11話 絶望
夜だった。
部屋の明かりは、つけていない。
カーテンも閉めたまま。
外の光も、ほとんど入ってこない。
神崎陽斗は、ベッドに座っていた。
スマホの画面だけが、暗闇の中で光っている。
通知が、いくつか溜まっていた。
講義の連絡。
どうでもいいメッセージ。
そして。
見慣れた名前。
白雪澪。
指が、止まる。
開こうと思えば、開ける。
でも。
開いたら、何かが終わる気がした。
ゆっくりと、電源ボタンを押す。
画面が、消える。
光が、消える。
部屋が、完全に暗くなる。
それだけで。
少しだけ、楽になった気がした。
でも。
すぐに、分かる。
何も変わっていない。
目を閉じる。
暗い。
でも。
さっきより、少しだけうるさい。
頭の中が。
勝手に、再生される。
声。
言葉。
「嘘なんだろ」
「うん」
「好きだから」
止められない。
消せない。
耳を塞いでも、意味がない。
ベッドに倒れる。
天井は見えない。
でも。
見えてる気がする。
さっきの光景。
カーテン越しの影。
聞こえてしまった声。
全部。
やり直せない。
もし、あのとき。
ドアを開けていたら。
もし、聞かなかったら。
そんなことを考える。
でも。
意味がない。
どっちにしても。
変わらなかった気がする。
「……なんだよ、それ」
声が、漏れる。
誰に向けたものかも分からない。
怒りか。
悲しみか。
それすら、はっきりしない。
ただ。
胸の奥が、ずっと重い。
息をするのが、少しだけ苦しい。
横を向く。
何もない。
当たり前なのに。
少しだけ、違和感がある。
隣に誰かがいたような。
そんな感覚。
でも。
すぐに、消える。
「……は」
小さく、笑う。
笑えていない。
でも、笑うしかない。
優しいから。
ちゃんと終わらせないと。
その言葉が、頭に残る。
だったら。
最初から、来なければよかった。
そう思う。
でも。
すぐに、否定される。
あの時間は、確かにあった。
あの笑顔も。
あの声も。
全部、本物だった。
それが、余計にきつい。
嘘じゃない部分があるから。
全部を否定できない。
だから。
消せない。
スマホに、手を伸ばす。
電源は切れている。
そのまま、置く。
連絡は来ているかもしれない。
何か言葉があるかもしれない。
でも。
見たくなかった。
今は、まだ。
無理だった。
目を閉じる。
眠れない。
でも、起きているのもきつい。
時間が、やけに遅い。
時計の音が、やけに大きく聞こえる。
一秒。
また一秒。
そのたびに。
胸の奥が、少しずつ削れていく。
涙は、出ない。
出そうで、出ない。
どこかで、止まっている。
それが、逆に苦しい。
息を吐く。
深く。
ゆっくりと。
それでも、軽くならない。
ただ。
同じことを繰り返す。
考えて。
否定して。
また思い出して。
その繰り返し。
終わらない。
夜は、長かった。
朝が来る気がしなかった。
それでも。
少しずつ。
外が、明るくなる。
気づけば。
窓の向こうに、薄い光が差していた。
春の朝。
何も変わらないはずの景色。
でも。
昨日までとは、少しだけ違って見えた。
何かを、失ったあとみたいに。
空っぽになった場所だけが、残っている。
ゆっくりと、体を起こす。
重い。
でも。
動けないわけじゃない。
それが、また現実だった。
スマホを手に取る。
電源は、まだ切れたまま。
しばらく見つめて。
そのまま、机に置いた。
まだ、いい。
今は、まだ。
向き合えない。
立ち上がる。
足元が、少しだけ不安定。
でも。
倒れるほどじゃない。
それでも。
進むしかなかった。
春は、続いている。
止まってはくれない。
だから。
無理にでも、歩くしかなかった。
書くのやめとけば、って思うくらい辛い




