野宿
「困ったな…」
里を旅立ってから数時間、日はすでに沈み始めていた。
「今日中にネーヘまで行こうと思っていたのに…」
ネーヘはエルフの里に近いことで栄えた町だ。
数十年前までは森を半日も歩けば余裕で到着できた。
だが辺りは一面の森で人の気配一つもない。
「あの町もなくなっちゃったのかな…」
数十年なんてエルフにとっては短い時間だ、だが人間にとっては違う。
数十年もすれば身体は老い、衰えていく。
きっとあの町も数十年のうちに衰え、消えてしまったのだろうか?
それにしても、今夜は泊まる場所がない。
「となると、今夜は野宿かな…」
そういって私は魔法で野宿の準備を始めた。
「テントを張る魔法は…これか」
魔導書の中からテントを張る魔法を探し出す。
この魔導書は、長年の魔法収集で集まった魔法の詠唱が数万個と載っている。
詠唱を始めるとどこからかテントの部品が現れ、ひとりでに組み立て始める。
「この魔法、消費魔力が多いんだよね。毎日は使えないな…」
こうして文句をたれているうちに立派なテントが出来上がった。
テントの中は空間拡張魔法によって広々としていて、シャワーが備え付けてある。
家具こそないものの一泊する宿として申し分ない出来だ。
「グゥゥゥ…」
魔法の出来に感心していると、いきなり腹がなりだした。
そういえば出発してから、リィレに渡されたパンと干し芋しか食べていなかった。
流石にパンと干し芋は、美味しいには美味しいがすぐに飽きてしまう。
だからといって、さすがの私でも腹を満たす魔法は持っていない。
「料理するしか無いか…面倒くさいな…」
私は、料理があまり得意ではない。
リィレに教えてもらったこともあるが上手くできた試しが全くないのだ。
食べて腹を満たすことができれば十分だと思っているからだ。
腹を下したりしなければ、味は二の次でもいいだろう。
私はバッグになんとなく必要かと思い詰めてきた調味料や食べられそうな諸々を混ぜ合わせた。
そうして数分後、禍々しい色の液体ができた。
自分で作っておきながら言うのも何だが、見た目はかなりひどい。
だが、見た目は関係ない。腹を満たせればそれでいい。
私はその液体を口へ運んだ。
正直なんとも言えない味だったが、腹を満たすことはできたからいいだろう。
食べ終えた私は、テントでシャワーを浴びた後、ベッドに横になった。
それは魔法で作られたとは思えないほど心地よく、一瞬で私は眠りについた。
「もう朝か…」
目が覚めると、外はもう明るくなっていた。
もう数時間寝ていたいと思ったが、こんなことで時間を無駄にはしていられない。
私は寝起きの重いまぶたをこすり、まずは日に当たろうとテントの外に出た。
そこには深く広大な森とその森を照らす朝暾があり、
鳥の囀りと草木の揺れる音が聞こえた。
私は、数十年ぶりにこんなに美しい朝日を見た。




