転生腐女子と王道学園
読むばかりでしたが思い切って初投稿。
腐女子はいますがノーボーイズノーラブです。
なんだかずっとぼんやりしていた気がする。
ぱちんと何かが弾けたような音とともに斎悠沙は目を開けた。
少し黄色がかった優しい色味の天井に丸い蛍光灯。
ここはどこだろうと思って首を傾げた。どこって自分の部屋以外ないじゃないか。なんで"どこ"なんて思ったんだろう。眠っていたようだし、ぼんやりじゃなくて寝ぼけていたのだろうか。
妙な違和感に首を傾げながら体を起こそうとして、身体が動かないことに驚いた。いや、動かないというのは正確ではない。反応が鈍いというか、細かい制御がきかないというか、ままならないというか。
どうしてだろう。
考えて、ふと思い至った可能性に青ざめた。まさか事故にあってその後遺症とかではなかろうか。
恐る恐る腕をもちあげた私は、声なき絶叫をあげた。文字で表すならさしずめ「くぁwせdrftgyふじこlp」。
(わ、私赤ちゃんになってるー!!)
衝撃の事実に、それからどうしたといえばどうもしなかった。いやどうもできなかったというのが正しい。何せ私は赤子だ。体はさして動かせない。肉体労働は選択外とすれば残るというか唯一の選択肢は頭脳労働。考えることだけ。どうしてこうなってしまったのか、私としての記憶がどこまであるのか整理することにした。
結果、惨敗。
私は自分の名前以外細かいことは一切思い出せなかった。父母弟の4人家族だったことは覚えていても住んでいた家の住所や家族の名前は思い出せない。高校に通っていて、どんな勉強をしたか、どんな友達がいたかは覚えていても、学校の名前も、友達の名前も思い出せない。オタクで腐女子だったとか、そんなどうでもいいことは覚えているのに。こうして生を受けてしまっている以上、『私』はどうにかなってしまっているに違いないと、思い出そうとしてみたけれど、ぼんやりと会社に勤めていたことくらいしか解らなかった。
もやもやは残るがこうなったらこれからのことを考えるほうが建設的だ。頭を切り替えた私は家族や家の中を観察することにした。特に目新しいものはなく、両親の見た目も言葉も自分が良く知るもの。以前の生活スタイルと大きく違うこともなさそうだ。何より、両親は私に惜しみない愛情を注いでくれているし、くりっとした目で嬉しそうに私を見つめる姉も優しい。だからきっと大丈夫と私は赤ちゃんライフをのほほんと送ることにした。
そして、15年後の4月。
私はめでたく全寮制男子校に通うこととなった。
そう、男なんです、私。
性別が変わってしまったが、私はそのことについて悲観していない。おそらく器に引きづられているのだろう。赤ちゃんライフ中、私は羞恥心を感じることもなければ、お腹すいたと思った瞬間泣くということが自然にできていた。欲求に非常に素直だった。同じように、“ついてる”と知って驚きはしたけれど、不快感もなければ違和感もなかった。そういうものだと受け止めていた。
ただ、恋愛対象がどちらかはまだ恋をしていないのでなんともいえない。女という生き物を良く知っているので幻想が抱けないせいなのか、どんなに綺麗な人や可愛い子を見ても観賞で満足してしまう。だからといって腐女子心をときめかせ男に走ろうにもイケメン見てもイケメンだなぁと思うくらいで、惹かれちゃう…ときん…みたいな展開はない。BLはファンタジーというのは真実だ。
女の子に生まれれば悩むこともなかったろうにと思うが、男の子の体も結構楽しい。インドアな自分が原因な気もするが、前より体力があるし、運動神経もしっかり通っているのでスポーツが楽しいし、マンガ週刊誌を毎週買おうとオタク扱いされないのだ。まぁアニメも思う存分録画して見てるから親はオタクだと認識してるだろうけど。でも腐女子の性で一発でばれる様なグッズを集めるよりも、ただのストラップだけど、実はキャラのイメージカラーとか類するものを集めて満足する性質なので、部屋は漫画を含め本が多いがいたってシンプルなものである。そもそも運動が得意な子ってそもそもオタクと結び付けられにくいのだ。オタクとばれないことは大事なことである。ちなみに所属は水泳部。夏は忙しいがお盆休みはあるし、冬は基礎トレくらいしかないので時間に余裕があるのだ。まぁいくら夏冬あいてたところで、祭典にはいけないんですけどね。そもそも遠いけれど、近かったところで私が欲しいのはBLの薄い本だ。3日目系じゃないんだ。
そういえばどうして趣味だけは前世と変わらないんだろう。今までなんとも思ってなかったけれどよく考えたら不思議だ。まぁ毎日楽しいから気にしないけどね!生ニアBL見放題だし!でも腐女子あらため腐男子としてはいつか通販とかで薄い本を手に入れてやると決意している。それまではオンで我慢!
