターニャに危害が加えられるのはギリギリで防げたようだ。
…いや、少し遅かったか。ターニャの口の端から赤いものが見える。頬も片側だけ赤い。
「…っ」
俺は腹の底から涌き出る怒りを押さえ込み、 周囲に視線を走らせる。
腰を抜かし茫然と俺を見つめるターニャ。そして、先に誘拐されていた子供達…
「くっ…」
あまりに惨い仕打ち…しかもその犯人の顔に俺は見覚えがあった。
以前会ったアクセサリーショップの店主だった。
まさかこんな異常者だったとは。
「…投降し、罪を償う気はあるか?」
「そっちこそ武器を捨てて大人しくするとイイネ。じっくり可愛がってあげるネ。」
「戯れ言を…っ!」
「〈悪意の帳よ 闇色に塗り潰せ 盲目の領域〉。」
「なっ…!」
男は会話をしながら何の脈絡もなく、俺の言葉を無視して魔法を詠唱した。
対人戦に慣れていなかったせいか、俺は投降を勧め様子見してしまった。経験の無さが露見した形だ。
逆に男は上手かった。魔法の詠唱も短く、中断させる暇も無かった。
どんな効果の魔法なのかーーー警戒する俺に、その効果が直ぐに現れた。
「!?」
真っ黒。そう表現するのがピッタリに、周囲が全く見えなくなった。
この小屋は小さいが窓はある。天井も突き破って来たから急にここまで暗くなる訳が無い。
視界を阻害する状態異常攻撃か!?
だけど俺に状態異常は効かない。落ち着いて対処すれば問題無い。
「〈解析〉!」
俺は情報収集と〈神の心臓〉の起動も兼ねて、解析魔法を発動する。
ところがーーー
「!?」
俺の視界は、全く晴れなかった。
ヒュン!
直後に聞こえた鋭い風切り音に危険を感じ、俺は咄嗟に顔の辺りを左手で庇う。
ギィィン!
「くっ!」
「ホウ…」
仕込み小手を利用して何とかその一撃を受け流す。男は感心した様子で声を上げたが、それ以降静寂が訪れる。
「(どういう事だ!?何故視界が回復しない!?)」
必死に考えを巡らせ、オオイさんが以前話していた魔法について思い出した。
~~~~~
「領域魔法、ですか。」
『ああ、そう呼ばれている。この魔法はある一定の領域内に、魔法による強制的なルールを自他を問わずに強いるものだ。』
「…?ちょっと説明が難しいです。」
『そうだな…例えば、その魔法を使って火が発生しないというルールでこの部屋を支配したとする。すると、この部屋の中では一切火が発生しない。魔法を使用する前から存在していた火も消える。』
「つまり…魔法で定めたルールを場所限定で守らせるって事ですか。」
『そういうことだね。この魔法は非常に厄介だ。弱点を補う使い方が可能だからね。さっき例に出した火の制限も、水や氷を使う魔法使いや特殊能力者は圧倒的に有利になる。それ以前に火をメインの攻撃方法にしている相手だったら完封出来る。』
随分と使い勝手が良い魔法だな。自分に不利なルールだったら絶体絶命じゃないか。
「攻略法は無いんですか?」
『この魔法は術者自身にもルールを強いるものだから、比較的詠唱が短いものが多い。発動させないのが理想だけど、もし発動されてしまったら…』
「しまったら…?」
『まあ…範囲外に逃げて。』
~~~~~
「………マジか。」
回想を終え、俺は天を仰ぐ。
つまりオオイさん曰く、発動されたらヤバイからその前に倒してね、ということだ。
おそらくこの魔法は範囲内の視界を阻害する領域魔法だ。俺自身ではなく、空間に作用する魔法だから状態異常無効が通じなかったのだろう。
タネは割れた。しかし、オオイさんのアドバイスの通りに逃げる訳にはいかない。俺の背後にはターニャがいるし、小屋の中には他の子もいる。
男の攻撃は今のところ俺に向かっているが、いつ周りに向くとも限らない。
気合いを入れ直す俺の耳に又も響く風切り音。今度は思いっきりしゃがんで避けた。
「!…武器の風切り音で反応してるカ?異常な反応速度ネ。」
「そいつはどうも…っ!」
体勢を立て直しながら軽口を叩くが、この状況は不味い。
男はさっきから的確に俺に攻撃してくる。つまり何らかの方法で俺の位置を特定出来ているという事だ。
対する俺は相手の位置が分からない事に焦りを感じていた。見えない事にではなく、感じない事に。
俺のスペックは自分で言うのもなんだが、かなり高い。オオイさんによる魔法の補助のみならず、戦神であるイズミさんの加護もある。戦闘で使用される技能や能力も達人級を超えている。
にも関わらず気配を全く察知出来ないのだ。
「(そういう特殊能力を持っているって事か。)」
戦神の目(耳か?)を潜り抜けるレベルの超人というのは考えにくい。魔力の流れも感じないし、この男が魔人の混血で、俺の位置を特定出来る特殊能力を有していると考えるのが妥当だろう。
そんな必死に考えを巡らせる俺の肌が、ほんの少しのーーー本当に少しだけの、空気の不自然な動きを感じた。
「ぐっ…!」
俺は咄嗟に地面に転がる。
フッ…
直後、俺の後頭部を何かが通過した。
危ねぇぇぇ…っ!!!
「…本当に何者ネ。微細な風の動きを感じ取ったカ?ここまで回避されると本職として自信無くすネ。」
本当の本当に不味い…!。先程は風切り音が原因で避けられたから、ゆっくり攻撃してきたのだろう。 今度は更にゆっくり、風の動きを感じ取れない程の動きで攻撃してくるだろう。そうなればお終いだ。
くそっ、情報が少なすぎる!
