マクガフィン
バーのカウンターで飲んでいる私に、彼は唐突に小話を始めた。
「外国の有名な笑い話だ。ある男が道を歩いていると、前方から奇妙な男が歩いてきた。 男の頭の上には水がなみなみと入ったマクガフィンが乗っていて、男はそれをこぼさないようにそろりそろりと歩いていたんだ。そこで男は彼に声を掛けたんだ。『失礼ですが、どうして頭にマクガフィンを乗せているんですか?』。男は答えた…」
「ちょっと待ってくれ。そもそも『マクガフィン』って何だ?」
「お前、マクガフィンも知らないのか」
彼は戦慄の表情を浮かべた。周囲のざわめきが突然静まり、空気が凍ったかのようだった。
「マクガフィンを知らないなんてことが世間に知れたら…」
彼がそう言うが早いかバーの入口に屈強な男達が現れて叫んだ。
「マクガフィンを知らないと言うのは、あの男か!」
私は何が起きているのか分からないまま、その男達に連行された。
店から連れ出されるときに私と一瞬目が合った彼は、話のオチが話せず不満そうな顔をしていた。