酒場
「冷えるね…」
「あぁ、昨日と比べて寒いな…」
今日は少し気温が低いようで、身に付けているマントだけでは肌寒い。
だが町の通りは寒さなんて知らないというように賑わっている。
すると、ヘンブランが足を止める。
「着いたぞ、ここが『森守の酒場』だ」
それは酒場と言う割にはひっそりとしており、上品といった印象だ。
看板には大木とその木を包み込むエルフの絵が書いてある。
店に入ると吟遊詩人の唄と厨房での調理の音が聞こえる。
「いらっしゃいませ、こちらの席へどうぞ」
ウェイターの1人が私達を席へ案内する。
「ご注文がお決まりになられましたらお呼びください」
「うん、ありがとう」
ウェイターはメニューを渡した後、厨房の方に入っていった。
「今の子、可愛いだろ?」
ヘンブランが囁いてくる。
「まさか、それが目的で連れてきたんじゃないだろうね?」
「そんなわけ無いだろ。ついでだよ、ついで」
「何がついでなんだか…」
私は渡されたメニューを開いてみた。
ざっと見ただけでも30品はあるだろう、ただの酒場にしてはかなり多い。
「決められないな…ヘンブラン、おすすめは?」
「待ってました!俺のおすすめはこれだ!」
ヘンブランがメニューを指差した、見るとそこには『カレー』と書いてある。
「なにこれ、知らないんだけど。看板メニュー?」
「お前は本当に里の外のことを知らないんだな…」
たしかに私は里の外のことを殆ど知らない、だがなぜかヘンブランに言われると腹が立つ。
「カレーっていうのは数年前に異世界から召喚された勇者様が広めた食べ物だ」
「へぇ、じゃあそれでいいや。また勇者なんて召喚してたんだね」
私とヘンブランはウェイターにカレーを注文した。
ヘンブランの顔が少しニヤついてて気持ち悪かったが。
「さあ、待っている間に話をしようじゃないかエルフィ。勇者に会ったことがあるのか?」
「うん、まぁ一応ね」
勇者に会った回数は2回ほど、1人目はまだ50歳ぐらいのときに出会った。
魔王を討伐する途中でポーションが欲しいと言って里に来たはずだ。
その勇者はたしか魔王を倒せずに死んでしまった。
2回目は300年くらい前だった。
里の知り合いに頼まれて薬の素材を取りに行っていたときだ。
素材は東側のオストレイト大陸のダンジョンでしか取れないものだった。
その際に少し勇者と共闘したのだ。もちろんその後は全く会っていないが。
たしかその勇者は魔王を討伐したものの、魔王の残滓を残してしまったらしい。
「懐かしいな…勇者か…」
「いや勝手に懐かしむなよ。話せ、俺に」
「わかったよ」
私はヘンブランに勇者の話をした。




