商人
「ちょっと待てよ…エルフの嬢ちゃん…」
男が私の肩を掴む。逃げようにも逃げられない。
しょうがない、魔法で迎撃するしか…
「あぁ…すまん、力強すぎたな。ちょっと興奮しちまってよ…」
「え…?」
「いやぁ…まさかエルフに出会えるなんてな…人生やめたもんじゃねぇな」
どうやら、男は人生初のエルフとの遭遇にとても興奮していたらしい。
エルフの里に行けばいつでも会えるのに…おかしなやつだ。
「私を捕まえて売り捌くんじゃないんだ…」
「え?捕まえて売り捌く…?ブッハハハ!」
男が腹を抱えて大声で笑う。
「んなわけないだろ。エルフは生ける知識って言われてんだぞ?捕まえるなんて国が絶対に許さないだろ」
「そうだったんだ…」
数十年外に出ていない弊害を実感した。
「そういや、自己紹介してなかったな。俺の名前はヘンブランだ、商人をしてる。よろしくな、エルフの嬢ちゃん」
「よろしく、ヘンブラン。あと、エルフの嬢ちゃん呼びはやめて。エルフィって名前があるんだ」
「エルフィねぇ…いい名前じゃねえか」
ヘンブランが、もうすっかり茜色に染まった空を見つめる。
「もうそろそろ宿に戻らないとだな。嬢ちゃ…エルフィはどこに泊まるんだ?」
「私も宿に泊まるかな…いい宿知らない?」
「どんな宿がいいんだ?」
「ご飯が美味しくてお風呂があってベッドがフカフカな所が良いね」
他にもいろいろあるが3つに絞ろう、最低これがあれば十分だ。
「なら俺が泊まってる宿とかどうだ?今まで泊まってきた宿の中で5番目にいい宿だぜ?」
「じゃあそうしようかな」
そうして私とヘンブランは宿へ向かった。
「なんでエルフィと同室なんだよ…」
「それは私のセリフだよ…」
話は数分前に遡る――
「ここが俺の泊まってる宿だ」
ヘンブランがまるで自分のものかのように自慢げに紹介する。
「おっちゃん!この人がこの宿使うってよ!」
フロントの受付をしているだろうおじさんに、ヘンブランが私を紹介する。
「おうよ!じゃあお前と同じ部屋だな!」
「へぁ?!どういうことだよ!俺は自分の部屋で――」
「お前さん、今日の宿代払ってないからな。個室は満室だから2人部屋で仲良く、な?」
ヘンブランの顔が一気に青ざめる。
「すまねぇなエルフィ。別の宿に行ってくれ、俺は1人で二人部屋に――」
「それは困るなぁ、お客さん?」
フロントのおじさんがヘンブランの背後に忍び寄り、頭を鷲掴みにした。
「痛てぇ!はなしてくれ!頼む!」
「じゃあそこのお客さんと仲良く同室でいいな?」
「え…ちょ――」
「わかった!わかったから!」
「私の意志は?」
そうして、私達は2人部屋に宿泊することになった。




