7話 逆さ
空白ありすぎかな?
病室は、静かだった。
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機械の音だけが、一定のリズムで響いている。
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白い天井。
白い壁。
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その中で。
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白雪澪は、ベッドの上にいた。
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目は開いている。
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でも。
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どこか、遠くを見ているようだった。
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「……今日も来た」
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神崎陽斗は、そう言って椅子に座る。
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返事はない。
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それでもいい。
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「今日さ、天気よかったんだよ」
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何でもない話をする。
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「桜、まだ少し残っててさ」
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少しだけ、笑う。
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「なんか……見せたくなった」
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反応はない。
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でも。
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気にしない。
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「あとさ」
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一度、言葉を止める。
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「コーヒー、苦いのに飲むやついるじゃん」
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ふっと笑う。
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「俺、無理なんだよな」
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くだらない話。
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でも。
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それでいい。
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毎日、来る。
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話す。
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返事はなくても。
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続ける。
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それが、陽斗の選んだことだった。
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ある日。
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「……なんで」
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小さな声が、聞こえた。
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陽斗は、言葉を止める。
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「なんで、毎日来るの」
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澪が、こちらを見ていた。
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初めて、目が合う。
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少しだけ、驚いた顔。
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でも。
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すぐに、いつもの調子に戻す。
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「暇だから」
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軽く言う。
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「……嘘」
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即答だった。
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少しだけ、沈黙。
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陽斗は、視線を逸らさずに言う。
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「会いたいから」
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それだけだった。
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澪は、少しだけ目を見開く。
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そのまま、黙る。
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でも。
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拒まなかった。
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それだけで、十分だった。
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また、日が過ぎる。
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少しずつ。
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少しずつ。
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「……神崎」
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名前を呼ばれる。
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陽斗は、少しだけ驚く。
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「覚えた?」
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「……うん」
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小さく頷く。
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「よかった」
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それだけで、嬉しかった。
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ある日。
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「ね」
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澪が、ぽつりと聞く。
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「私たちって、どういう関係なの?」
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少しだけ、考える。
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正解は、分からない。
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でも。
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「これから決める関係」
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そう答えた。
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澪は、少しだけ笑う。
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「変なの」
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でも。
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その笑顔は。
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少しずつ。
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あの頃に、近づいていた。
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そして――
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ある日。
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「……桜」
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澪が、窓の外を見て呟く。
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「私……桜、好きだった気がする」
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心臓が、強く鳴る。
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「……なんでだろ」
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記憶じゃない。
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でも。
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“感情”が、残っている。
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陽斗は、少しだけ笑う。
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「じゃあ、今度一緒に見に行くか」
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澪が、こちらを見る。
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少しだけ。
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ほんの少しだけ。
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懐かしそうに。
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「……うん」
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頷いた。
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その瞬間。
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何かが、繋がる。
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記憶じゃなくて。
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今。
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ここにあるものとして。
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春の風が、静かに吹く。
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桜は、まだ咲いている。
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終わらなかった春。
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それは。
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やり直すための季節だった。
今から言えることは1章から見直せです