さっき唱えた〈解析〉は今も発動している感覚がある。おそらく目の前には相手のステータスを表示した青いプレートが浮かんでいるだろう。
だが、見えなければどうしようもない。〈解析〉の効果は相手のステータスの視認だ。
方法としては広範囲の攻撃魔法なら当たるかもしれないが、この狭い小屋ではターニャや子供達が危険だ。
防御用の魔法なら完璧に防げるだろうが子供達に矛先が向く可能性を考えると使いたくはない。
「(あいつにだけ当てられれば…!)」
そんな都合良くいかないことは分かっているが考えずにはいられない。
くそっ、〈解析〉が見えれば何か打開策も……
「…待てよ…見えれば…?」
そこで俺は閃いた。
こいつを倒せるかもしれない方法を。
~~~~~
「(ナカナカ楽しめたヨ。)」
男はーーーマンチューは満足していた。子供への意趣返しで始めた誘拐・虐待であったが、まさかこんな面白い子供が釣れるとは。
「(だけど残念、経験が足りなかったネ。)」
子供にしてはかなりの実力者だ。習得が困難とされている隠匿の魔法を行使していることからも、そのポテンシャルは計り知れない。そんなことが出来る人間は帝国でも十指に満たない。子供だからといって油断は出来ない。
おそらく通常の戦闘では自分が不利だろう。だが、この子供は自分が有利に立ち回るという事が出来ていない。
マンチューの持つ特殊能力の名は、〈影者必衰〉。
自身の気配の完全遮断と、周囲の生物の気配の完全察知が可能となる能力だ。シンプルな能力であるが、それ故に環境が整えば非常に極悪な能力だ。
この能力でマンチューは4度に亘る誘拐を完璧に遂行し、この暗闇の戦場で圧倒的な優位に立っていた。
「(…んっ?小屋の隅に移動したネ。)」
対象の移動にマンチューが気付く。だがしかし、どこに移動しようと関係ない。
先程からこの子供は他の魔法を使っていない。高難度の隠匿魔法を使えるのに他の魔法が使えないとは考えずらい。つまり、他者を巻き込まないようにしているという事だ。
マンチューがターニャの腕を掴んで無理矢理立たせる。
「ひっ!痛い、痛いのじゃ!」
小屋の角で前方から自分が近付くのを待ち反撃に転じるつもりなのだろうが、残念。
「今の声が聞こえたカ?ワタシの近くには女の子がいるヨ!下手に攻撃すれば当たるネ!」
「………」
これで攻撃は封じた。だが、相手は自分の気配は読めなくてもこの少女の気配は読めるかもしれない。 ずっと近くに連れていると自分の位置を特定される可能性もある。
攻撃する直前で少女を相手に向かって放り投げ少女ごと一突き。それで終わりだ。
自分が持つ武器はグラディウス。小柄な子供なら2人一緒に、簡単に串刺しに出来る。
マンチューは嘲笑う。
小さな命を冒涜して。
マンチューは嘲笑う。
自身の勝利を確信して。
「(シネ!!!)」
少女を相手に向かって蹴り飛ばし、少女に向かって剣を突く。
男の攻撃は完璧だった。
全くの無音、周囲の空気の動きも最小限。
剣の先から肉を突き刺す生々しい感触が伝わる
はずだった。
「!?」
男の攻撃は虚空を突いた。確かにそこにあった気配を貫いて…
「(気配が…ナイ!?)」
いや、それどころか周囲の状況は一変していた。
グニャグニャと動く足場。周りから聴こえる水の音や木々のざわめき。室内にも関わらず風も吹いている。
「!?!!??」
パニックになるマンチュー。気配がどうだとか相手がどこにいるのか等ということは既に頭には無い。
状況を確認しなければーーー
そしてマンチューは魔法を解いた。
それが更なるパニックの引き金になると知らずに。
「こ、ここはどこネ!?」
マンチューがいたのは沼地だった。アシュレーがオオイと共にピュアスライムを探しに来た、フォレストサイトの水瓶。
その水面に浮かぶ大きな葉の上に、マンチューは立っていたのだ。
「い、一体何が…!?」
「思った通りだったな。」
「!?」
周囲を見回すが相手は見えない。しかし近くから声は聴こえる。
今度はマンチューが相手を見失ったのだ。
「俺が〈解析〉を発動した後、あんたは正面から攻撃してきた。正面に魔力で構成された板が浮いていたら普通は防御魔法だと考える。なのにあんたは正面から、俺の顔を狙ってきた。」
「…!」
「たしかにあの板は無害だ。触ってもすり抜ける。だが自身に害がある可能性のある存在に自分から触れる訳が無い。それで気付いた。こいつは見えてはいない、位置が分かるだけだってな。」
「ーーーっ」
「攻撃魔法は使えない。防御魔法も。使えない理由は簡単、周りに被害が出るからだ。だったら場所を移せばイイ。来る方向さえ分かれば〈転移門〉での転移は簡単だ。ターニャを使われてタイミングはシビアだったけど、まあ上手くいったから良しとしよう。」
マンチューは驚愕した。相手が転移魔法…失伝魔法まで使えることに。そして帝国からの情報を思い出した。
ーーー我らの脅威がそこで育つ
育つという事は成長の余地があるという事。
つまりはーーー子供。
「ま、まさか…まさか貴様がナーガの…っ!!!」
その言葉は最後まで続かなかった。自身の目の前にある空間の揺らぎにやっと気付いたのだ。そしてその揺らぎから伸びてきた手がマンチューの首を掴んだ。
「ぐっ…がっ……」
「…〈氷の棺〉。」
マンチューの意識はそこで途絶えた。
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申し訳ありません。




