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Ep.0 影の少女

運命の出会いの日の出来事です。

 キラーファミリーとは、ロベルツ王国にあるマフィア組織である。この国では最恐といわれ、裏社会最大の権力を誇っている。ファミリーにはホワイトキラー、レッドキラー、ブラックキラーの三つがある。メラーニャはホワイトキラーに生まれた。彼女は妹のリーリャと共に、幼い頃から母の後継者として教育を受けてきた。赤の一族は表との架け橋、黒の一族は暗殺、そして白の一族は貿易を担当する。つまり、“荷物”の種類と取引先をまず覚えなければならない。次には金融教育が始まる。メラーニャにとっては表の世界に強い憧れがあった。幼い頃はリーリャと共に、御伽噺をよく読んでいた。いつか、白馬の王子様が私達を迎えにきてくれると信じて。

 メラーニャの十歳のクリスマスの日、彼女はこの家から抜け出すと決意した。毎日のような母の叱責。父はどこへ行ってしまったのか。メイドは優しいが、それでは耐えられない。昔の夢を見てしまったメラーニャには、あまりに残酷なさだめだったようだ。


 二階の部屋からカーテンをつないで下へと降りる。ちょうど皆が寝静まった夜。もしかしたらジャックおじさんがいるかもしれないが、あの人は優しいので、見逃してくれるだろう。地面に素足で着地する。ひんやりとした感触と、植物の柔らかさが感じられる。初めての経験だ。外に出たことはこの何年で数回だ。それに、夜に一人で抜け出すことはなかった。地面に降り立ち、周囲を確認する。誰もいないようで安心した。風が吹いている。今は冬なのに、不思議と寒さは感じられない。母からの束縛を逃れたようで気持ちが軽い。唯一の心配はリーリャのことである。このまま戻ることがなければ、彼女は後継者となる。自分だけが自由になれるのだろうか。


「今は関係ないわ。私は今、自由なんだもの!」


 森を抜けて、街を目指す。一度だけ行ったことのある場所。昔のことでも意外と覚えているのだな、と思った。しかし、あまり体力がないせいか、すぐに疲れてしまった。足は所々血が滲んでいる。冷たさが徐々に足を蝕み、感覚がなくなっていた。ここはどこだろうか。がむしゃらに走り続けた事をすぐに後悔してしまった。


(足の感覚がないわ。...少し、休もうかしら)


このまま進むことができても、足が先に使い物にならなくなるだろうと確信した。メラーニャは暗闇の中、ただうずくまるしかなかった。


(あとどれくらい走ればいいの?)


考えども終わりが見えなかった。私はここで死んでしまうかもしれない。


「君、どうした」


いきなり声が聞こえた。どこから?周囲を見渡すと、灯りを持った少年が横に立っていた。後ろには彼の従者だろうか。こちらの様子を伺っている。


「あ、わ、私...」

「そんな薄着で一体何をしていたのだ?風邪をひいてしまうぞ」


そう言ってメラーニャの体にコートをかけた。とても暖かい。少年に礼を言う前に、彼は手を握った。手袋越しからでも、彼の温もりが伝わってきた。


「これはひどい...。おい、彼女を今すぐ運べ」


従者の内の一人がメラーニャを抱き上げ、馬車へと運ぶ。体はすでに凍えてしまい、意識も朦朧としてきた。そしてそのまま、眠ったのだった。



 目を覚ますと、そこは自分の部屋よりも豪華な部屋だった。周りにある家具は全て異国のものだろう。“荷物”の中で見たことのあるようなものだった。とても広い部屋。枕もふかふかである。暖かい布団。なんだかさらに眠たくなってしまったようだ。再び目を閉じようとすると、声が聞こえた。


「目が覚めたか?」


あの時の少年がそばに座っていた。よく見ると、メラーニャの手を握っていた。あまりの恥ずかしさに眠気が飛んでしまい、急いで体を起こす。


「よかった、元気そうだな」

「申し訳ございません、つい...」

「何を謝る?君は客人なんだ。気の済むまでゆっくりしていけ」


メラーニャと歳は変わらない見た目の少年は、彼女よりもしっかりしていた。彼は何者だろうか。貴族であることは間違いないが、この部屋から察するに、ただの貴族ではないだろう。


(そういえばどれくらいの時間が経ったのかしら。...2、3日は母様の耳に入らなければなんとかなるわ)


「君は、どこの人間だ?その服装は貴族であるだろうが、そのような見た目なら、見覚えがあるはずなんだがな」


正直に言うことはできない。なぜなら母から強く禁じられていることだからだ。自由になったはずなのに、どこからか見られているように感じ、話すことはできなかった。こちらの事情を察したのか、少年はそれ以上追及することはなかった。横目で彼の姿を見る。あの時はあまりよく見えなかったが、とても顔の整った美少年である。遠くを見つめるその瞳はどこか冷たさが宿っている。しかし、母とは違い、とても透き通っている。この人はもしや白馬の王子様なのか。そう考えると、彼の方を見ることができなくなってしまった。


「どうした?顔が赤い。寒い中薄着だったから風邪でも引いた...」

「いえ!そんなことはないですわ!」


いきなり顔を覗き込んできたのでびっくりしてしまった。反射的に反対側を向く。今は顔を見られたくないからだ。


「そうか。僕は医者を呼んでくる。念のため見てもらった方がいいからな」


そう言って彼は部屋を出た。夢のような時間はもう終わりだ。気づいていた。窓の外から誰かがこちらを覗いている。涙が溢れそうになるのをグッと堪える。またいつか、大人になれば、彼とさいかいできるかもしれない。この出来事は心にしまって、大切な宝物にしようと、メラーニャは決めたのだった。




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