クサい男
食事中の閲覧はおやめになられたほうがよいかと思います。
正直自分でもどうしてこうなった感がありますが構わず投稿します。最近活動してないしね。
N氏は境地に立たされていた。大事なプレゼンテーションの直前なのだが、すさまじい便意に襲われているのである。プレゼンの開始まではあと数分。それまでにトイレに行って用を足し、万全の状態でこの会議室に戻ってくることは不可能と思われた。
緊張を隠しきれずに、N氏は癖でポケットに手を突っ込んだ。そして、何かがポケットに入っているのに気が付いた。
それは一粒の錠剤だった。『無便意薬』と書いてある。
N氏は、ゆうべ、大事なプレゼンだから何かあってはいけないと思い、便意を遠ざける薬である『無便意薬』をポケットに入れておいたのを思い出した。
ポケットに手を突っ込むのはあまり感心できる癖とは言えないが、今回はそれに助けられたようである。
N氏はその錠剤を飲み込んだ。
プレゼンは何事もなく進行した。スライドによるN氏の提案に、質疑応答と、問題は何もないように思えた。
だがN氏の失点が一つだけあった。『無便意薬』の箱に書いてあった注意書きをきちんと読まなかったことである。少々せっかちなところのあるN氏は、無便意薬のパッケージにでかでかと書いてある『便意を遠ざける薬』という個所を読んで、この薬の効能を早とちりしたのである。
『無便意薬』はその名の通り、便意を無くす薬だ。あくまで便意という一つの感覚を消す薬であり、根本にある生理現象を打ち消すものではない。例えるならば鎮痛剤である。
痛みを和らげるだけの鎮痛剤には、傷を治癒する効能はない。鎮痛剤で痛みを抑えておいて、腕のいい医師が手術するのが普通である。
鎮痛剤を飲んで痛みがなくなったからと言って、傷の手当てをせずに放置していたら、血が垂れ流しになるのは自明の理で……。
反省はしていない。