なーんて思っていました。
奇跡が起きたのは3年前。いや、あれは偶然でなく必然かも。
高校生になったばかりの姉が目覚めたのである。
何にって腐女子に。
自分といっしょになってアニメやマンガをみてるあたり素養はあるだろうと思っていたけれど、流石に自分から薦めることは出来ないでいた。そんなある日勝手に持ち出されたマンガを探して姉の部屋に入り、見つけてしまったのである。R18ではないけれど、CP要素のある同人誌を。しかも私の押しCP。
その夜、私は礼儀正しく姉の部屋を訪ない、膝詰めで問いただし、姉が腐女子となった確証を得た。そして洗いざらい打ち明けたのである。
自分に前世の記憶があること。そして前世から引き続き腐っていることを!
姉は半信半疑ではあったが、妙に老成したところのある私を不思議に思っていたところもあって、最後には納得してくれた。ありがとう!
姉が友人に借りた同人誌を二人して読み漁り、お互い許容範囲が広かったので相違はあっても衝突はせず腐女子トークを繰り広げ、姉弟にしては非常に距離の近い友人のような関係を築けたのは本当に幸運だった。腐男子駄目な腐女子いるし。いささか調子に乗った私は高校進学にあたって野望を持った。
そう、王道学園に通うことである。
この世界でも王道学園ものが流行っていることはすでにリサーチ済みだったので、まだ版権物しか手を出していなかった姉にオリジナルも素晴らしいとすすめてみた。もちろん姉ははまってくれた。流石我が姉である。その萌えれるものはなんでも萌えろ精神嫌いじゃないぜ…?
ネタを流すことを条件に(まぁ条件にしなくても私には姉以外腐トークが出来る相手などネットの中にしかいないので話すに決まっているけれど)援護射撃をしてくれた姉のおかげで、私は王道学園を受験する切符を手に入れた。とはいえ、どんな王道学園でも良かったわけではない。ある程度交通の便がよく、自主性が高く、自分の責任の取れる範囲でバイトが出来ること。そして進学に有利であること。お遊びで人生を棒に振るわけには行かないので、将来性についてはしっかり考えた。選びに選んだ学園は幸いにも県内で、電車で2時間強。その日のうちに往復出来ないこともない距離である。私の高校進学と同時に大学生になった姉は隣県で一人暮らしをはじめることになったのだが、なんと自宅よりもそちらの方が近くて電車で40分程。姉の通う大学と自宅の間に学園があるのだ。両親は一気に手が離れ寂しがったが、長期休みには帰ってくるし、いまだにらぶらぶなんだから二度目の新婚生活を楽しんでくれと宥めると、それはそれで楽しそうかもなんて話になった。兄妹が増えたらどうしようとは姉の談である。
なにはともあれ、私はまた新しい生活をはじめる。
合格祝いであり、姉との萌連絡ツールである携帯を握り締め、私は―――俺は校門をくぐった。
出てこなかった主人公の今世の名前は遊佐樹。
前世は斎悠沙。